株式投資にアノマリーは役立つ? トレーダーがやっている1週間の相場予測
《株の世界には様々な「アノマリー」があります。必ずしもアノマリーどおりに動くわけではありませんが、成功するトレーダーは曜日ごとのアノマリーも意識して、日々の相場と向き合っているようです》
そもそもアノマリーとは?
アノマリーとは相場における経験則のことで、理論的な根拠はないものの非常によく当たる場合もあり、相場格言として長く言い伝えられているものも数多くあります。
アノマリーの中には単なるジンクスのようなものもありますが、その反面、これまで数多くの市場参加者が相場で経験してきたことの結晶とも言えるアノマリーもあります。そして、そうしたアノマリー(経験則)というのは、株を始めたばかりの初心者には知る由もないものであることも多いのです。
知識としてのアノマリーを備えたうえで株式市場に参加するのと、他の多くの市場参加者は知っている「当然のこと」を知らずに取引を行うのとでは、精神的にも技術的にも、大きな差が出てくるでしょう。
もちろん、必ずアノマリーどおりになるというわけではないので、それだけをアテにするのは危険ですし、注意が必要なものもあります。しかしながら、人々の経験から導き出された相場の「傾向」を知っておくことは、株式市場で戦ううえで非常に有益です。
曜日アノマリーの実力やいかに
「夏枯れ相場」「セルインメイ」など季節や時期ごとの相場の特徴を示すアノマリーはよく知られていますが、実は、曜日ごとにもアノマリーがあります。4つの曜日アノマリーと、それぞれの意味や注意点、さらにアノマリーを逆手にとる方法についてもご紹介します。
【曜日アノマリー①】月曜の株安
「月曜の株安」とは、「月曜日は株価が下がりやすい」という有名なアノマリーです。
これは、株価の下落を招くような悪材料は、なるべく週末の金曜日に出したいという企業側の心理が影響しています。土日を挟むことで投資家たちが一旦冷静になり、株価の乱高下を抑えられると考えられているからです。
しかし、週が明けてもパニックが収まらず、月曜日の寄り付きで売りが出る可能性もあります。そのため、月曜日には株価が下がりやすい、という傾向が生まれたのです。
・「月曜の株安」を逆手に取るには
このアノマリーは、週末に出た悪材料を受けて短期的に株価が下落する傾向を示しています。言い換えると、こうした展開で下落した株価は、すぐにリバウンドする可能性が高いということでもあります。
そこで、「月曜の株安」を逆手に取り、株価が大きく値下がりしたところで買いを入れ、株価が戻ったところで売るという「逆張り」を仕掛けることもできます。「月曜の株安」で下がった後のリバウンドに期待するわけです。
ただし、絶対にリバウンドするという保証はありませんし、予想以上に売り買いが交錯して株価が乱高下する場合もあります。また、思惑どおりリバウンドしても売るタイミングを計っているうちに再度下がってしまう、といったミスを犯さないように準備しておく必要もあるでしょう。
【曜日アノマリー②】魔の水曜日
「魔の水曜日」とは、「SQ値の算出がある週の水曜日は、相場が軟調になりやすい」というアノマリーです。
SQ(特別清算指数)とはSpecial Quotationの略で、最終的な決済期日で用いられる特別な価格(指数)のことを指します。先物取引やオプション取引はいつまでも保有し続けることができないので、期限までに決済しなかったときはSQ値で自動的に決済されます。
SQが算出される日は商品によって異なり、日経225先物取引の場合は3・6・9・12月の第2金曜日、オプション取引は毎月第2金曜日です。
SQ値の算出がある週は市場が荒れやすい傾向があり、とくに先物取引とオプションのSQ算出が重なる3・6・9・12月の第2金曜日は「メジャー SQ」と言われ、市場での売買が活発になります。
「魔の水曜日」と呼ばれる理由は、SQ直前である水曜日に現物価格と先物価格の裁定取引(価格差を利用して利益を上げること)を狙ったヘッジファンドなどの思惑が働き、相場が軟調になりやすいと考えられているからです。
この「SQ週の水曜日に売られやすくなる」という傾向は、とくに東証1部に上場している銘柄に当てはまります。先物取引やオプション取引は、日経平均株価やTOPIXといった東証1部上場銘柄が対象だからです。
そのため、マザーズやジャスダックなどの新興市場の銘柄は「魔の水曜日」はあまり関係ありません。
〈参考記事〉なぜ株価が上昇しているのか? SQが株価に与える影響を理解する
〈参考記事〉「先物主導で日経平均が上昇」とは? 裁定取引が市場に与える影響を知る
【曜日アノマリー③】金曜日は売りが出やすい
金曜日は株式が売られやすい曜日だと言われています。
土曜日と日曜日は株式市場が閉まっているため、その間に何か大きな材料が出ても、株式を売ることができません。そのため、金曜日から週末にかけて大きなポジションを持ち越すことに不安を感じるのは、投資家として当然の心理です。
同様に、連休前にも株式が売られやすくなる傾向があります。とくにゴールデンウィークや年末年始といった長期休暇前は、株式を持ち越したくない投資家からの売りが出るので、全体的に軟調になる傾向があります。
また、休みや大型連休が明けた後も注意が必要です。株式市場が閉まっている間に企業の悪材料が出たり、世界経済に大きな動きがあったりすると、休み明け最初の営業日には大幅に株価が下落した状態でスタートする可能性があるからです。
とくに短期トレードをしている場合は、長い休みの前にはポジションを軽くしておく習慣を身につけておくほうがいいでしょう。
【曜日アノマリー④】第1金曜日は様子見ムード?
厳密にはアノマリーではないのですが、ぜひ意識して注意しておいていただきたいのが、毎月の第1金曜日です。
毎月第1金曜日は、世界中のマーケットに影響を及ぼすアメリカの経済指標が発表される日です。それは、アメリカの「雇用統計」。当然、この内容は日本株にも大きな影響を与えます。
雇用統計には、失業率、平均時給、非農業部門雇用者数、金融機関就業数、製造業就業数、建設業就業数など十数項目があり、アメリカの景気の実体を表す最新の数値として多くの市場関係者が注目しています。
アメリカでこの雇用統計が発表されるのは毎月第1金曜日の朝9時30分ですが、日本時間では毎月第1金曜日の夜22時30分(夏時間の場合は夜21時30分)となります。そのため、この日の日本市場は、一日をとおして様子見ムードが強まる傾向にあるのです。
このほか、アメリカの金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)も非常に注目されます。FOMCは基本的に6週間ごとの火曜日に年8回開催されており、その他にも必要に応じて随時開催されます。
経済指標やFOMCの結果によって翌日の日本の株式市場は大きく動く可能性もあるので、ポジションを大きく持っているときは注意が必要です。
〈参考記事〉アメリカが利下げすると日経平均は? FRBの金融政策が日本の株価に与える影響とは
〈参考記事〉「どれを買うか」より大切な「いつ買うか」 相場の先を読むマクロイベントとは
曜日アノマリーを効果的に活用するには
このように、曜日アノマリーとは文字どおり「その曜日」の相場の傾向を表しています。
したがって、これらの曜日アノマリーを参考にして取引をするなら、長期保有を前提とした投資は向いていません。1年後や3年後の株価上昇を期待して投資するのに、曜日ごとの傾向はさほど関係ないからです(購入・売却のタイミングを決める場面では参考にできるでしょう)。
その一方で、短期間で売買を行うトレードをする場合には、日ごとの相場状況の影響を受けやすいため、これら曜日アノマリーを意識しておくことで、うまくチャンスをつかめるかもしれませんし、何よりも「知っていれば出さずに済んだ損失」を免れることができるでしょう。
スイングトレードのメリット
トレード(短期トレード)には主に2つの手法があります。1日で売買を完結させるデイトレードと、数日から数週間程度で株を売買するスイングトレードです。
トレードや短期売買と聞くとデイトレードを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、その日のうちに取引を終わらせる、それも数多くの銘柄を同時に手がけるとなると、一日中パソコンに張りついて相場を見ている必要があり、他の仕事をしている人にはなかなかできない手法です。
それに対してスイングトレードは、日中の値動きはさほど意識する必要がなく、また、デイトレードほど大量の取引はしないので、手数料も少なく済みます。さらに、株式を数日から数週間保有するため、1回のトレードにおける利益幅はデイトレードよりも大きくなります。
曜日アノマリーは、とくにスイングトレードで活用できます。上でも紹介したように、株安になる可能性のある月曜日に仕込み、リバウンドして高くなったところで売却する、などの手法が考えられます。
普段は長期保有の投資をしている方でも、時には曜日アノマリーをもとにスイングトレードをしてみることで、それまで見えていなかった相場の流れに気づいたり、自分とは違う市場参加者の視点を得られるなど、株式投資の新たな扉を開くことにつながるかもしれません。
〈参考記事〉「投資」と「トレード」は別物 株の勉強をする前に知っておくべき大事なこと
アノマリーでいちばん大切なこと
アノマリーについては、明確な理由を説明できないものも多いことから「迷信みたいなもの」と思っている人もいるかもしれません。しかし、理由や根拠があるかどうかは、さほど重要なことではありません。
なぜなら、アノマリー自体には理論的な根拠がなくとも、それを信じる投資家が多ければ、アノマリーどおりに相場が動いてしまうからです。夏は市場参加者が減って相場が軟調になる、だから夏はあまり取引をしないでおこう……と考える人が多くいることで実際に「夏枯れ相場」になる、というわけです。
ただ、そうは言っても、アノマリーを過信してはいけません。あくまでも「過去の相場ではこうなることが多かった」という傾向を示すものだと捉えて、取引する際の参考情報のひとつとして見ることを心がけてください。
アノマリーを活用するうえで大切なのは、統計上の優位性です。曜日アノマリーに限らず、「株式市場にはこのような傾向があるのではないか」と考えて、相場を多角的に捉える。そうして得た気づきを検証し、自身の取引に活かすことが、マーケットでの優位性を持つために大切なことなのです。