勝ち続ける投資家がいまだから語る、「ストーリー」と「リスク管理」の重要性

朋川雅紀
2022年1月21日 11時30分

《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

勝つために不可欠な「ストーリー」

株で儲けられる人は「ストーリー」を正しく構築することができます。

「ストーリー」を構築するとは、どういうことでしょうか? これは、どういった要因が株価上昇の牽引役になるのか、その企業はどのくらい成長できるのか、どういったリスクが存在するのか、などの全体像を把握し、株価の方向性をイメージすることを意味します。

株式投資とは何かと聞かれれば、私は、「1にストーリー、2にテクニカル、3にバリュエーション」と答えます。ただ、理想を言えば、実際には「1にストーリー、2にストーリー、3、4がなくて、5にストーリー」と言ってもよいくらいだと思っているのです。

それほどまでに、ストーリー構築力はとても重要です。ストーリー構築力こそが「運用力」と言ってもいいかもしれません。

ストーリーこそ最大の攻撃

結局のところ、なぜ「テクニカル」や「バリュエーション」を見るかと言うと、失敗するリスクを下げるためです。要するに、「テクニカル」や「バリュエーション」はディフェンスの役割を担っていると言えます。

それに対して、「ストーリー」にはリスク評価も含まれますが、主にはリターンを狙いにいくためのものです。攻撃は最大の防御と言うように、素晴らしい攻撃力があれば、防御などあまり必要ないのです。高いストーリー構築力(分析力)があれば、「テクニカル」や「バリュエーション」は必要ありません。

例えば、多くの顧客の支持を得て、他社には真似できない商品やサービスを提供して、売上や利益を伸ばし続けるような企業を見つけることができれば、その企業に投資することができます。そして、時間の経過とともに、その企業よりも安くて質の高い商品・サービスを提供するライバルが現れ、その企業の売上や利益に陰りが出てきたことを察知できれば、うまく売り抜けることもできます。

要するに、「バリュエーション」や「テクニカル」を使わなくても株で儲けることは可能なのです。と言っても、もちろん実際は、“完璧”な分析力をもつことは難しいので、「テクニカル」や「バリュエーション」もあわせて使うべきですが。

ストーリー構築力を身につける「メモの力」

ところで、ストーリー構築力を身につけるにはどうしたらいいのでしょうか?

残念ながら、ストーリー構築力は一朝一夕で身につくものではありません。日頃の努力が必要です。例えば、私はいつも手帳を持ち歩いています。これには、投資のアイデア、気になる情報、おもしろそうな本などをメモしています。いわゆる「ネタ帳」です。

みなさんも「株専用の手帳」を持ってみてはいかがでしょう! 投資に役立つ情報や売買の記録など、株関係の情報を1冊に集約するのです。そして、投資行動を起こす前に必ず、なぜ買いなのか、なぜ売りなのか、その「理由」を書きます。まさか「人気があるらしいから買い」なんて書けないですよね。

なぜ人気があるのか、その人気はどのくらい続きそうなのか、実はもう人気のピークに近づいているのではないか……。「理由」を書こうとすると、いろいろなストーリーを考えるはずです。そのことが、株式投資においては非常に重要です。

そして、定期的(半年後、1年後、2年後など)に見直してみると、知らず知らずのうちに「ストーリー構築力=運用力」が身についていることがわかるはずです。

一流と二流を分ける「リスク管理」

株で儲けられる人は「リスク管理」もしっかりできています。一流の投資家と二流の投資家の最大の違いが、この「リスク管理」と言ってもいいかもしれません。完璧にストーリーを構築することができればリスク管理はそれほど重要ではありませんが、それは現実的とは言えません。

「リスク」とはおもしろいもので、実現してはじめて気づくものです。実現されるまでは、単なる「可能性」でしかありません。しかも、リスクは必ず実現されるものでないから厄介です。だから、ついつい軽視しがちになるのです。必ず起こるとわかっていれば、誰でも気をつけます。

「リスク管理」とはディフェンス(守備)です。そして、ディフェンス(守備)とは“最悪”の事態に備えて行動することです。つまり、できるだけリスクを取らないことです。

反対に、オフェンス(攻撃)は“最良”の事態を想定して行動すること、つまり、リスクを取ることです。リスクを取らなければ、リターンは得られません。リスクを取る見返りにリターンがあるのです。リターンが欲しければ、リスクを積極的に取らなければいけません。

投資の世界にフリーランチ(タダ飯)はありません。サッカーの試合と一緒で、株式投資では、相容れないこの2つのこと(ディフェンスとオフェンス=リスク管理とリスクテイク)を同時にやらなければならないのです。

あなたは何を根拠に株式投資をするのか

では、どう考えたらいいのか? それは「あなたが何を根拠に株式投資をするのか」によります。

つまり、こういうことです。「どんなリスクだったら取ってもいいか」「どんなリスクだったら取りたくないか」、それをはっきりと意識するのが株式投資です。取りたいリスクを取って、取りたくないリスクは極力排除するのです。

具体的に考えてみましょう。

あるところに「デリシャス・ポーク」という豚丼チェーンがありました。「デリシャス・ポーク」の豚丼の味は他社には真似のできないものでした。そこでライバル会社は、豚丼の味では勝負できないと、メニューの多さで対抗していました。

一方の「デリシャス・ポーク」は豚肉の質を重視し、材料である豚肉には100%鹿児島産の黒豚を使い、豚肉の調理は一括して鹿児島工場で行っていました。

「デリシャス・ポーク」の大ファンだった投資家の田中さん。「ここの豚丼はおいしいし、人気がある」ということで、「デリシャス・ポーク」の株を買いました。ところが数カ月後、鹿児島で大地震が発生し、豚肉の供給が断たれた「デリシャス・ポーク」は苦境に立たされました。

言うまでもなく、「デリシャス・ポーク」の株価は大幅安となりました。田中さんは「なんてツイてないんだ……」と、ため息をつくしかありませんでした。

この話を読んで、みなさんはどう感じましたか? 確かに田中さんが言うように「ツイてなかった」だけかもしれません。でも、ちょっと考えてみてください。

「デリシャス・ポーク」にとって、豚丼は看板商品です。その看板商品の主要な材料である豚肉を1か所だけに頼っているというのは、とても危険なことではないでしょうか。少し厳しい言い方をすれば、投資家である以上、そのリスクを理解している必要があったのです。

リスクを理解したうえで株を買っているか

ここで問題にしているのは、田中さんが「デリシャス・ポーク」の株を買ったことではありません。「デリシャス・ポーク」が抱えていた「『豚肉の調達を鹿児島だけに頼っている』というリスク」を理解したうえで株を買ったかどうか、それが問題なのです。

「デリシャス・ポーク」が大好きで応援したいという理由から、このリスクについても納得ずくで株を買っていたのであれば、株価が下がっても諦めがつくはずです。

話をわかりやすくするため、単純に2つのリスクだけに注目してみます。

  1. 「デリシャス・ポーク」の豚丼の人気がなくなるリスク
  2. 「デリシャス・ポーク」が豚肉を調達できなくなるリスク

おそらく、田中さんは、①のリスクは取ってもよくて、②のリスクは取りたくなかったはずです。

でも、悲しいかな、「デリシャス・ポーク」に投資する場合、①のリスクだけを取って、②のリスクを取らないというわけにはいきません。ということは、もし②のリスクを取りたくないなら、投資は断念せざるを得ないのです。

「願望」で投資をしてはいけない

私自身、今でこそ偉そうにこんなことを書いていますが、過去には似たようなミスを何度も犯しました。

以前、高成長株に強いこだわりを持って投資していた時期があります。その当時、商品の評判が良くて高い利益成長を実現している、ある企業に目を付けました。売上の多くを特定の数社に依存していて、顧客の分散が十分ではないことが気にはなっていましたが、「既存顧客はその企業との取引を継続するだろう」と勝手に思っていたため、私はその企業の株を買うことに決めました。

その後、上位顧客のうちの1社が契約を見直すことになり、そのニュースで株価は急落したのです。

このように、自分の「思い込み」や「願望」で投資をしてはいけません。まずはリスクを知ること、それが「リスク管理」の原点です。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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