IPO市場もついに回復か。初物期待でも明暗が分かれた銘柄の違いはどこに?

石井僚一
2022年12月12日 12時00分

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《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。ただ近年は、そんな「夢の時代」にも陰りが見えてきました。上がる株と下がる株は何が違うのか。ランキングから読み解く【IPO通信簿】》

2022年11月のIPO市場

11月はIPO市場のバロメーターとなるマザーズ指数が上昇しました。マザーズ指数は10月と11月の2か月続けて上昇しており、本年1月の急落後の底値圏を若干上に抜けた状態です。

2022年のマザーズ指数は、1月の急落後に底値圏での推移が続き、マザーズ指数の影響を受けるIPO市場も低迷を余儀なくされました。しかし10~11月の上昇により、いよいよ本格回復に向けた動きが始まった可能性があります。

(※市場再編により東証マザーズ市場はなくなりましたが、マザーズ指数の算出は継続中のため、このシリーズでは引き続きマザーズ指数を参照しています)

2022年11月IPOランキング

11月は5銘柄がIPOを果たしました。10月の9銘柄に比べると減少しましたが、12月に26銘柄のIPOを控えており、端境期といえます。

それでは、11月にIPOした5銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングを見てみましょう。

23まで伸びていたIPOの連勝記録は、11月最初のIPO銘柄となったベースフード<2936>が公募割れとなったことで、残念ながらストップしました。ただ、他の4銘柄はいずれも初値騰落率プラスとなりましたので、IPO市場は引き続き堅調といえるでしょう。

また、11月のIPO銘柄には、初値が高騰する傾向にあるAI関連銘柄がありませんでした。その一方で、食品、SaaS、医療用品開発、宿泊予約サイト、eスポーツと幅広い業種の銘柄がIPOを行いました。

2022年11月の気になるIPO銘柄

2022年11月のIPO銘柄のなかから、特徴ある2銘柄を紹介します。

・ベースフード<2936>──初物期待も強気の株価設定が裏目に

低脂質、低糖質、低塩分でたんぱく質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなど、1日に必要な約30種類の栄養素が含まれるパン・パスタ・クッキーなどの「BASE FOODシリーズ」の開発・販売を行う食品ベンチャー企業です。

過去の業績と今期(2023年2月期)の業績予想は以下のとおり。

  • 2020年2月期:売上高4.2億円、経常利益▲4.2億円、当期純利益▲4.6億円
  • 2021年2月期:売上高15億円、経常利益▲1.5億円、当期純利益▲1.6億円
  • 2022年2月期:売上高55億円、経常利益▲4.6億円、当期純利益▲4.6億円
  • 2023年2月期(予想):売上高102億円、経常利益▲9.2億円、当期純利益▲9.3億円

右肩上がりで増収を続けており、2020年2月期には売上高5億円に満たない状態でしたが、今期(2023年2月期)は100億円突破が予想されています。ただし赤字が継続中で、2022年2月期の経常利益▲4.6億円から、今期は▲9.2億円まで赤字額が拡大する予想です。

あまり例を見ない食品ベンチャーのIPO、かつ、赤字ながらも急成長中の企業ということで注目を集めました。しかし、結果としては初値騰落率▲11%となり、IPO市場の連勝記録を23で止める結果に。

今期の赤字額(▲9.2億円)が前期比約2倍という予想で、また、赤字ながら公募時点での時価総額は406億円でした。加えて公募2,723,100株、売出4,645,200株と売出株のほうが多く、これらの点が逆風になった可能性があります。

公募価格800円に対して初値710円となった後も下落が続き、12月9日の終値は507円。初物期待から強気の株価設定でIPOに臨みましたが、下落が続く株価を見ると、少々強気過ぎた……といえそうです。

・ウェルプレイド・ライゼスト<9565>──初のeスポーツ専業銘柄は大ホームラン!

eスポーツのイベント企画・運営などを手掛けるウェルプレイド・ライゼスト。ほかにも、eスポーツ選手のスポンサー仲介を行うなど、eスポーツ周辺の手堅いビジネスモデルの企業と言えます。eスポーツ専業の企業としては初のIPO銘柄となりました。

過去の業績と今期(2023年2月期)業績予想は以下のとおり。

  • 2019年10月期:売上高5.6億円、経常利益▲0.7億円、当期純利益▲0.4億円
  • 2020年10月期:売上高8.3億円、経常利益0.0億円、当期純利益▲0.0億円
  • 2021年10月期:売上高16億円、経常利益1.3億円、当期純利益0.8億円
  • 2022年10月期(予想):売上高20億円、経常利益1.5億円、当期純利益1.0億円

eスポーツ市場の拡大とともに着実な増収が続いており、2021年10月期に黒字化しました。今期も増収増益を予想しています。

カヤック<3904>が株式の58%を所有する子会社で、また公募200,000株、売出296,200株と若干売出株が多く、IPOには若干不利な状態でのIPOでした。しかし結果は、初値騰落率429%(1,170円→6,200円)で、公募価格から5倍以上の初値がついた大ホームラン銘柄に。

初のeスポーツ専業銘柄ということで、初物好きのIPO市場から見事に好かれた銘柄となりました。時価総額も、公募時点では31億円でしたが、初値時価総額は167億円となり150億円を突破しています。

12月に入ると株価は公募価格を割れてしまいましたが、そのことも、IPO市場の初物好きが再認識させられたと言えるでしょう。

今年最大のIPO。あの銘柄はどうなる?

例年12月は、年間を通じてIPOが最も多くなる月です。今年も26銘柄のIPOが予定されており、2022年の最多となる見込みです。その中には、スカイマーク(12/14上場予定)やnote(12/21上場予定)など、比較的知名度のある銘柄も。

12月に入り、日米の株式市場は上昇に息切れが見られます。その中で、今年最大のIPO月間をどのように迎える。期待銘柄も多く初値の動向に注目が集まります。

[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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