なぜ日本の個人投資家は株よりもFXに手を出すのか。日本株を盛り上げるために今すべきこと
《FXでの個人投資家の存在感が高まり、店頭FXの月間取引金額は1000兆円を突破。銀行間取引に匹敵するまでになっています。一方、国内の株式市場での個人投資家の保有比率は低下。株式市場で個人投資家の存在感が低下している理由について解説します》
活発化する個人投資家のFX取引
金融先物取引業協会が公表した資料によると、2022年4月の店頭FX取引金額は1002兆円となりました。1000兆円を超えるのは、コロナショックが起きた2020年3月以降、2年ぶりのことです。
世界的なインフレ懸念からアメリカやヨーロッパなど主要国の金利が上昇、また中国・上海のロックダウンやロシアのウクライナ侵攻などによって、各通貨の変動幅が広がったことで、個人投資家のFX取引が活発になったと考えられます。
もっとも取引が多いのは「ドル円」で、9月には単月として初めて1000兆円の大台を超えました。9月のFX取引金額は約1400兆円と過去最大になり、その内訳は次の通りです。
- ドル円…………1098兆2740億3400万円
- ポンド円………107兆8906億7900万円
- ユーロドル……48兆8138億7000万円
- ユーロ円………43兆432,4億4600万円
- 豪ドル円………38兆7247億0200万円
9月の個人の月間売買高は1日60兆円に達し、銀行間取引とほぼ同じ金額になりました。
2007年頃から「ミセス・ワタナベ」と呼ばれ、外国為替市場での存在感を高めた日本の個人投資家ですが、当時の月間売買高は100~200兆円しかありません。当時よりもはるかに存在感を高めた「ミセス・ワタナベ」は、外国為替市場に大きな影響を与える存在になっているのです。
日本株の個人投資家は半減
一方、日本株での個人投資家の割合は減少しています。東京証券取引所が発表した2021年度の株主分布調査によると、個人の保有比率は金額ベースで16.6%。この比率は、50年前から半減していることになります。1970年代は個人株主の保有比率が4割近くありました。
バブル時期の1987年にはNTT(日本電信電話<9432>)の上場で新たに70万人近い株主が誕生し、そのときは30~40代の若い世代が中心でした。しかし、現在では60代以上が8割を超えています。
これは日本株全体にもいえることです。日本経済新聞の調査によると、日本株を保有するのは高齢者に偏っており、金額ベースでは60歳以上が67%を保有しているのです。
20~30代の若い世代の投資意欲も高まっていますが、FXや海外株への投資がメインになっています。また、投資信託の購入も増えていますが、それも海外の株式ファンドが中心です。2022年10月末時点における国内公募追加型株式投資信託(ETF除く)の純資産残トップ3は、以下の通りです。
- アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型……1兆8756億円
- eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)……1兆6444億円
- ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型)……1兆65億円
このように、アメリカ株を中心とした海外株式ファンドに資金が集まっているのです。
個人投資家を阻む単元株制度の問題
個人の株式比率が高まらない原因のひとつが、単元株制度です。日本株の単元は100株で、たとえば、1株80,000円のファーストリテイリング<9983>の株式を購入しようとすると、約800万円の資金が必要になります。
対してアメリカは1株単位の取引なので、アップル株は1株150ドル(約21,000円)ほどで購入できるのです。取引が増えているFXは1000通貨単位のFX会社も増えているので4000~5000円、投資信託はネット証券を利用すれば100円から購入できます。
日本株に参加する個人投資家を増やすには、投資できる金額が少ない若い人でも、気軽に株を購入できるようにする必要があるのです。
単元株制度の詳細は、以下の記事も参照してください。
ユニクロ850万円、アップルは2万円… 個人投資家がなかなか増えないのは「単元株制度」のせい
NISA恒常化で「貯蓄から投資へ」は進むか
「資産所得倍増」を打ち出している岸田政権は、NISA(少額投資非課税制度)の非課税期間を無期限にし、今後5年間でNISA口座数と投資額を倍増するプラン案を発表しました。
NISAは、一定の制限内で株式や投資信託の売却益や配当金が非課税となる制度です。NISAには「一般NISA」と「つみたてNISA」があります。これまで、「一般NISA」の非課税期間は5年、「つみたてNISA」は20年でしたが、これを無制限にして非課税枠も増やすとしたのです。
このプラン案が実現すれば、40代以下の利用が増える可能性は高いでしょう。ただ、NISA制度を経由するお金は海外株や海外投信に集中しているという課題は残ります。
こうした状況が続けば、日本人の資金が国内ではなく海外の資産に向かう「キャピタルフライト」の懸念も高まってしまいます。企業の収益向上や単元株制度などの見直しによって、より一層、日本株の魅力を高めていく必要があるでしょう。