1万円からの社債投資も! デジタル証券が変える金融の未来

山下耕太郎
2024年6月20日 16時00分

デジタル証券は、ブロックチェーン技術を活用して有価証券をデジタル化した新しい投資商品です。少額投資や高い流動性など、従来の投資商品にはないメリットを提供する一方、法整備や認知度向上などの課題も残されています。

デジタル証券の基礎知識から、将来の可能性と課題までを詳しく解説します。

デジタル証券とは

デジタル証券とは、株式や社債などの有価証券をデジタル化したものです。ブロックチェーン技術を使うことで、有価証券の権利を小さな単位(トークン)に分割し、簡単に売買や移転ができるようになりました。

日本では、2020年に金融商品取引法が改正され、デジタル証券が法的に認められました。

その後、2022年から2023年にかけて、不動産を裏付けとしたデジタル証券の市場が登場しています。つまり、デジタル証券によって、これまで高価で手が出しにくかった不動産投資に、より多くの人が少額から参加できるようになったのです。

これにより投資の機会が広がり、不動産市場がより身近なものになりつつあります。

例えば、野村証券は、草津温泉の旅館など不動産を裏付けにしたデジタル証券を販売しています。また、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が開設した「START」では、デジタル証券の売買が可能で、不動産価格の上昇時に利益確定需要に応えることが可能です。

デジタル証券には2~5%の安定利回りが付き、株式とは異なり価格変動が小さいため、利回りを求める投資家から需要があります。

1万円単位で社債が購入できる

三菱UFJ信託銀行とNTTデータは、2023年度に1万円単位で社債を売買できるインフラを構築しました。ブロックチェーン技術を活用することで発行・管理コストを削減し、個人投資家も社債投資をしやすくなります。

従来、社債は100万円単位の大口取引が主流でしたが、デジタル化により小口化が可能となり、個人投資家の裾野が広がることが期待されています。また、発行企業にとっては販売コストが削減され、資金調達の手段が広がる効果もあります。

デジタル社債を含むデジタル証券の発行は2020年の法改正で解禁されましたが、インフラ整備が進んでおらず、普及はまだ初期段階です。三菱UFJ信託とNTTデータの取り組みは、日本の社債市場の活性化につながる可能性があるでしょう。

デジタル証券のメリット

デジタル証券のメリットについて見ていきましょう。

・少額から投資できる

不動産や社債など、従来は機関投資家や富裕層向けだった商品に、デジタル証券を通じて少額から投資できるようになります。2022年度の個人向け社債発行額は過去最高を記録し、全体額(約13兆円)の2割弱を占めました。

しかし、発行コストの高さから一部の企業に偏っており、実際に10万円単位で購入できる社債は限られています。2022年度の個人向け社債の発行件数は45件でしたが、デジタル社債のインフラが整えば件数が増加し、個人投資家の裾野が広がる可能性があります。

証券会社も、個人投資家向けの容易な運用を促進できると期待を寄せています。

・取引コストが低い

ブロックチェーン技術により仲介者が不要となるため、取引コストを抑えられます。これにより、投資家にとって手数料が安くなるメリットがあります。

・流動性が高い

株式と同じように証券取引所で取引されるデジタル証券は、投資家が比較的容易に売買できるため、高い流動性が期待できます。

・データの透明性・安全性

ブロックチェーンは、取引履歴の改竄が難しく、高い安全性とデータの透明性を有しています。取引の透明性が向上し、詐欺や不正行為のリスクが低減されます。

デジタル証券は、従来の有価証券をデジタル化することで、個人投資家でも参入しやすい環境をつくりだします。ブロックチェーン技術を活用し、少額投資を可能にしつつ、取引コストを抑え、高い流動性とセキュリティを実現しているのです。

デジタル証券のデメリット

続いて、デジタル証券のデメリットを見ておきましょう。

・法整備が不十分

デジタル証券は新しい概念のため、まだ法整備が不十分な部分があります。金融商品取引法で「電子記録移転権利」として位置づけられましたが、デジタル証券の内容次第では基づく法律が異なることもあり、未整備な部分も残っています。

国内の法令への適合や、各国によって異なる法規制をどのように適合させるかも、課題の一つです。取引が違法とされるリスクの存在は、健全な市場の発展の妨げとなり得ます。

・商品の少なさ

デジタル証券はまだ新しい金融商品であるため、現在の商品選択肢は限られています。特に、不動産を対象としたセキュリティ・トークン(ST)は始まったばかりで、多くの人がその動向を見守っている状況です。

現在、デジタル証券の発行事例は主に受益証券発行信託と社債に集中しています。その理由は、これらの権利の根拠となる法律が、発行者が管理する帳簿の書換を権利の主要件としているからです。

今後は、デジタル証券の商品ラインナップをより多様化することが課題となるでしょう。これにより、投資家にとってより幅広い選択肢が提供され、デジタル証券市場の発展につながることが期待されます。

・一般への周知不足

デジタル証券はまだ一般への認知度が低く、仕組みの理解が十分に進んでいません。特に、従来の金融商品の形式にとらわれない発行ができるデジタル証券は、まだ聞き馴染みのない方も多いかもしれません。

イメージとしてはオンライン証券での株式売買に似ていますが、現在株式を対面で取引している人にとっては難しく感じる可能性があります。デジタル証券の健全な発展のためには、投資家への普及啓発による認知度向上が重要な課題となるでしょう。

・流通市場の未整備

デジタル証券の流通市場の整備はまだ完璧とは言えません。そのため、どうしても流動性が低くなってしまっているのが現状です。暗号資産ほどのハイリターンは期待できず、株式ほどの流動性もないため、投資家にとっての魅力がまだ十分とは言えません。流通市場のさらなる整備が求められます。

・管理コストの高さ

デジタル証券は定期的に会計監査や鑑定評価を受け、さらに法律家のチェックも必要なので、管理費用が少し高めになります。金融商品取引法上の第1項有価証券として扱われるデジタル証券の利益にかかる税金は20.315%で、源泉徴収を行う金融機関を通じて確定申告を不要にすることも可能です。

一方で、みなし有価証券(第2項有価証券)として発行されるデジタル証券は総合課税対象となり、所得額によっては税金が高くなる場合があります。

デジタル証券は新しい投資商品としての可能性を秘めていますが、同時にまだ克服すべき課題も多く残されています。法整備や商品の多様化、認知度の向上、流通市場の整備など、市場の健全な発展のためには関係者の努力が欠かせません。課題解決に向けた取り組みの進展が期待されます。

不動産セキュリティ・トークンとは

セキュリティ・トークン(ST)は、株式や債券、投資信託などと同じ有価証券の権利をトークン化したもので、デジタル証券の呼び名としても使われます。ブロックチェーンなどの技術を用いて移転可能な財産的価値を表し、「電子記録移転有価証券表示権利等」とも呼ばれます。

不動産セキュリティ・トークン(不動産ST)は、特定の不動産への投資をデジタル化した金融商品で、デジタル証券の中でも最も先行している分野です。

この不動産STでは、ファンドの持分をデジタルトークンとして表現し、保有量に応じて賃料収入や売却益を得ることができます。価格は鑑定評価額に基づいて安定しており、税制面でもメリットがあります。

REIT(Real Estate Investment Trust=不動産投資信託)と不動産セキュリティトークン(不動産ST)はいずれも不動産投資の形態ですが、その仕組みには違いがあります。

REITは多様な不動産プロジェクトへの分散投資を提供し、株式市場に上場されているため市場の影響を受けやすいのに対し、不動産STは主に単一の不動産プロジェクトへの投資で、価格は鑑定評価額に基づいて安定。

不動産STの流動性は現時点では限られていますが、取引所の整備により将来的に向上する可能性があります。

デジタル証券の将来性は?

世界のデジタル証券の発行額は、2022年の3100億ドルから2030年には16兆1000億ドルに膨らむと予想されています。

スイス証券取引所を運営するSIXグループやインターコンチネンタル取引所などがデジタル証券の取引市場を運営しており、日本取引所グループ(JPX)も2024年度末までにデジタル証券の流通市場を創設する方針です。

国内では、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)がデジタル証券の売買市場を開設し、神戸市内のホテルや都内の賃貸マンションを投資対象としたデジタル証券が登場しています。

デジタル証券の発行額は増加しており、国内でも2024年度の発行額は1700億円に達する見通しです。

デジタル証券が新たな投資機会に?

デジタル証券はブロックチェーン技術を活用した新しい投資商品で、少額投資、取引コストの削減、流動性の向上などのメリットがあります。不動産を裏付けとしたデジタル証券市場が先行して立ち上がり、今後は社債のデジタル化も進むとみられています。

一方で、法整備や商品の多様化、認知度向上などの課題もあり、市場の健全な発展のためには関係者の努力が必要でしょう。

将来的に大きな市場に成長すると予想され、国内外で取引市場の整備が進むデジタル証券。新しい投資機会としての動向に、これからの注目していきたいです。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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