株式併合が急増中! その目的は? 株価と株主への影響は?

岡田禎子
2017年10月2日 8時00分

シャープの株価が10倍に!?

2017年9月27日の朝、シャープ<6753>の株価が突然10倍になり、大きな話題になりました。 「あのシャープが、まさかのテンバガー?」とびっくりした方も多かったようです。

もちろん、違います。株価が10倍になったのは、10株を1株にする「株式併合」が行われたからです。

それまでバラバラだった株式の売買単位が、2018年10月までに100株に統一されました。1,000株単位の銘柄だったも、すべて100株に変更にされたのです。この日、シャープを含めて計357銘柄が単元株の変更を行いました。

そして、その全銘柄で同時に実施されたのが、株式併合です。

一般的に、株式併合は株価にマイナスの影響があるといわれていますが、それは本当でしょうか?

(参考記事)売買単位が100株に統一! 株式併合されると株価への影響はどうなの?

株式併合とは?

株式併合とは、企業が「発行済株式数を減らすために、複数の株式を1株に統一する」ことを言います。

たとえば「2株→1株」の株式併合ならば、2株を1株に併合することによって株主の保有株数は半分になります。1,000株保有していたのであれば、「2株→1株」の併合によって500株保有となります。

その一方で、理論上の株価は上昇します。1株500円の株価が「2株→1株」で株式併合されたら、500円×2で株価は1,000円になり、「10株→1株」の併合ならば、500円×10で5000円に上昇します。

  • 株価500円の株式 → 株式併合(2:1) → 500円×2=株価1,000円

シャープの場合、まさにこの計算によって株価が10倍になりました。

・株式併合しても資産価値は変わらない

ただし、株価は上昇しますが、その企業の株を保有している投資家の保有資産は変わりません。なぜなら、株式併合によって、投資家が保有している株式数が減少するからです。

たとえば、株価500円の株式を1,000株を保有していた場合、保有資産の金額は500円×1,000株で500,000円です。

その株式が「2株→1株」で株式併合すると、上で説明したように、理論上の株価は500円×2で1,000円になりますが、保有株式は1,000株から500株(1,000株÷2)へと半減するため、保有している資産額は1,000円×500株で500,000円のままということです。

  • 株式併合前:株価500円/1,000株保有……保有資産:500円×1,000株=500,000円
  • 株式併合後:株価1,000円/500株保有……保有資産:1,000円×500株=500,000円

・株式併合では企業価値も変わらない

企業価値という点でも、株式併合の前と後では変更はありません。

企業価値を表す「時価総額」は「株価×発行済株数」で算出されます。併合によって株価は上昇しますが、発行済株数が減少するため、両者をかけて算出される時価総額=企業価値は変わらないことになります。

  • 株式併合前:株価500円/100万株発行……時価総額:500円×100万株=5億円
  • 株式併合後:株価1,000円/50万株発行……時価総額:1,000円×50万株=5億円

株式併合を行う企業の目的

このように理論上は、株式併合では株式の価値には影響を及ぼしません。では、企業が株式併合を行う目的は何でしょう?

・株価の(見せかけの)引き上げ

ひとつめの目的としては、「株価の引き上げ効果」があげられます。

長期間にわたって業績低迷が続く企業は、株価も下落し、株価が200円以下のいわゆる「低位株」となります。そうなると、購入後も長く株式を保有する「投資」よりも、短期に売買を繰り返す「投機」の対象になりやすくなります。

低位株は株価が安いため、資金の多くない個人の投資家であっても大量の株式を一度にまとめて購入したり、反対に一気に大量売却したりといったことが可能になります。すると、株価が安定せず、一日で2倍になったり半分になったりすることもあります。

これは、株式を発行している企業としては望ましい状態ではありません。

そこで企業は株式併合を実施して、株価の引き上げを図ります。たとえば1株50円だった株式を「10株→1株」で併合して、株価を10倍の500円にするのです。そうすることで、投機目的の購入を減らそうとするわけです。

このように、いわば「見せかけの株価」を上昇させるための手段として、これまで株式併合は多く使われてきました。

・最近増えている株式併合の目的

それに対して、2017年から2018年にかけて株式併合が急増した背景にあるのは、冒頭で紹介したシャープのように「売買単位の統一」に伴うものです。

東京証券取引所は、売買単位を100株に統一することを推進すると同時に、東京証券取引所では、必要最低投資金額を「5万円以上50万円未満」にすることを推奨していました。

必要最低投資金額とは、投資家がその株式を購入するために最低限必要となる資金額で、株価×1単元の金額です。そして、売買単位は100株に統一されるので、必要最低投資金額=株価×100株ということになります。

東京証券取引所が推奨する「5万円以上50万円未満」という基準をクリアするには、株価は最低でも500円(5万円÷100株)以上が必要になります。なおかつ、5,000円以下(50万円÷100株)に収めなくてはいけません。

そのため、売買単位の変更と同時に株式併合を活用して、必要最低投資金額の調整を行う企業が増えているのです。

・経営再建やM&Aの調整という目的も

株式併合にはその他の目的もあります。

たとえば、過去に実施した第三者割り当て増資や大幅な株式分割などによって過剰に膨れ上がった発行済株式数を、適正な水準に戻すために株式併合を実施する場合があります。

また、業績不振の企業が、経営再建のために欠損金を埋める目的で、減資とセットで株主併合を実施することもあります。その場合、減資とほぼ同時期に第三者割当増資も実施します。この場合、結果的に1株あたりの利益が低下することから、既存株主にとってはマイナスとなることも多くあります。

さらに、企業合併などを行う際には、合併比率を調整する目的で株式併合が行われることがあります。また、株式併合を実施することで、企業は株主の管理コストを大幅に圧縮することができます。

・ネガティブなイメージがある理由

実は、2001年の商法改正以前は、原則として株式併合は禁止されており、例外的に資本減少など一定の場合でのみ認められていました。

商法改正後も、減資を伴う株式併合が多かったこと、業績が低迷している企業が、株価水準を高めるためや株主管理コストの低減化のために行っていたことなどから、一般的に、株式併合はネガティブなイメージがあります。

しかしながら、現在、株式併合の目的は多様化してきています。

株式併合が株主に与える影響

では、株式併合は株主にどんな影響を与えるでしょうか?

・株主の地位を失う可能性もある

株主併合は、株主総会の特別決議によって決まります。この特別決議には、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。普通決議で決まる「株式分割」より厳格な手続きが規定されているのです。

なぜ株式分割よりも手続き規定が厳しいかと言うと、それだけ株主に与える影響が大きいからです。

株式併合の場合、少数の株しか保有していない株主は、株主としての地位を失うか、併合によって端数や単元未満が生じない大株主との間で、不平等が生じる可能性が高くなります。

たとえば、ある銘柄が売買単位の変更(1000株→100株)と同時に「4株→1株」で株式併合を行った場合、もともと4株未満しか保有していなかった株主は、株主の地位を失います(3株保有の場合、併合後は0.75株の端株になってしまう)。

・株主の権利は保護されているが

また、株式併合前に1,000株を保有していた場合であれば、株式併合後は250株保有となります。売買単位は100株ですので、単元株(200株)のほかに50株の単元未満株が発生することになります。そして、この単元未満株は取引所で売却することはできません。

とは言っても、株式併合で発生した端株や単元未満株は、企業に買取請求して換金するか、単元株(100株)になるまで株を買い増し請求することができます。端株は企業によって一括処理され、端数割合に応じて配分されることになります。

このように株主としての権利は保護されていますが、「いつの間にか株主ではなくなっていた!」と慌てないためにも、株式併合後に自分の保有株がどうなるのか確認しておく必要があります。

株式併合が株価に与える影響

株式併合自体は、理論上は、株価には「中立」です。株式併合によって株価の数字そのものは上昇しますが、発行済み株式数が減少することで投資家の保有資産や企業の時価総額は変わらないため、株式としての価値は変わらないからです。

ただ、これまでの株式併合は、業績が低迷している企業が株価水準を高めるために実施したケースが多く、株式併合後の株価も下落傾向となる銘柄が多くありました(数字自体は変わるため、調整後の株価で比較します。以下すべて同様)。

しかしながら、売買単位の変更に伴う株式併合は、投資家の利便性を高めて、国際競争力を向上させようという取り組みに対応したものであり、これまでの株式併合とは目的が異なります。

・流動性が向上して株価も上昇

森永製菓<2201>は、2016年9月28日に売買単位の変更(1000株→100株)と、「5株→1株」の株式併合を行いました。株式併合の前は、森永製菓の株式を買うには80万円以上の資金が必要でしたが、株式併合によって半分の資金で買えるようになりました。

必要最低投資金額が下がったことで流動性が向上したことに加えて、好調な業績も後押しして、株式併合後の株価は大きく上昇しています。

銘柄の「いま」を見極めよう

一方で、売買単位の変更に伴う株式併合であっても、業績が低迷している低位株の企業の場合は、株式併合を行うことで、経営者の将来の株価に対する不安のシグナル(将来の株価の成長に自信がない)とマーケットが受け取る可能性もあり、注視していく必要があります。

つまり、いずれにしても株式投資においては、個々の企業の目的や業績動向などを総合的に判断することが最も大切なのです。また、かつて行われていたものと最近の株式併合とでは目的が異なるため、過去のネガティブイメージに囚われず、「いま」をしっかりと見極めるようにしましょう。

[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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