自分で売って自分で買うのは犯罪? 株価を操る魅惑の手口、「相場操縦」を解説

長嶺超輝
2018年4月11日 8時00分

「思いどおりに株価を動かす」という投資家に都合のいい願いを叶えてくれる、夢のような手法が「相場操縦」です。もちろん違法行為ですが、実は、知らず知らずのうちに「相場操縦まがい」な行為をしてしまっている可能性もあり、注意が必要です。

そこで今回は、あえて相場操縦の具体的な手口を披露いたします。正しい知識を身につけておくことは自分を守ることに直接つながりますので、ご自身の身に置き換えながらお読みください。

なぜ相場を操ってはいけないのか、どんな罰が待っているのか……などの基本知識は、こちらの記事をご参照ください:相場操縦をざっくり解説 ネット取引が思いがけず犯罪につながる理由とは?

相場操縦の手口を一挙紹介

相場操縦の手口とは主に、他の投資家をおびき寄せることで、特定の銘柄に投資を集中させる仕掛けを行うことを指します。

自分だけでひとつの銘柄に数百億円や数千億円を投じられるのであれば、それだけで株価を動かせますが、機関投資家でもない個人には到底無理です。そこで、「この銘柄は買いだ」と思わせるようなチャートを形成するように操縦するのです。

ひとりで行う相場操縦

・仮装売買

その銘柄の取引が繁盛に行われているものと他人に誤解させる……ということなどを目的として、同一の人物が同一のタイミングで同一の取引で、売りと買いの当事者になることを「仮装売買」と言います。また、このような行為を他人に委託したり、他人から受託されたりすることも違法です。

証券口座を作るときには身分証明書の提出が求められますから、同じ証券会社で仮装売買をしても、同一人物の取引だということは、すぐにバレてしまいます。しかし、複数の証券口座を持っていて、片方で売った自分の株式について、もう片方で買いを入れることは可能となります。

なお仮装売買は、株主としての権利移転のない取引ですので、売買の効力は生じません。

・買い上がり

現在の株価を上昇させる……という目的で、現在よりも高い価格で買い注文を大量に発注し、その間にある売り注文もすべて約定させることで、株価を引き上げながら出来高も上昇させることを「買い上がり」言います。

つまり、単独で行った株価と出来高の急上昇によって、ヤフーファイナンスや証券会社の「急騰ランキング」などに掲載され、取引が繁盛に行われているものと他の投資家に誤信させることによって、さらなる買いを集め、さらなる高値を付けさせる株価操縦です。

売買板の上に、指し値を最初から一定刻みに並べたり、断続的に指し値を徐々に引き上げる注文を繰り返したりする行為なども、「買い上がり」とみなされる危険性があります。

出来高が比較的に低調な銘柄を選べば、そこまで莫大な資金力を必要とせずに株価を変動させることができます。

・終値関与

いわば、買い上がりの応用編です。その日の取引終了時刻(大引け)の直前になって、買い上がりによって終値を引き上げることで、他の投資家に注目させ、翌日以降の買いを誘う手口を「終値関与」と言います。

・下値支え

現在の株価よりも安値の板に指し値で大量の買い注文を置いておくことで、この銘柄は押し目待ちが多く、買いが厚いと他の投資家に誤信させることで、高値の注文を誘引する手口を「下値支え」と言います。この手口は、自分の手では株価を吊り上げない点に特徴があります。

・見せ玉

初めから取引を約定させるつもりがないのに、板の上に大きな注文を出しては、約定しそうになると取り消すといったことを繰り返して、他の投資家に注目させ、特定の銘柄の株価を誘導しようとする行為をを「見せ玉」と言います。

インターネット注文の発達により、近年では、個人投資家でも簡単に「見せ玉」ができるようになっています。相場操縦をしようという意図はなかったとしても、いくら手軽に発注をキャンセルできるからといって、むやみに繰り返すのは禁物です。

グルで行う相場操縦

・馴合売買

「なれあいばいばい」と読みます。これは、あらかじめ複数の人間で裏で話をつけておいて、ある人が株式の売り(あるいは買い)と同時に、別の人がその株式の買い(または売り)を行うことを繰り返す行為です。

このような空虚な売買(実態としての取引のない売買)によって出来高が増大して、他の投資家に銘柄を注目させ、買いを呼び込もうとするのです。

また、こうした行為を委託したり、その受託したりすることも「馴合売買」に含まれます。つまり、他人を誘ったり、その誘いに応じたりするだけで犯罪と認定される可能性があります。

罪が成立する条件

これら相場操縦の手口を見て、自分も「まがい」なことをやっていたかも……と思った人もいるのではないでしょうか。しかし、実際これらの行為が違法なものとして成立するためには、外形的・客観的な操縦行為だけでなく、その人の心の中に、操縦によって株価をコントロールしようとする主観的な気持ちがあることが必要です。

つまり……「変動取引」+「誘引目的」=「相場操縦」となります。

・変動取引

人為的に株価形成に影響を与える取引で、「仮装売買」や「見せ玉」など、以上に挙げたような手口が含まれます。

・誘引目的

変動取引によって特定の銘柄の取引が盛り上がっているように見せかけて、他の投資家の株式売買を誘いこむ目的があることが必要です。ただし、実際に誘い込まれた人がいたかどうかは問題ではなく、誤認させる危険性を認識していれば足りる、とするのが最高裁判所の判例です。

相場操縦は誤解されやすい

実態としての取引が存在しない「仮装売買」や「馴合売買」と異なり、「見せ玉」や「下値支え」「買い上がり」などは現実取引に基づく相場操縦なので、「誘引目的」があったのか、それとも健全な取引の一環なのかの区別や立証が困難です。

したがって、前後の取引実態などを総合的に考慮しながら、「誘引目的」があったのかどうかが認定されることになります。

特に、大株主として会社に対しての発言力を増すために株式を買い集める投資家にとっては、大量に株式を買い集める過程で、結果的に株価が変動(値上がり)してしまいます。これを誘引目的だと取締当局に誤解されてはたまりませんので、いくつかの機会に分割し、時期をずらしながら買い増すことがほとんどです。

もっとも、そこまで大量な株式売買を行うわけではない個人投資家も、相場操縦に似た誤解を与えかねない取引は避けるよう、十分注意したいものです。証券会社や取締機関からの誤解を避けるためにも、投資家の側も「相場操縦とは何か?」を、最低限でも心得ておいたほうがいいでしょう。

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[執筆者]長嶺超輝
長嶺超輝
[ながみね・まさき]法律・裁判ライター。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。30万部超のベストセラー『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)のほか著書多数。
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