いまさら聞けない「金利」の基本 金利引き下げは本当に株価に影響するのか
金利と株価は関係している
株価に大きな影響を与えると言われるものの一つが「金利」です。債券の短期金利や長期金利も話題になりますが、それらの変動も含めて大きく関係しているのが、金融政策によって決定される「政策金利」。
政策金利と株価はどのような関係性を持ち、どう影響を与えているのでしょうか。
金利とは?
まずは、金利とは何か正しく理解することから始めましょう。金利とは、お金を借りた際に、その対価として支払う利子の割合のことをいいます。したがって、金利が下がれば支払う利子は少なくなり、逆に上がれば多くなります。
ちなみに、「利子」と「利息」の違いを知っているでしょうか? 利子とは、お金を借りた側が貸した側に支払うもの。利息とは、お金を貸した側が借りた側から受け取るもの。つまり、結局のところ、どちらも同じものです。
政策金利とは?
政策金利とは、国の中央銀行が金融政策の目的を達成するために設定する短期金利のことで、「誘導目的金利」とも呼ばれています。日本では、「無担保コール翌日物レート」が日本銀行によって政策金利として採用されています。
この政策金利の動向は、金融機関の預金金利(普通預金や定期預金につく利息の割合)や貸出金利(借り入れをした場合の利子の割合)に影響を及ぼします。政策金利が上がれば市場の金利も上がり、政策金利が下がれば市場金利も下がります。
好景気でインフレになる(物価が上昇し始める)と、中央銀行は政策金利を上げて景気が過熱するのをコントロールします。反対に、不景気でデフレ(物価下落)傾向になれば、政策金利を引き下げることで経済を刺激し、活性化させます。
このように、マーケットの実体に合った金利水準に「誘導する」という目的が政策金利にはあります。
政策金利が株価に与える影響
一般的に、「政策金利を引き上げれば株価は下落し、引き下げれば株価は上昇する」といわれています。
・金利が上がれば株価は下がる
景気が拡大していると、景気の過熱を防ぐために政策金利が上げられます。これにより、企業が金融機関から借り入れをした際の利子が増えることになり、資金調達が難しくなります。すると資金が足りず、生産や設備に対する投資がしにくくなるため、業績は悪化。よって、株価は下落することになります。
・金利が下がれば株価は上がる
一方、景気が後退している状況では、経済を活性化させるために政策金利が引き下げられます。金利が下がれば支払う利子が少なくなることから、企業の資金調達が活発になります。生産や設備に投資しやすくなり、業績は向上し、結果として株価も上昇する……というわけです。
金利が下がると株価は本当に上がるのか?
それでは、実際に政策金利が変わったとき、株価はどのように変動したのか。政策金利が下がったことで、本当に株価は上がったのか。過去の事例で確認してみましょう。
・2008年12月19日:0.30%→0.10%▼
現在、日本における政策金利は「0.10%」という低水準で推移し続けています。そして、この0.10%という金利が導入されたのは、2008年の年末のことです。
2008年というと、アメリカで「リーマン・ショック」が発生した年。当事者のアメリカやヨーロッパでも政策金利が引き下げられ、低迷する景気への対策が講じられることになりました。
では、0.10%の政策金利が導入された後の日経平均株価の動きを見てみましょう。
12月19日以降、年始に向けては緩やかに上昇しましたが、年明け1月8日を境に下落に転換。3月10日には、7,054円98銭という終値でバブル崩壊後の最安値を更新することになります。
その後は持ち直し、1万円台を行ったり来たりするような状況まで回復しますが、このチャートを見る限りでは、「金利が下がったら株価が上がる」とは言い切れないでしょう。
・2008年10月31日:0.50%→0.30%▼
実は、上記の引き下げが行われるわずか1か月半前の2008年10月31日、政策金利はすでに一度引き下げられていました。
いわゆるサブプライムローン危機に端を発して、リーマン・ブラザーズが約6000億ドルの負債を抱えて倒産したことがきっかけで、世界的な金融危機へと連鎖していた時期です。その影響もあって、日銀は政策金利をそれまでの0.50%から0.30%へと引き下げたのです。
その後の株価はどうなったかというと、ご覧のとおり、金利は下がれども、株価は上がらず。世界的な金融危機の影響の大きさに、その後の株価上昇の起爆剤どころか、きっかけにすらなりませんでした。
・2007年2月21日:0.25%→0.50%△
さらに遡ること2007年の2月には、それまで0.25%だった政策金利が0.50%まで引き上げられています。低金利で推移してきた市場に対して、好循環メカニズムが維持され、緩やかに景気が拡大していくと判断されたためです。
日銀としては、このまま少しずつ景気を回復させながら、徐々に金利水準を調整していきたいと考えていたようですが、その後に起こったことは先述したとおり。残念ながら、世界経済は日銀の思い通りには動いてくれませんでした。
株価のほうはどうなったでしょうか。金利引き上げの発表直後は上昇したものの、その後急落。年の後半からさらに下げ、12月には1万5,000円台を割り込むところまで下がりました。
このときは、「金利が上がれば、株価は下がる」という定説どおりの値動きになったといえそうです。
(Chart by TradingView)
株価は定説どおりには動かない
日本では長らく金利に変動がないため、安易に結論を出すことはできません。それでも、過去3回の政策金利の変更時における株価の推移をみると、「政策金利が上がれば株価は下落し、下がれば株価は上昇する」という定説が必ずしも当てはまるわけではないことがわかります。
こうした定説は、あくまでも「理論上」の話。理論的には当然正しいはずですが、現実世界が理論だけでは説明できないように、株価も、理論を超えたあらゆる要因で変動します。
それどころか、最終的に株価を決定づけるのは「人間の心理」という理論とは遠くかけ離れたものです。定説どおりはいかないほうが、むしろ当然といえるのかもしれません。
金利や金融政策など、株式市場の周りには様々なニュースが飛び交っています。その度に不安になったり期待させられたり、投資家・トレーダーの心中は大忙しでしょうが、過去の株価チャートを見てみれば意外なヒントが見つかるかもしれません。