暗号資産にもインデックス投資の波 価格のばらつきがもたらす問題とは

鳳ナオミ
2022年7月13日 14時30分

NOBU/Adobe Stock

暗号資産の裁定機会は見た目より多くない

暗号資産市場は、株式市場と異なり、同じ暗号資産(例えばビットコイン)を取引する際、世界各国に存在する取引所(交換所)によって売買価格が異なることが特徴のひとつである。

対して株式は、日本企業は日本市場、アメリカ企業はニューヨーク市場というように、各国に存在する各株式市場で取引されており、価格はひとつ、いわゆる「一物一価」が大多数だ。

ただ、複数の市場に上場している銘柄や、ADR(米国預託証券)といった在外株式を自国で売買できる仕組みも存在している。そこでは複数の売買価格が形成されることもあるが、裁定取引(同じ銘柄で、安い価格のものを買い、高い価格のものを売って、あとに相殺することで、その価格差を収益とする取引)により、瞬時に価格は収斂されている。

暗号資産の場合、送金時間、送金コスト(手数料)などの条件が各国取引所間で異なるため、裁定コストと期待収益が見合わないケースがあり、裁定機会は見た目ほど多くはない。

ばらつきが激しい暗号資産の価格

投資家は各国(取引所)ごとに売買注文、取引する形となるのだが、価格が大きくばらつく上、価格変動にも偏りがある。従って、自身が利用する取引所の売買価格が、グローバルで取引されている売買価格と同等なのか、あるいは安いのか・高いのかを瞬時に判断するのが難しいことが多い。

実際の事例として、2021年の年末間際に、ビットコイン価格が大きく急落した日本の取引所がひとつだけあった。ビットコインが取引できる取引所は日本でも20か所以上あるなかで、1か所だけである。

2021年1231日の23:5523:58の間に、このC取引所においてビットコインが約10%下落した(約550万円から500万円まで急落)。普段この取引所で売買している投資家はかなり動揺したはずだ。

その時間に大口の売り注文があったことが下落の背景のようだが、他の取引所との裁定はすぐには働かなかった。結果的に、新年を迎える頃にはもとの550万円まで戻っていった。

これに対して、他の国内取引所及び世界の取引所の価格にはなんの変動もなかった。これは、大きな悪材料が出たのではなく、一部の取引所での変動であったことを示している。株式の事例でいえば、複数上場しているケースでは多少の価格のばらつきはあるが、10%という価格の違いは生まれない。

この事例はたまたま日本の取引所だったが、海外取引所でも起こり得る事象で、どこで起こるかわからない。突発的に大きな悪材料が発生したならば、多くの取引所が同様の振る舞いをするはずだが、投資家がその判断をするには、複数の取引所を常に監視するしかない。

日本の売買シェアは低く、適正価格とは言い難い

そもそも世界全体における国内取引所(全体)の暗号資産売買シェアは、年間でも5%程度。直近ではさらに低下しており、グローバルな価格を形成するだけの規模ではない。

また、相場が瞬間的(秒単位)に急落する、いわゆる「フラッシュクラッシュ」とも異なる。仮にフラッシュクラッシュを狙った売買だったとしても、その急落する動きがそうでないことは複数の取引所を見れば明らかだ。

ビットコインだけでもこうした要因がある以上、他の暗号資産(アルトコイン)も同様のことが起こる可能性は否定できず、各暗号資産の適正価格及びベンチマークとなる指標(価格)が必要なのである。

暗号資産インデックスの登場が待たれる

株式や債券市場には、全体のマーケット動向を観察する意味でのベンチマークとなるインデックスや指標が多く存在する。

株式であれば、日本の日経平均株価やTOPIX、アメリカならダウ平均株価やナスダック総合指数、ヨーロッパではFT100指数(イギリス)、DAX指数(ドイツ)が代表的である。債券等であれば米国10年債、商品であればCRB指数(商品インデックス)、為替ならドルインデックスを観察することで、各市場全体の動きや、なんらかの材料が与える市場の影響を計ることができる。

暗号資産の代表とされるビットコインでさえ、取引所によって価格や変動自体にばらつきがある以上、指標としては覚束ない。他のリスクアセットと同様に暗号資産全体を表す暗号資産マーケット指標が求められる所以である。

個人投資家はあまり気にしないのかもしれないが、多くの投資家が参加する市場に成長するためには不可欠といえるのではないだろうか。

メジャーなベンチマーク指標では、マーケット動向の観察だけでなく、金融商品としての位置づけ(インデックス先物、ETF等)が確立されており、そのインデックス売買が市場の流動性の拡大に一役かっている。

一方、暗号資産市場では、ベンチマーク指標として確立、周知されている指標はわずかで、金融商品化されているものは殆どない。繰り返しとなるが、ビットコインでさえ取引所ごとに価格が異なること、ビットコイン以外の暗号資産(アルトコイン)の地位が増加していることから、ビットコインだけでは全体の動向を観察するには不十分である。

自身の取引している取引所の価格が適正と考えがちだが、前述した通り日本の取引所は世界の取り扱いシェアは数パーセントであり、本当の適正価格は別なところにあるのかもしれない、と考えたほうがいい。

ベンチマークとなる暗号資産の適正価格、ひいてはその暗号資産価格が反映されているベンチマークインデックスを、投資家は観察すべき時期が来ていると言えるだろう。

・主な暗号資産インデックス

(算出・配信会社「インデックス名」)

  • JDR.株式会社「JDR.Index
  • スタンダードプアーズ「SP暗号通貨指数」
  • ナスダック「ナスダッククリプトインデックス」
  • CBOEグローバルマーケッツ「CBOE暗号資産インデックス」
  • ブルームバーグ&ギャラクシー・デジタル・キャピタル・マネジメント「BGクリプトインデックス」
  • 野村総研「NRI/IU暗号資産インデックス」
  • 米コインベース「コインベースインデックス」
  • クリプトインデックス社「クリプトインデックス」
  • MSCI Inc「計画中」
  • グレースケール「ブルームバーグと共同で計画中」
[執筆者]鳳ナオミ
鳳ナオミ
[おおとり・なおみ]大手金融機関で証券アナリストとして10年以上にわたって企業・産業調査に従事した後、金融工学、リスクモデルを活用する絶対収益追求型運用(プロップ運用)へ。リサーチをベースとしたボトムアップと政治・経済、海外情勢等のマクロをとらえたトップダウンアプローチ運用を併用・駆使し、年平均収益率15%のリターンを達成する。その後、投資専門会社に移り、オルタナティブ投資、ファンド組成・運用業務を経験、数多くの企業再生に取り組むなど豊富な実績を持つ。テレビやラジオにコメンテーターとして出演するほか、雑誌への寄稿等も数多い。現在は独立し、個人投資家として運用するかたわら、セミナーや執筆など幅広い活動を行う。また、日本初のデジタルマネー格付け及びインデックスを提供する「JDRpro.」の開発運用責任者も務める。
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