日本株の下値は誰が買う?  データから見えてくる売り手・買い手と株価の行方

佐々木達也
2022年10月26日 18時00分

peterschreiber.media/Adobe Stock

日本株の下値を買うのは?

インフレ懸念や景気後退懸念でアメリカ株を中心に波乱の相場展開が続いています。ただ、ナスダック総合株価指数など主要指数が年初来安値を切り下げている一方で、日経平均株価は、3月の安値24,681円まではまだ下値余地があります。

いま、日本株の下値を買っているのは一体どんな投資家なのでしょうか? 「投資部門別売買動向」のデータをもとに、株式市場を行き交うプレイヤーたちの姿と思惑を読み解いてみたいと思います。 

投資部門別売買動向とは

投資部門別売買動向とは、東京証券取引所などが「どんな投資家が、どれくらいの規模の売買を行っているか」を把握するために公表している統計です。資本金30億円以上の「総合取引参加者」と呼ばれる証券会社(約50社)がデータを提出して、それをもとに取引所が集計しています。

日本の株式市場には個人投資家のほか、海外投資家や機関投資家など、さまざまなプレイヤーが参加しています。そうしたプレイヤーごとの売り買いの株数や金額を取りまとめたのが、この「投資部門別売買動向」というデータです(「投資主体」とも)。

東証などを傘下にもつ日本取引所グループJPX)<8697>は、毎週第4営業日に前週分のデータを発表しています。そのデータは、JPXホームページ内の「投資部門別売買状況」というページから誰でも見ることができます。

株式市場のプレイヤーたち

株式市場にはどのようなプレイヤー(参加者)がいるのでしょうか? JPXの「投資部門別売買状況」では、まずは大きく「自己」と「委託」に分けられています。

自己」は、証券会社が自身の名義で取引した売買を指します。利益獲得を目的とした売買のほか、ETF(上場投資信託)の組成のための現物株式の購入も、この自己取引にカウントされます。

一方の「委託」とは、個人や海外投資家など各プレイヤーからの注文を証券会社が市場に取り次いだ注文を集計したものです。

東証と名古屋証券取引所で行われた株式のすべての売買を集計したデータ(=二市場ベース)によると、2021年の年間の売買代金のうち、約13%が自己取引、約86%が委託取引でした。

そして、「委託」に含まれる投資部門は「法人」「個人」「海外投資家」「証券会社」の4つに分けられます。このうち「法人」は「投資信託」「事業法人」「その他法人等」「金融機関」に分けられ、「金融機関」はさらに「生保・損保」「都銀・地銀等」「信託銀行」「その他金融機関」に分かれています。

個人」は、国内の証券会社経由の個人の注文です。現物取引だけでなく、信用取引の新規や返済も含んでいます。

海外投資家」の定義としては、日本以外の海外の証券会社から出された注文はすべて「海外投資家」に分類されます。例えば、海外のヘッジファンドや年金資金や個人投資家からの注文です。そのため、日本人が海外の証券会社経由で注文を出した場合も、海外投資家にカウントされます。

投資信託」は、投信法に規定された投資信託の委託会社や資産運用会社からの注文です。個人による投資信託を経由した株式買いは、こちらの金額に反映されます。

事業法人」とは、海外投資家や金融機関などに該当しない、いわゆる一般の法人です。近年活性化している企業の自社株買いは、この事業法人に含まれます。

信託銀行」は、年金や投資信託などの運用・管理を請け負っています。 大企業の大株主一覧に登場することの多い「日本トラスティ・サービス信託銀行」「日本マスタートラスト信託銀行」などがこれに該当します。

日本人の年金の積立金を管理するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の注文も、信託銀行経由で市場に出されます

海外投資家が日本株を買わない理由

2022年10月第一週(10月3日~7日)の投資部門別売買状況(二市場ベース)では、買い越しの金額がもっとも多かったのは海外投資家で、4035億円の買い越しでした。次いで、金融機関に含まれる信託銀行が2301億円、法人に含まれる投資信託が1731億円、事業法人が1390億円を買い越していいます。

それに対して売り越していたのは、個人が4544億円と大きな金額となっています。

ただ、月次ベースのデータの推移をたどっていくと、少し違う様子が見えてきます。2022年初からのデータで見ると、海外投資家は4月と7月以外すべての月で売り越しており、2022年1月からの累計では約3.3兆円を売り越しているのです。

海外投資家が日本株を買わない理由には諸説ありますが、ひとつには、グローバルでの景気減速が広がっていることがあげられます。

1011日に国際通貨基金(IMF) は最新の世界経済見通しを発表し、2023年の世界の成長率を従来の2.9%から2.7%に下方修正しました。世界的なインフレに対抗するために各国の中央銀行が金利を引き上げていることで経済が下押しされるとの見立てです。

日本企業は、製造業では海外での生産や拠点を広げています。サービス業であっても、国内の成長鈍化でM&Aなどによって海外企業の買収を進めており、かつてより海外の景気動向が日本企業の業績に与える影響が大きくなっていることが日本株を買わない理由のひとつとなっています。

また、現在はアメリカをはじめとした利上げ局面であり、金融政策の着地点が見えずに不透明な状況が続いています。こうした中で、日本株に限らず、資産のポートフォリオにおける株式の比率を引き下げる、というリスク回避の行動も日本株売りの一因となっているのです。

もうひとつは円安ドル高の進行です。2022年は年初から約4割ほども円安が進行しました。海外投資家からの目線で見ると、手持ちのドルを円に換えて日本株に投資していた場合、ドル換算で見た日本株資産は為替だけで4割も目減りしてしまったことになります。

さらに拍車がかかる自社株買い

海外投資家が日本株の売り越しを続けているのに対して、買い手として存在感を増しているのが事業法人による自社株買いです。2022年はすべての月で日本株を買い越しており、その額は累計では3.7兆円と、海外投資家の売り越し額を上回っています。 

事業法人の自社株買いは加速しています。ひとつの理由は、コロナ禍が一服し、企業の業績が回復していることです。9月に発表された法人企業統計によると、保険・金融を除く全産業の2021年度の経常利益は前年比で33%増となりました。2020年度の12%減、2019年度の14%減から大幅な回復です。

財務基盤に余裕のある企業が、当面使う必要のない手元資金を配当や自社株買いで株主に積極的に還元していることも理由のひとつです。いわゆる「モノ言う株主」の台頭や株主資本主義の広がりで、余剰資金を活用できない企業には市場や株主によるチェックが入りやすくなったことも関係しています。

また、純利益のうち自社株買いと配当に回す割合(総還元性向)を明言する企業も増えており、自社株買いに拍車がかかっています。

個人・事業法人の買いは続く…?

株式市場における「個人」は、安値で逆張りの買いを入れる買い手です。

今年、日経平均株価が安値を付けたのは、主に3月9日、6月20日、10月3日。投資部門別売買状況の月次データで見ると、個人は月こそ1300億円弱の売り越しですが、6月の安値局面では5500億円弱を買い越し、事業法人ともに海外投資家の売りを吸収しています。

9月以降の下落局面でも買いの手を強めており、9月は実に1兆円弱の買い越し。買い手しての存在感を高めたと言えるでしょう。

明言はしていないものの日銀が事実上ETF(上場投資信託)買いを凍結させていることもあり、「個人&事業法人の買い VS 海外投資家の売り」という基調はまだ続きそうです。ただし、日本株の上値トライには、海外投資家の投資スタンスが売りから買いに変化することが不可欠です。

投資部門別売買動向のデータは週次で更新されます。こうした視点でデータを眺めることで、さまざまなプレイヤーの動向も含めて、日本株の需給の大まかな流れをつかむことができるようになります。

[執筆者]佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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