株価はなぜ下がるのか? 相場が暴落したときの最も賢い対処法とは
「下落」「急落」「暴落」の違いは?
「株価は会社の温度計」とも言われますが、いったん上がると下がらない体温計と違って、調子の良いときは上がり、調子の悪いときは下がるのが株価です。
ニュース等でよく見聞きする、株価が下がったときの表現として「下落」「反落」「続落」「急落」「暴落」などがあります。それぞれに定義があるわけではないのですが、シーンによって使い分けられています。
「下落」はいかなるときでも使えますが、「反落」は前日上昇した後に下がったとき、「続落」は前日に下落して当日も下落したときに使います。
「急落」と「暴落」は使用する人の感覚によるところが大きいのですが、筆者の感覚としては、マイナス5%以上で「急落」、マイナス10%で「暴落」といった分け方が一般的なようです。
なお、これらは基本的に一日の変化を指しますが、週単位で見ると、その変化幅が更に大きくなることもあれば、反発を交えながら元に戻ることもあります。
コロナショック最大の特徴は「速度」
株価の大暴落は過去にも何度か起きています。明確な定義はありませんが、代表的な株式指数のひとつであるダウ平均株価では、直近の高値から20%下落すると下降トレンド(ベアマーケット)入りと言われます。
暴落のきっかけとなった出来事としては、以下のようなものが挙げられます。
- ブラックマンデー(1987/10)
- バブル崩壊(1989/12)
- ITバブル崩壊(2001/9)
- リーマンショック(2008/9)
- チャイナショック(2015/8)
- 東日本大震災(2011/3)
この他にも、アメリカ同時多発テロ(2001/9)、ニクソンショック(1971/8)、古くは世界恐慌(1929/8)などもありますが、コロナショックが新たにこの歴史に加わりました。
それぞれ暴落となったきっかけや背景がありますが、大概の場合、「予測はできなかった」というのが共通の特徴です。
「上げ百日、下げ三日」
コロナショックを含めた暴落局面の怖さのひとつに、その下げ方の速さがあります。相場格言に「上げ百日、下げ三日」がというものがありますが、これは、上昇には100日かかるが、同じ幅だけ下げるには3日もあれば十分である、という意味です。
ニューヨーク市場では、ベアマーケット(弱気相場)入りにかかった期間(20%下落にかかった期間)が最も短かったのは、リーマンショックでもブラックマンデーでもなく、およそ90年前、1929年に起きた世界恐慌(ウォール街大暴落)でした。
この、ほとんど誰も経験のない世界恐慌の記録を更新したのが、コロナショックでした。ドイツ銀行証券NYエコノミスト、トーステン・スロック氏の分析によると、史上最速の15日間で20%下落を達成しています。
詳しい下落率や経済的背景はここでは割愛しますが、コロナショックは、下落速度が歴史上最速であったことが最大の特徴のひとつと言えます。
株価が下がるのはどんなとき?
ところで、なぜ株価は下落するのでしょうか? そもそも株価が動くのは、毎日売買している人たち(=投資家)がいるからです。下がるときというのは、買いたい人(数)よりも売りたい人(数)が多いとき。市場に株式があふれるために、その値段が下がるのです。
では、投資家はどんなときに株式を売るのでしょうか? それは以下のような場合が考えられます。
- 投資対象の乗り換え
- 空売り
- キャッシュ化(現金化)
- その他、様々な商品を投資対象とした運用ポジションの構築、解消等
投資対象の乗り換えは、日々頻繁に起こります。A株を買って儲かったから、次に儲かりそうなB株に乗り換えるためにA社を売却(利益確定)、あるいは、A株が思ったほど上がらない(もしくは下落した)ので、見切りをつけてA株を売却(損切り)してB株を購入する、といったケースです。
空売りは、A株がこれから下がりそうだと判断し、A株を借りて、市場で売却するケースです。この場合、A株を貸してくれる機関(一般的には日本証券金融や証券会社等)があることが必要です。
キャッシュ化は、文字通り、株式から現金に換金して手元に置きたい、または別な用途ができた場合に起こります。新規上場会社の大株主の売却、事業会社のM&Aなど事業資金調達のための売却や、持ち合い株の解消など、様々な理由があるでしょう。
ただし、通常取引では純粋なキャッシュ化は起こりにくいです。なぜなら、現金を手元に置いておいても、新たな利益は生まないからです。
ちなみに銀行に預けるという行為は、債券投資(債権投資)と同等で、投資対象の乗り換えと言えます。また、生活資金を工面するための売却というケースも当然ありますが、その規模で考えれば、通常の株式市場のなかでは微々たるものです。
ヘッジファンド戦略の落とし穴
わかりにくいのが、様々な商品を投資対象とした運用ポジションの構築、解消による株価の下落です。
世界中の投資資金は、株式、債券(国債、社債、仕組債、CLO等々)、為替、金や原油などの商品といった様々な投資商品が相関をもって、複雑な仕組みによって組み合わせて運用されています。
例えば、多彩な運用スキームを駆使するヘッジファンドの代表的な手法として「ロングショート」があります。自動車株のT株とN株があった場合、割安なT株を買い持ち(ロング)し、割高なN株を売り持ち(ショート)することで、マーケット全体の下落や上昇に左右されないようにする投資戦略です。
これは基本的に、割安な銘柄は上昇しやすく割高な銘柄は下落しやすい、あるいは、上昇した銘柄は下がりやすく下落した銘柄は上がりやすい、という統計的な分析のもとに組み合わされています。
通常の急落であれば、このような様々なヘッジ手段により損失を回避したり、その急落を逆手にとって空売りやデリバティブを駆使して利益を得たりすることも可能です。しかし、ある一定の許容範囲を超える暴落となると、相関が薄れることで、それまで保たれていたバランスが連鎖的に崩れることがあります。
ロングショート戦略も、平時の下落には有効な投資手法であり、現在でもヘッジファンドの主流を占めていますが、これが裏目に出たのがリーマンショックでした。
ヘッジファンドがヘッジできないとき
ロングショート戦略は、一見リスクは低く感じられますが、別の角度から見ると、リスクが倍増しているとも言えます。マーケットの上下動には強いのですが、ポジション解消(アンワインド)にはとても脆弱なのです。
投資家が何らかの理由でファンドから資金を引き上げることを決定した場合、ファンドは運用ポジションを閉じることになります。先ほどの例で言えば、ロングのT株もショートのN株も、どちらのポジションも閉じて現金化する必要があります。
このとき、それらの引き受け手がいればいいのですが、マーケットに大きな変調が起きた場合には、ポジション解消の動きが増幅・連鎖して、資金の引き上げ・キャッシュ化が一気に加速します。こうして市場は売り一色となり、株価の暴落に拍車がかかります。
こうしたポジション解消の連鎖が続いたのが、リーマンショック時の暴落の特徴でした。
暴落後は、とりあえずSTAY HOME
いったん大きな暴落を経過すると、単純なリバウンド(反発)というわけにはいかなくなることにも留意しなければなりません。なぜなら、すでに様々なポジションに変調をきたしているからです。
コロナショックでも、ヘッジファンドのポジション解消やキャッシュ化が起きただけでなく、あらゆる相関が崩れたことで、市場の大混乱につながりました。資金量の大きなヘッジファンドがこぞって大きな動きに出たとき、個人投資家がその波に立ち向かうのは容易なことではありません。
大きな暴落が起こった際には、戻りの目途を想定する前に、相場の落ち着きを待つのが得策です。「いつもとは違うことが起きている」という認識のもと、「いつもの想定」が通用しないことを念頭に、VIX指数の低下や各種相関の正常化を待ってから相場に戻っても、決して遅くはないでしょう。