コロナショックで荒稼ぎ HFTに個人投資家はどう対処するべきか

山下耕太郎 2020/07/22

コロナショックを追い風に

2020年1~3月は、新型コロナウイルスの感染拡大により歴史的な暴落相場となりました。

アメリカの代表的な株価指数であるダウ平均株価は、2月12日の高値29,568.57ドルから3月23日の安値18,213.65ドルまで38.5%も下落。日本を代表する株価指数である日経平均株価も、2月6日の高値23,995.37円から3月19日の安値16,358.19円まで32%下落しました。

2008年のリーマンショック以来の暴落相場となったわけですが、それとは対照的に、相場の大荒れが追い風になった領域もあります。それが、コンピューター取引を使ったHFT高頻度取引)です。

HFT最大手のアメリカ企業、バーチュ・ファイナンシャルが発表した2020年1~3月期決算は、最終損益が3億8823万ドル(約410億円)と、過去最高益を記録しました。

新型コロナウイルスの影響でアメリカ株式市場のボラティリティ(変動率)が上がり、相場の変動率拡大とともに商いが膨らんだ結果、トレーディング収益が大きく伸びたのです。

HFT(高頻度取引)とは

HFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング=高頻度取引)とは、コンピューターを駆使した超高速の金融取引のことで、アルゴリズム取引の一種です。

アルゴリズム取引では、あらかじめ定めておいた手順に従ってコンピューターが自動的に注文のタイミングや数量を判断して取引します。なかでもHFTは、小口の注文を超高速かつ超高頻度で繰り返します。過去の値動きを統計的に分析し、1秒間に数千回もの高頻度で売買の注文を繰り返すのです。

HFTは、わずかな値幅や瞬時の動きを捉えて資金を回転させることで利益を積み上げます。取引対象は株式のほかにも、先物・オプションなどのデリバティブ、外国為替など流動性の高い市場となります。

日本におけるHFTの現状

2010年の東京証券取引所「アローヘッド」の稼働によって日本でもHFTを行える環境が整い、現在では注文の半数以上がHFTと言われています。金融庁がHFTの登録を義務付けていて、2019年10月時点で54社が登録しています。

全取引の半数以上と言われると、相場を支配して価格を操っているように見えますが、実際は違います。

HFTは市場の流動性の供給者として、重要な役割を果たしているからです。確かに相場変動の振れ幅を大きくしている面もありますが、相場のゆがみをいち早く見つけてサヤ取りを行うことで、むしろ早期のゆがみ是正につながっているわけです。

HFTがやっていることを理解する

コロナショックのように出来高が増え、ボラティリティが大きくなると、HFTは爆発的な利益をあげられますが、値動きがない時など、利益が出ない時期もあります。コロナショックで過去最高益をあげたバーチュ・ファイナンシャルでさえも、2019年までは事業の多角化でしのいでいる状態でした。

HFTの2つの戦略

HFTの主要戦略は、「マーケット・メイキング・アルゴリズム」と「裁定アルゴリズム」の2つです。

マーケット・メイキング・アルゴリズムは、市場に売り注文と買い注文の両方を出し、その価格差を収益源にします。たとえば、100円の買い注文を入れると同時に101円の売り注文を入れます。つまり、100円と101円を行ったり来たりしていると儲かる仕組みです。市場がどちらかの方向に動き出したら、素早く逃げます。

一方の裁定アルゴリズムは、同じ価値をもつ金融商品が異なる価格で売買されていることを発見して収益を狙います。たとえば、経済的価値が同じものを99円で買い、瞬時に100円で売ります。対象は、株式・先物・オプションなどです。

かつては証券会社のディーラーがやっていた

実際、HFTのビジネスモデルは、相場でいう「1カイ2ヤリ」に近い取引です。つまり、100円で買って101円で売るという値幅の薄い取引であるということ。以前は証券会社のディーラーが行っていましたが、HFTはこれを超高速・高頻度で行っているのです。

筆者もディーラー時代は、オプション取引でマーケット・メイキングを行っていました。たとえば、プレミアム10円に買い、11円に売り注文を入れて利ザヤを稼ぐのです。マーケット・メイキングの1円抜きは値幅を取れませんが、勝率が90%以上あるので、取引を繰り返すほど利益が出ます。

しかし、まもなくHFTが台頭し始め、その圧倒的なスピードに対抗できずにマーケット・メイキング業務から撤退しました。

HFTがフラッシュ・クラッシュを引き起こす?

HFTが一般にも注目されるようになったのは、2010年にアメリカ市場で起こったフラッシュ・クラッシュでした。わずか5分の間にダウ平均株価が約1,000ドル(5.49%)も下落し、その後2分で下落前の価格水準に戻ったのです。

この乱高下の原因がHFTではないかと疑われました。その後、原因は別にあったことが判明したものの、短時間で相場が大きく動くたびに、HFTをはじめとするアルゴリズム取引の影響が噂されます。

フラッシュ・クラッシュは、近年でもたびたび起きています。日本の為替市場では、2019年1月3日7時過ぎに、それまで108円台で推移していたドル円が104円台後半まで急落しました。

HFTは1000分の1秒を超えるレベルの頻度、速度で注文や取消・変更を繰り返す取引です。HFTが浸透した現在の市場は、このような予測できない大変動が起こりやすくなっている状況と言えるでしょう。コロナショックでも短期間で大きく下落し、戻りのスピードもかつてない速さでした。

個人投資家はどう捉えるべきか

アルゴリズム取引が個人投資家を食い物にしている──といった言い方もされますが、それは正確ではありません。アルゴリズム取引は、もともと金融機関のディーラーやトレーダーが行ってきた取引の高速化および自動化であり、個人投資家をワナに嵌めて収益をかすめ取るような取引ではないからです。

東証の発注シェアの大部分をHFTが占めるようになったとはいえ、ほとんどがマーケット・メイキング・アルゴリズムや執行系アルゴリズム(取引注文の執行によるコストの最小化や約定価格の最適化を狙う取引)であり、個人投資家を狙い打ちにするものではありません。

アルゴリズム取引によって値動きが増幅されるのは事実ですが、流動性の供給などプラスの面もあります。

「1カイ2ヤリ」や指標発表直後の飛び乗りのような超短期勝負のトレーダーへの影響は大きいものの、スイングトレードや長期投資のスタンスで取引している個人投資家は、過度にHFTを意識する必要はないと思われます。

HFTによる一時的なボラティリティ(価格変動)の大きさに惑わされず、自身のスタンスをしっかりと保つ姿勢が大切ではないでしょうか。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌 →この執筆者の記事一覧へ

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