あの有名銘柄はどうなった? 厳しい相場で健闘したのは? 12月のIPO市場を振り返る

石井僚一
2023年1月16日 8時00分

児玉研人 / Adobe Stock

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。そんな「夢の時代」にも陰りが見えてきました。IPOで上がる株と下がる株は何が違うのか。ランキングから読み解く【IPO通信簿】》

2022年12月は年間最多となる25銘柄がIPO新規株式公開)を行いました。しかし、マザーズ指数の大幅安という逆風もあり、公募割れが2割も出るなど不調となりました。一方で、赤字ながら初値騰落率が100%を超えるなど、健闘を見せた銘柄も。そんな2022年12月のIPO市場を振り返ります。

2022年12月のIPO市場

2022年の10月と11月は、IPO市場のバロメーターとなるマザーズ指数が2か月続けて上昇しました。さらに上昇が続いて年初1月の急落分の回復も期待された12月でしたが、残念ながら、11月の上昇分を超える下落となってしまいました。結果的に、4月以来の大幅安です。

マザーズ指数だけでなく、アメリカ市場をはじめとする各国の株式市場でも秋からの上昇が一服して下落に転じ、ナスダック指数も大きく下落。新興市場には厳しい12月でした。

(※2022年4月の市場再編により東証マザーズ市場はなくなりましたが、マザーズ指数の算出は継続中のため、このシリーズでは引き続きマザーズ指数を参照しています)

2022年12月IPOランキング

そんな12月には、2022年最多の25銘柄がIPOを果たしています。例年、12月のIPO件数の多さが問題視されるものの、昨年もその問題は解消されませんでした。

12月にIPOした25銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングで見てみましょう。

IPOの地合いに大きな影響を与えるマザーズ指数が大きく下落するなか、25銘柄中5銘柄が公募割れとなり、その率は20%という高い数字となりました。特に、26日にIPOした3銘柄はいずれも公募割れで、12月後半にIPOした銘柄には特に厳しい状況となりました。

一方、初値騰落率100%(=初値が公募価格の2倍)を超えたのは4銘柄。地合いは悪いながらも健闘しました。スカイマーク<9204>、note<5243>といった有名銘柄のIPOも行われ、様々な意味で注目を集めた1か月となりました。

2022年12月の気になるIPO銘柄

2022年12月のIPO銘柄の中から、特徴ある2銘柄を紹介します。

・note<5243>──初値は上昇するも、IPO当日にストップ安

note<5243>はメディアプラットフォーム「note」を運営する企業です。個人でも簡単にウェブメディアを持つことができるサービスであり、ベンチャー界では著名な企業として知られていました。

これまでの業績推移と今期の業績予想(IPO時点)は、以下のようになっています。

  • 2019年11月期:売上高7.9億円、経常利益▲2.9億円、当期純利益▲3.0億円
  • 2020年11月期:売上高15億円、経常利益▲2.7億円、当期純利益▲3.5億円
  • 2021年11月期:売上高18億円、経常利益▲4.3億円、当期純利益▲4.3億円
  • 2022年11月期(予想):売上高22億円、経常利益▲8.6億円、当期純利益▲8.7億円

売上高は着実に伸びており、今期は20億円の大台を突破する予定です。しかし、赤字は継続しています。特に前期(2021年11月期)から赤字が拡大しており、今期の経常利益はマイナス8.6億円まで拡大する予想になっています。

赤字拡大中で、なおかつ売出過多(公募210,000株:売出1,069,300株 )であり、IPOとしては不利な条件が重なっていました。しかし、一定の知名度のある銘柄ということもあってか、公募価格340円に対してついた初値は521円、初値騰落率は53%となりました。

ただ、2022年4月の第三者割当増資価格(2,062円)と比べると、340円という公募価格は7割以上もディスカウントされており、また、IPO当日にストップ安を付けるなど、様々な話題を提供するIPOとなりました。

・INFORICH<9338>──赤字&急成長企業のIPO成功事例に

INFORICH<9338>はモバイルバッテリーのシェアリングサービスを手がける企業です。コンビニなどでモバイルバッテリーのレンタル端末を目にする機会が増えましたが、そのサービスを展開する企業となります。

これまでの業績推移と今期の業績予想(IPO時点)は以下のとおり。

  • 2019年12月期:売上高0.9億円、経常利益▲12億円、当期純利益▲29億円
  • 2020年12月期:売上高5.6億円、経常利益▲18億円、当期純利益▲19億円
  • 2021年12月期:売上高16億円、経常利益▲19億円、当期純利益▲22億円
  • 2022年12月期(予想):売上高43億円、経常利益▲11億円、当期純利益▲11億円

3期前(2019年12月期)は1億円に満たない売上高でしたが、今期は40億円を超える予想となっており、急成長を果たしていることがうかがえます。

一方で、サービス拡大にともない赤字も拡大しており、前期(2021年12月期)は経常利益マイナス19億円まで拡大しました。ただ、今期には赤字のピークアウトが予想されています。

そんな赤字企業のIPOでしたが、公募価格4,600円に対し初値10,510円となり、初値騰落率は128%で、公募価格の2倍以上の初値でIPOに成功しました。時価総額も、公募時点で84億円でしたが、初値では194億円となり200億円目前の水準となりました。

売上が急拡大中という成長性に加え、赤字のピークを越えたことによる今後の利益計上への期待感、さらに、サービスが身近に存在するという知名度が評価された形です。年末の終値も11,470円でIPO後も株価は維持され、赤字企業のIPOの成功例といえるでしょう。

開店休業明けの復調を期待

2022年12月は25社もの企業がIPOを果たしましたが、マザーズ指数の急落があり、最もIPO件数の多い月ながら苦戦を余儀なくされました。そして、1月のIPO市場は例年「開店休業」状態となり、2023年1月も1件のIPOに留まります。

公募割れ銘柄が相次いだ2022年のIPO市場でしたが、しばしのお休みをはさんだ後、2023年の復調が期待されます。

[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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