オシレーター系はもう使えない? 逆張りのテクニカル指標があてにならなくなった2つの理由(2)
《テクニカル分析で勝ち続けるには、結局のところ何が必要なのか? 20年以上にわたって値動きと向き合い続けるテクニカルアナリストが、その本質について考え直す【テクニカル分析・再考】》
逆張りのテクニカル指標があてにならない理由
前回に続き、「逆張りのテクニカル指標」があてにならなくなったことについて書いていきます。対象としているのは、指数関連銘柄や先物、為替、CFDといった「テクニカル分析の当てはまりのいい銘柄」です。
逆張りのテクニカル指標があてにならなくなった要因には、取引時間が長くなったことと、高速取引が増えたことの2つがあります(1つめの「取引時間が長くなったこと」については、前回記事をご参照ください)。
逆張りの不安を和らげる逆指値注文
相場の行き過ぎ(買われ過ぎ・売られ過ぎ)を想定した取引は「逆張り」と呼ばれます。「順張り」が流れに沿った取引であるのに対して、逆張りは、流れと反対方向へ一時的に急激に変化したものが、もとの場所へ戻る動きを期待した取引です。
例えば、価格が下げている場面で、値位置や値動きからそろそろ上がりそうだと推測して、押し目買いを入れます。このような取引の場合、その値位置で価格が止まるか否かは、過去の値動きの経験則を基準にした直観でしかありません。必ずそこで止まって、反転上昇を開始するという根拠などありません。
想定していた通りに反転上昇を開始しなければ、当面その流れを継続してしまう可能性も十分に考えられるわけです。足場だと思っていた場所が実は落とし穴だった……ということがあるので、逆張りでの取引は、売り・買いが成立した後、自分の推測通りに価格が動いてくれるかどうか怖くて仕方のない取引と言えます。
そこで、逆張りでの取引を仕掛けた後は「逆指値注文」を入れておくことが一般的です。逆指値注文は、買いを手仕舞いする場合なら、ある値位置以下まで下げたら売る、といった注文方法です。逆指値注文を入れておけば、損失の幅が限定されるので、収益を計算しながら戦略を組むことができます。
AIの高速取引が逆指値を引っかける
ただし、逆張りの買い・売りと手仕舞いの逆指値注文のセットは、それを狙う側にとっての「おいしいエサ」にもなります。
売りによって買いを成立させ、同時に入る逆指値注文の値位置まで価格を下げてしまえば、手仕舞いの売りが売り圧力となって、さらに一段と価格を押し下げてくれるからです。また、価格を下げて、逆指値注文が入っているところで自らも手仕舞いすれば、相手の限定した損失幅が無条件で利益になります。
現在のAIと高速取引の組み合わせは、このような仕掛けを見逃さずに、おいしくいただいている可能性があります。
市場全体の注文と自らの取引量を瞬時に計算して、利益を得られるかどうかを判断し、価格を下げさせて、損切りに引っかけて、相手の損を利益として“小すくい”する取引など、AIには簡単にできてしまいます。しかも、おいしい料理が提供されている間、ひたすら同じ取引を繰り返し、利益を出し続けることができます。
こちらは、過去の値動きのパターンから、このあたりで反転するだろうと予想して、売り・買いを入れているだけですが、AIの場合、そこに出ている取引のすべてを把握して、自分が有利か否かを一瞬で判断して仕掛けを繰り返しています。
実際にどのような取引になっているかは状況によって異なりますが、AIでない個人投資家が短期で利益を得ようと考えるなら、現状で考えられる最悪の事態を想定して、それでもなお利益を得られる方法を模索しなければいけません。
AIは行けるところまで行ってしまう
2007年から2021年までの各1年間で、日経平均先物期近の1営業日における変動幅(高値−安値)が500円幅以上になった日数は、次の通りです。
- 2007年:9日
- 2008年:55日
- 2009年:1日
- 2010年:0日
- 2011年:7日
- 2012年:0日
- 2013年:24日
- 2014年:20日
- 2015年:32日
- 2016年:50日
- 2017年:9日
- 2018年:51日
- 2019年:21日
- 2020年:77日
- 2021年:100日
年間の営業日は245日前後なので、昨年2021年は2〜3営業日に1回は500円幅以上の動きになったことがわかります。コロナショックに見舞われた2020年よりも多いのです。
このような極端な値動きは、値位置が高くなったことであらわれている部分もありますが、AIによる取引が増えたことも理由のひとつとして考えられます。
人が判断する場合、怖さや不安を払拭できず、多くの市場参加者が注目していると想定される場所に近づくと、つい行動を起こしてしまいがちです。
一方でAIは、市場のすべてを見通して、売買のバランスを瞬時に判断したうえで、強弱を読み取れるのですから、空気感などには反応しません。行けるところまで行ってしまう、という動き方です。それが、変動幅にあらわれていると考えられるのです。
ちなみに、1営業日の変動幅は上昇・下降・横ばいの値動きの違いによって変わるのですが、それについてはいずれ紹介したいと思います。
オシレーター系指標はもう目安にならない
逆張りの目安になるテクニカル指標に「RSI(相対力指数)」というものがあります。一定期間の相場における「値上がり幅」と「値下がり幅」を活用して、値動きの強弱を数値で表し、買われ過ぎなのか売られ過ぎなのかを判断する手法です。
RSIは、一定期間において、「上昇した日の値幅合計」と「下落した日の値幅合計」をあわせたものを分母にして、「上昇した日の値幅合計」を分子にして算出します。一定期間の全体の値動きに対して、上昇した日の値幅の割合がどのくらいあったのかを知ることのできる指標です。
一般的には、RSIが30%、25%、20%を割り込むと売られ過ぎのため、「買いのサイン」になると言われています。70%、80%を超えると買われ過ぎのため、「売りのサイン」と言われます。
ただし、RSIは、ここが反転地点だということを明確に教えてくれる指標ではありません。過去の経験則から、おおまかに、ここまでくると反転下降する、あるいは反転上昇を開始する可能性がある、という目安に過ぎません。
そのため、RSIはもともと、反転サインとして使うには自分なりの工夫が必要な指標でした。工夫の仕方には、RSIの動きの特徴をつかんで、より信頼性の高い水準とRSIの動きの組み合わせを見つけることや、他の指標との組み合わせによって、反転場所を明確にすることなどがあります。
しかし、どんな工夫をして、RSIのサインを有効にするための努力をしたところで、逆張りの押し目買いを入れ、そして逆指値注文を入れた時点で、その取引がAIに狙われるのだとすれば、何の役にも立たないことになります。
まずは「過去の遺物」と向き合う
1営業日の変動幅が500円以上にもなると、1営業日の中での仕掛ける場所によって、成績が大きく変わってしまいます。日経平均先物で言えば、5分違うだけで200円以上も値位置が変わっていることなどざらに見られます。
RSIが10%以下まで下げて、極端に売られ過ぎていることを示したから、その日の終値で買いを入れて、その後、数日で価格が反転し、上昇を開始したとします。
しかし、反転を開始するまでの数日間、自分が許容できる最大以上の下げを経過し、それから反転を開始するのだと考えれば、RSIの数値は10%であっても0%であっても同じことです。
ここまでの話で、こうした指標はすでに「過去の遺物」にすぎないことがおわかりになったのではないでしょうか。過去の値段を使って導き出した答えで機械的に売買の合図を出す指標が、その時々の状況を即座に確認した上で最良を選択する取引に勝てるわけがありません。
ただし、テクニカル分析がまったくあてにならないわけではありません。また、解決策がないわけでもありません。しかし、まずは現状をしっかりと把握していただくことが重要だと考えています。解決方法はいずれ解説します。