株の世界の「定石」はどれくらいアテにできるのか?

小田 静
2018年8月8日 15時00分

株価に影響を与える要因を「材料」と言います。大小さまざまな要因がありますが、多くの材料には「こうなれば株価はこうなる」という基本パターンがあります。投資家はその「定石」にしたがって、ニュースや情報について「好材料か」「悪材料か」を判断することになります。

(参考記事)株価に影響を与える「材料」にはどんなものがあるのか?

しかし、この「材料」というのは実は曲者で、いつも定石どおりになるとは限りません。投資家たちの期待をよそに、株価がまったく逆の動きをすることもあるのです。

その時、定石が崩れた

為替レートは株価に大きな影響を与える材料です。そして、「円安になれば輸出銘柄の株価が上がる」というのは、株の世界でもっとも知られている「定石」のひとつと言えるでしょう。

なぜ「円安になれば輸出銘柄の株価が上がる」のかと言えば、円が安くなれば、海外で売られる日本製品は価格面で有利になり、また、日本企業が海外に持っている資産価値は円換算すれば上昇する、といった理由が挙げられます。

【参考記事】なぜ円高になると日経平均が下がるのか? 為替と株価の奇妙な関係

輸入銘柄なのに円高で値下がり、の怪

反対に円高になれば、商品を海外から輸入して日本国内で販売している企業にとっては、商品を割安で仕入れられるので好材料となります。したがって、「円高になれば輸入銘柄の株価が上がる」というのもまた「定石」です。

2016年の上半期は、1ドルの価格が120円程度から100円程度まで下がり、「円高ドル安」に傾いていきました。定石どおりであれば、輸入銘柄の株価は上がっていく……はずなのですが、そうならなかった銘柄もありました。

たとえばショーエイコーポレーション<9385>。国内でプラスチックパッケージを製造・販売するメーカーですが、原材料はアジアから仕入れるので、円高になれば原材料費負担が減る輸入銘柄です。しかし、この時期の同社の株価は値下がりしています。なぜでしょうか?

理由として考えられるのが、日本の株式市場の動向を表す指標である「日経平均株価」です。ここに含まれているのは、日本を代表するグローバル企業ばかり。つまり、円高が悪材料となる輸出銘柄が多いのです。

そのため、円高になると日経平均株価は下がります(これもひとつの「定石」です)。影響力のある大型の輸出銘柄が値下がりするので、投資家はどうしても慎重になりがちです。結果として、たとえ円高が有利な輸入銘柄であっても、ショーエイのような小型株には資金が向かいづらいのです。

このように、小型の輸入銘柄にとっては「円高になれば輸入銘柄の株価が上がる」という定石が当てはまらないことは往々にしてあるので、ご注意ください。

M&Aは好か悪か

近年、企業買収(M&A)はますます話題になっています。

一般的に、「買収される銘柄は株価が上がる」とされています。なぜなら、現在の株価よりも高く買い取ってもらえることを期待できるからです。つまり、買収される側の銘柄にとっては、M&Aは好材料ということになります。

一方、買収する側については、買収金額が妥当なのか、統合効果があるのかなどを厳しく判断されるため、「好材料となるか悪材料となるかはケース・バイ・ケース」と言えます。

巨額の買収額に市場も動揺

買収金額が高値づかみなのではないかという懸念からM&Aが悪材料になったのが、ソフトバンク<9984>です。2016年7月18日、イギリスの半導体設計大手ARM社の買収を発表した際には、3.3兆円という巨額の買収金額に市場が驚き、株価は一時10%もの値下がりを見せました(のちに回復)。

定石どおりに上がっても……

M&Aが発表され、買収される側の株価が定石どおりに上がっていったものの、交渉が決裂して株価も元通りに落ち着いてしまう……といったケースも多々あります。

シャープ<6753>の鴻海精密工業(台湾)への売却や、東芝<6502>の半導体事業の売却も、最終的には無事にM&Aが完了しましたが、その交渉の過程ではかなりの紆余曲折があり、どちらも当時の株価は常に不安定でした。

M&Aという材料を仕入れたら、まずはM&Aそのものが好材料なのか悪材料なのかを見極める必要があります。好材料だと思った場合でも、その先には大変な手続きと意思決定と時間が待っていることを理解した上で、最終的な投資判断を下すべきです。

定石は疑うためにある?

株の世界における「材料」は、株価の動きをわかりやすく理解するための便利なツールです。しかし、予測不能なことが起きるのもまた、株の世界の常です。

株式市場では、多くの投資家がそれぞれに様々な材料を見て、判断して、そうして株価が形成されます。自分の見方と市場の多数派の意見が違うこともありますし、予想外の大きな材料が突然現れたような場合には、市場全体が感情的になり、過剰に反応することもあります。

材料とその定石を知っておくことはたしかに有効ですが、決して万能ではないということを肝に銘じておきましょう。「定石どおりにはならないかも」という可能性をいつでも頭の片隅に置いておくことが、無駄な損失を回避するための大切な教訓かもしれません。

[執筆者]小田 静
小田 静
[おだ・せい]「バリュー株大好き」な個人投資家。高校卒業後は一般企業に就職するも、ビジネスに目覚めて退職。商学系の大学に進学する。とある投資家との出会いから投資を学ぶうちに株式投資のとりこに。現在は、ひたすら経済ニュースを追いかけて、銘柄分析をすることが生きがい。
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