すべてはあの男から始まった 144年目の再編に至る東証の今昔ものがたり

千葉 明
2022年4月15日 8時00分

pullwell/PIXTA

《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》

144年の歴史を駆け足で振り返る

 2022年4月4日に東京証券取引所の市場区分が、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」に再編された。

 ここでは詳細は省くが、原則として、東証1部企業のうち所定の基準を満たす企業はプライム市場へ。他の1部企業と2部企業、ジャスダック・スタンダード企業はスタンダード市場へ。そしてジャスダック・グロース企業とマザーズ企業はグロース市場へ……といった具合だ。あくまで私見だが、東証の今回の市場再編に関しては「何のための施策か」という基本的な疑問が残る。

 2022年、東証は開設から144周年を迎えた。まずは、草創期から戦後再開まで、そして今日までを駆け足で振り返り、エポックメイキングとなった出来事を振り返ってみよう。

それは3人の翁から始まった

 東証の前身である東京株式取引所が設立されたのは、1878年(明治11年)。「日本資本主義の父」と称され昨年のNHK大河ドラマ「青天を衝く」でも取り上げられた渋沢栄一を中心とした、3人の「翁」の手で設けられた。今村清之助は、角丸証券(のちの準大手証券・勧業角丸証券、現・みずほインベスターズ証券)の設立者。福地源一郎は、渋沢同様に旧幕臣にして、政治評論・劇作家・小説家でも足跡を残した。

 ただ株式取引所とはいえ、当初の上場企業は渋沢が興した第一国立銀行(日本初の株式会社)を含め4社に過ぎなかった。東京株式取引所、兜町米商会所(当時から『兜町』の名はあったのだ)と蛎殻町米商会所だ。主に取引されたのは「公債」。例えば国や地方公共団体が財源確保のために発行する、いわば借金証書の類だったのである。

 大正から昭和初期にかけては、関東大震災(1923年・大正12年)での東京株式取引所全滅、世界大恐慌(1929年・昭和4年)という大嵐の中で大暴落に晒された。だが、満州事変(1931年・昭和6年)を契機に、統制経済下で新旧財閥が外部資金を導入するために株式を公開し、富裕層を軸に株式投資熱が膨らんだ時期もあった。

 第二次世界大戦下でも株式取引は行われたが、戦況悪化で活気は急速にしぼんでいった。そうした中で特筆に値するのが、本邦初の(と思われる)「官製相場」の出現である。1945年(昭和20年)3月の東京大空襲以降、戦況悪化で下がり続ける株価を下支えするために国が「買い」に向かったのだ。

「株価は森羅万象を映し出す鏡」と言われる。「欲しがりません、勝つまでは」と、本土決戦に備えた「竹やり訓練」が行われるような世相の中であっても、株価は「敗戦」を如実に反映していたといえる。事実、8月に「原爆投下」の報が入ると株式市場は停止され、1949年(昭和24年)の取引再開まで3年9か月にわたって閉鎖が続いた。

 では戦前に取引されていた銘柄は……。なんとか掘り起こしたいと思い国会図書館にも出向いたが、徒労。掴み得たのは、日本証券取引所による「日本証券取引所業種別株式上場銘柄数(1945年5月末日)」。せっかくなので一覧で掲載しておこう。

  • 出資証券      2(現優先証券)
  • 銀行・信託・保険  64
  • 投資・拓殖・証券業 28
  • 取引所       2
  • 鉄道・電鉄     62
  • 運輸・通信     28
  • 瓦斯・電気     43
  • 鉱業        86
  • 造船・造機     232
  • 鉄鋼・金属・精錬  81
  • 繊維        58
  • 精糖・製粉     18
  • 食品・水産     29
  • 化学工業      65
  • 窯業        25
  • 製紙・印刷・皮革  26
  • 諸工業       31
  • 護謨・煙草     23
  • 土地・建物・倉庫  17
  • 諸商業       46

お役所仕事が生んだ2部市場

 戦後相場の「転機」は幾つかある。まず注目したいのは、1949年4月の東証再開の翌5月に日本証券業協会(日証協)の管理下に設けられた「店頭売買承認銘柄制度」である。

 伏線は、GHQ管理下で東証再開が無期延期とされた1945年9月26日以降の「現実」に求められる。中小企業・投資家双方の間では、戦後復興のための資金ニーズが高まっていた。そこで証券会社の売買担当者たちの間から自然発生的に(?)、一定の場に集まって株式取引を行う「集団売買」が広まっていった。これが株式店頭取引市場の礎となった。

 そして東証再開に際して、「非上場企業・中小企業にも資金調達の場を」という観点から店頭売買市場が生まれた。日証協に登録した証券会社には、所定の非上場企業の相対売買の仲介が認められたのである。

 1960年代に入ると、店頭売買市場の規模は、東証・大阪証券取引所(大証)に次ぐ取り扱い額の市場になっていた。すると、証券取引審議会が「検討課題」として、問題視した。後手後手にまわるあたりは、いかにもお役所。証取審は証券取引法(現・金融商品取引法)を持ち出し、「市場類似開設の禁止に抵触の恐れがある」と答申するのと同時に、「市場第2部を設置し店頭承認銘柄の吸収」を箴言したのだ。

 その結果、1961年に東証・大証・名古屋証券取引所(名証)の3市場に第2部市場が創設され、店頭売買承認銘柄制度は廃止された。この流れに関しては「お役所仕事」との悪たれはついたが、実は結果として、株式市場を拡幅・活性化する大きな出来事の布石となったのである。

《つづく》「スタンダードで結構」 東証再編に残る疑問とグロース市場への期待

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[執筆者]千葉 明
[ちば・あきら]東京証券取引所の記者クラブ(通称・兜倶楽部)の詰め記者を振り出しに、40年以上にわたり、経済・金融・ビジネスの現場を取材。現在は執筆活動のほか、講演活動も精力的に行う。『野村證券・企業部』『ザ・ノンバンク』『円闘』など著書多数。
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