円安で上がる株・円高で上がる株 為替が業績と株価に与える影響とは

佐々木達也
2023年12月18日 17時00分

円安で上がる株・円高で上がる株

円安による輸出企業の業績へのプラス効果が、現在の日本株を下支えしています。11月25日の日本経済新聞(電子版)によると、主要な77社の4~9月期の営業利益は前年同期比で約8100億円押し上げられましたが、その約半分が円安によるものだったとのことです。

一方で、足元の為替レートは円高に振れており、1ドル=142円台まで円高が進んでいます。11月下旬に一気にドルが下がった際には、ニトリホールディングス<9843>など輸入型の内需系企業が買われる場面もありました。

為替の変動は、株式相場全体に影響を与えます。それは、為替による日本企業の業績へのインパクトが大きいからです。円安のメリットを受ける企業なら、為替レートが円安に振れることで業績アップが期待され、買いが集まって株価が上がります。円高メリット企業の場合も、同じです。

為替が大きく動いた一年の終わりに、円安・円高それぞれのメリットと、それらの恩恵を受ける業種・銘柄のポイントを整理しましょう。

円安メリットの外需系企業

円安は、外需系企業にとって有利な要素となります。なぜなら、円が安くなることで日本製品の価格競争力がアップし、海外での需要が増えるからです。特に、自動車やなどの製造業では、海外展開が盛んなため、円安メリットが大きく現れます。

また、海外に生産拠点を持つ企業も、円安のメリットを享受することができます。円安により海外での生産コストが下がるため、収益にプラスの影響を与える可能性があるからです。さらに、企業が保有している外貨建ての資産なども、円安(ドル高)になると資産価値が高まります。

円安でメリットを受ける業種としては、海外売上高比率の高い自動車、自動車部品、電気機器、機械、商社などが該当します。

具体的にどの程度のメリットになるのか? 企業によっては、1円の円安で営業利益がどれくらい押し上げられるかの数値(為替感応度)を公表しています。たとえばトヨタ自動車<7203>の場合、わずか1円の円安で営業利益が450億円も押し上げられます。

円安の影響で業績が上方修正された場合は、販売の数量の増加や値上げ、コストダウンなど、為替以外の部分での業績の押し上げがどの程度あったか、を把握することも大切です。

想定為替レートから余裕度を知る

トヨタは11月1日、今期(2024年3月期)の業績予想を上方修正しました。円安の進行だけでなく値上げやコスト削減の効果によるものとしています。そして、想定為替レートは1ドル=141円とし、従来の125円から円安方向に見直しています。

この想定為替レートは、円高に対するバッファ(余裕)を知る目安となります。たとえば1ドル=150円から142円になったとしても、トヨタは141円を想定としているため、これだけで業績が下振れる可能性は低いと言えます(実際には米ドル以外の為替レートも影響するため、あくまで目安です)。

日本企業全体の想定為替レートは、日銀が四半期ごとに発表する日銀短観(全国企業短期経済観測調査)で確認することができます。

12月13日に公表された12月調査の結果によると、日本企業(全規模・全産業)の事業計画の前提となっている2023年度の想定為替レートは「139.35円」。現在の為替(142円)は依然としてこれよりも円安のため、日本企業全体で見ても、想定と比べて円安メリットが働いていると見ることができます。

円高メリット銘柄とは?

為替が円高に振れた場合、業績にプラスになる銘柄にはどのようなものがあるでしょうか?

円高が有利に働くのは、基本的に内需系企業です。内需系企業とは、国内市場に主力を置いている企業のことを指します。内需系企業の中でも、特に次のような業種が円高メリット銘柄として注目されています。

・住宅関連

需要が地域に依存している一方、円高が進むと資材などの輸入コストが下がります。住宅購入者にとっても、輸入品が割安になるため、需要が喚起される可能性があります。

ただし、住友林業<1911>などのように海外での売上高比率の高い企業は、円安がメリットになる場合もあります(住友林業は特に北米での住宅事業が近年急速に伸びていました)。

・食品・飲料メーカー

食品や飲料のように日常的に消費される必需品メーカーも円高メリットとなります。円高によって輸入コストが下がるため、国内価格が安定し、採算の改善につながるためです。

サントリー食品インターナショナル<2587>は欧州、米州、アジア太平洋地域の売上高比率が高く、円安がプラスに寄与します。

・紙・パルプ関連

パルプなどの原料を輸入でまかなっている製紙メーカーも、円高がプラスに働きます。

製紙大手の日本製紙<3863>は、11月14日に牛乳や清涼飲料向けの紙パック製品を10%値上げすると発表しました。急速な円安によるコスト増に対応するためです。

・電気・ガス

電力・ガス会社は、液化天然ガス(LNG) や原油などエネルギー源のほとんどを海外から輸入しています。そのため、円高はコストダウンにつながります。特に電力・ガス会社の場合、コストのうちエネルギーの占める割合が大きいため、円高メリットを享受しやすい業種といえます。

内需でも円安メリットのインバウンド

観光業や百貨店など内需系企業の一部は、近年ではインバウンド(訪日外国人)によって円安の恩恵を受けることができています。円安によって海外の旅行者から見た日本への旅行が割安になり、日本への観光客が増え、消費が活性化することで、業績向上が期待できます。

7~9月期の訪日外国人の消費動向調査(観光庁・1次速報)によると、コロナ禍前の2019年の同時期と比べて、旅行消費額は18%増の1兆3904億円になりました。

内訳は、宿泊費がもっとも多く34%、次いで買物代が26%、飲食費が23%となっています。2019年と比べると宿泊費の割合が増えた一方で、買物代は低下しています。ひところ見られたような“爆買い”型の消費ではなく、観光・移動・宿泊の”コト消費”のウエートが高まっています。

為替の影響にはタイムラグがある

為替は企業の業績に影響を与えるものの、実際の輸出入などの決済における為替レートは、貨物の到着タイミングや物流の状況、相手先との取り決めなどによって大きく異なります。そのため、瞬間的に円高(円安)に振れてその後に戻ったようなケースでは、業績に与える影響は軽微なものになります。

また、企業によっては為替予約取引(先の日付での為替取引を予約すること)を用いる場合もあります。たとえば、1ドル=140円で1年先の為替を予約している場合、もし1年後に150円になっても140円で決済することができます(130円になった場合は円高による恩恵を受けることができません)。

このように「円安メリット」「円高メリット」というのは、あくまでも企業の業績に与える一般的な影響を考えた場合の話にすぎません。実際にその企業の業績にどのような影響がどの程度あるかは、個々の事情によって異なるため、四半期ごとの決算などで確認する必要があります。

株価の方向性を理解する下地

為替相場は需給、二国間の金利差、経済の状況、金融政策など様々な要素が複雑に絡み合って、日々の相場が形成されています。そのため特に短期・中期で為替の相場を当てることは、金融の専門家でも非常に難しいです。

為替が大きく動くたびに、円安メリット・円高メリットの銘柄が買われたり話題になったりします。しかし、その動きは簡単に予想できるものではありませんので、短期的な値動きに半ば“賭ける”ような形でこれらの銘柄に投資することはおすすめできません。

それよりも、為替と企業業績、株価の方向性について理解するための下地として、また、いま買われている(売られている)銘柄の背景を知る手立てのひとつとして、円安メリット・円高メリットの知識を役に立てていただけると幸いです。

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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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