これから景気は良くなる? 悪くなる? 景気の方向性を示す「景況感」を知る

佐々木達也
2022年8月17日 16時00分

Sondem/Adobe Stock

アメリカは景気後退へ?

7月28日、アメリカの商務省は4~6月期の実質国内総生産(GDP)が年率換算で前期比0.9%減になったと発表しました。1~3月期の1.6%に次いで2四半期連続で減少したことから、機械的な景気後退(テクニカルリセッション)となりました。

これまでにも景気後退を示すシグナルである「景況感」が悪化していたこともあり、株式市場ではある程度、織り込んでいました。ただ、最近は株式市場でも欧米の景況感への注目度が高まっており、経済指標の発表は日本株にも大きなインパクトを与えています。

そもそも「景況感」とは何なのか? また、景況感を示す経済指標について解説します。

景況感とは?

そもそも景気とは、取引や売買などの経済活動の状態を指します。経済活動が活発であれば「景気が良い」、 停滞していれば「景気が悪い」ということになります。

「『景気』の『気』は『気分』の『気』」とよく言われますが、この景気の判断には、実際の取引や経済活動だけでなく、人々が現状の取引や購買意欲などに対して「どのように感じているか(良いか悪いか)」、つまり「景況感」も含まれています。

ハードデータとソフトデータ

景況感を表すのは、さまざまな経済指標です。経済指標には、調査する機関や国ごとにさまざまな種類があります。この経済指標はまず大きく「ハードデータ」と「ソフトデータ」に分けられます。

「ハードデータ」とは、自動車の販売台数、小売り売上高、失業率、雇用者数など、すでに事実として起こった事象に関する経済指標です。ハードデータはすでに確定した事実を表すため、より正確性が高い反面、集計に時間がかかり、発表が遅くなります。

これに対して「ソフトデータ」は、ここで紹介している「景況感」のように、対象の人々に聞き取り調査を行い、足元の状況や先行きの見通しを「どう感じているか?」 を集計した経済指標となります。

ハードデータに比べて正確性はやや劣るものの、速報性に優れており、現状の消費者や企業のセンチメント(感想や印象のこと)をいち早くつかむことができます。

今回は、アメリカと日本の景況感を表すソフトデータをいくつか紹介しましょう。

アメリカの景況感を知る

まずは、アメリカで代表的な「ISM景気指数」です。ISMとは全米供給管理協会(Institute for Supply Management)のことで、代表的な指数として「ISM製造業景況感指数」があります。1930年代から算出されていた伝統ある経済指標です。

ISM製造業景況感指数は、全米の製造業の購買(仕入れ)担当責任者に対してアンケートを行い、1か月前に比べて「良くなっている」「変わらない」「悪くなっている」の3択形式で回答してもらいます。そして季節調整などを行ったうえで、指標のパーセンテージを算出します。

質問項目には、基準となる「総合指数」のほか、「生産」「仕入れ価格」「受注残」「在庫」などがあります。それぞれ基準のパーセンテージは「50」とされており、例えば「総合指数」が50を上回っていれば景気拡大を、50を下回っていれば景気減速を指し示すとされています。

全米の300社以上の製造業の購買担当者にヒアリングしており、毎月第1営業日に前月分が発表され、他の経済指標よりもかなり早めに最新の景況感をうかがい知ることができることも、この指数の注目度が高い理由となっています。

経済指標を扱うサイトやニュースなどでも直近のデータを確認できますが、より詳しい内容を知りたい方は、全米供給管理協会のホームページから一次資料を見てみることをおすすめします。

直近の最新のレポートによると、7月のISM製造業景況感指数のうち「総合指数」は52.8%。好景気と不景気の境目の50は上回っているものの、5月の56.1から比べると、前月6月の53.0に続いて低下しており、基調とチャートの形が示すように景気が減速していることがわかります。

項目別では、新規の受注を示す「New Orders」は48.0で6月の49.2からさらに低下している一方で、価格の動向を示す「Prices」も6月の78.5から60.0まで低下し、インフレがやや落ち着いてきているのかもしれません。

また、経済においてサービス業など非製造業の比重が高まってきたこともあり、近年では「ISM非製造業景況感指数」も算出されるようになり、同様に注目されています。こちらは、毎月第3営業日の発表です。

アメリカの消費者の購買意欲を知る

アメリカの個人の消費意欲を景況感として示す経済指標に、民間の経済調査機関であるコンファレンス・ボード(全米産業審議会)が発表する「消費者信頼感指数」があります。

およそ5000世帯を対象に、1985年時点を100とした現在と半年後の景況感についてアンケートを行います。雇用や景況感などの5項目を集計したデータが、毎月最終火曜日に当月分が発表されます。

この指数も、コンファレンスボードのホームページで最新のデータを確認できます。

7月26日に発表された7月の消費者信頼感指数は95.7で、6月の98.4から2.7ポイント減少。これで3か月連続での低下となりました。プレスリリースでは、特にガソリンと食品価格の上昇というインフレに対する懸念が、引き続き消費者の重荷になっていると解説しています。

日本企業の景況感を表す「日銀短観」

日本銀行が集計・公表する「全国企業短期経済観測調査」、通称「日銀短観」は、日本の企業の景況感を表す経済指標として重要度が高く、注目されています。

四半期ごとに、全国の資本金2000万円以上の民間企業にアンケートを行い、集計した結果を4月初旬・7月初旬・10月初旬・12月中旬に発表します。

調査項目は、国内および海外の製品や商品・サービスの受注・仕入れ・販売価格、雇用や資金繰りの状況など13の項目に細かく分かれており、それぞれ現在と先行きの状況について「良い」「さほど良くない」「悪い」から選択する形式となっています。

本項目のほかにも、今年度の売上高や経常利益などの業績見通し、輸出に際して想定している為替レートや設備投資の額なども調査されており、為替変動の織り込み具合や先行きへの投資姿勢を確認する材料として株式市場でも参考にされます。

日銀短観も、日本銀行のホームページで直近や過去のデータを確認できます。また、調査の方法や細かい解説についてもかなり丁寧に開示されていますので、指標として参照するにあたっては、そのあたりのことも理解しておくといいでしょう。

景況感が株式市場に与える影響

株式市場は常に、先行きに対する「思惑」で動きます。そのため、景況感など速報性の高いソフトデータは株式市場に影響を与えることがよくあります。基本的にはシンプルに、景況感が良くなれば景気改善を示すので株式市場でも好感される、という見方になります。

ただし現在のように、欧米ではインフレによって中央銀行が金融引き締めに向かっているような局面では、良い景況感は、中央銀行が景気の過熱を押さえるために金融引き締めを加速させるのでは、と受け止められてマイナスに働く場合もあります。

もっとも、足元ではすでに景気減速が意識されるようになっており、景況感の数値が下振れしたことで過度の金融引き締め観測が後退し、金利低下局面で買われやすい成長株(グロース株)などに資金が向かう、という現象が起きています。

また、ここで紹介したような重要な経済指標の発表にあたっては、事前にアナリストやエコノミストによる「市場予想」が形成され、その予想と比べて実数はどうだったか、という観点でもマーケットに評価されます。

経済指標を見る際には、それまで流れをつかんでおくことが大切です。ニュースなどで指標の発表が報じられた際には、その報道だけでなく、発表機関の開示する一次データにも目を通すようにすると、「点」ではなく「線」でマーケットの流れを理解できるようになるでしょう。

[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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