金利上昇は株式市場に波乱をもたらすのか 株価への影響と気になる円安の行方

山下耕太郎
2025年2月18日 16時00分

昨年末から続く世界的な金利上昇圧力は、株式市場にどのような影響を与えるのか。その現状と要因から整理します。

世界的な金利上昇の現状

現在、主要国の国債利回りは軒並み上昇傾向にあります。1月13日には米10年債利回りが4.80%に達し、2024年9月の利下げ以降、100ベーシスポイント以上の上昇となりました。また、英30年物国債利回りは5.4%となり、1998年以来の高水準です。

さらに、ドイツやイタリア、そして日本でも利回り上昇が進行。日本の10年物国債利回りは1月15日に1.26%と、13年9か月ぶりの水準に達しました。

この金利上昇の背景には、アメリカの雇用統計の堅調さが挙げられます。これにより、FRBが利下げを急がないだろうとの観測が広がり、アメリカの金利上昇が日本の長期金利にも波及したのです。

なお、昨年8月には、金融市場で株価下落や急速な円高といった動揺が見られましたが、これは、アメリカの雇用データの低迷による景気悲観論の拡大と、日銀の利上げ観測が重なった結果と考えられます。

金利上昇の主な要因

世界の債券市場では売り圧力が続き、利回りが重要な水準まで上昇しています。その要因として、以下の3点が挙げられます。

  • 高インフレの継続:各国のインフレ率が目標を上回って推移しており、中央銀行は引き締め政策を継続している
  • 政治的混乱と財政赤字拡大(への懸念):トランプ氏が大統領に就任し、大規模な財政出動がインフレ圧力を増幅するとの懸念が広がっている
  • タームプレミアムの上昇:タームプレミアム(Term Premium)とは、投資家が長期債を保有することで受け取る追加的なリターンのこと。具体的には、同じ信用リスクを持つ短期国債をロールオーバーし続ける場合と比較して、長期国債を保有することで得られる超過リターンを指し、長期債の利回りが短期債の利回りを上回る要因のひとつ。現在は長期債のリスクプレミアムが拡大し、債券価格が下落することで利回りが上昇している

金利上昇が株式市場に与える影響

金利上昇は、借入コストの増加という形で企業業績に影響を及ぼします。特に資本集約型産業では、金利負担の増加が利益を圧迫し、株価下落の要因となります。

また、相対的に魅力が高まった債券市場に投資家が資金を移動させることで、株式市場の流動性の低下にもつながりやすくなります。

さらに現在は、S&P500指数の予想益回りが4%台前半にとどまり、米10年債利回りと比較すると割高感が増しています。米国債の運用利回りが5%に達すれば、株価調整や弱気相場の引き金となる可能性があるので、警戒が必要でしょう。

金利上昇が為替市場に与える影響

金利上昇は、為替市場にも大きな影響を与えます。

  • 金利差拡大による資金流入:高金利の国には資金が流入しやすくなり、その国の通貨高が進行
  • キャリートレードの巻き戻し:低金利通貨で借りて高金利通貨に投資するキャリートレードが縮小し、為替市場が不安定になる可能性も

昨年8月の円高は、日銀の金融政策に対する思惑に加え、アメリカ景気への懸念や地政学的リスクの高まりが複合的に作用した結果とされています。

日銀は1月の金融政策決定会合で追加の利上げを決定し、政策金利を0.5%程度にまで引き上げました。これは昨年7月以来の利上げであり、政策金利は2008年10月以来の高水準となりました。

一方、アメリカのFOMCは、1月28〜29日に開催した定例会合で政策金利の据え置きを決定しました。FRBのパウエル議長は、利下げを急がず、インフレ面での進展を見極めるため、昨年の連続利下げをいったん停止する、と説明しています。

日米の金融政策の違いが明確になり、円安ドル高の動きが変わる可能性もあります。日本は長期にわたる低金利政策からの転換を進める一方で、アメリカは利下げを慎重に判断しており、今後の金融市場への影響が注目されます。

冷静な分析と、リスク管理の徹底を

今後の株式市場は、金利上昇という強い逆風の中で推移すると予想されています。世界的な債券利回りの上昇により、企業の資金調達コストが増加し、特に資本集約型企業の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

相対的に魅力が高まった債券市場へ資金が流れ、株式市場の流動性が低下するリスクが考えられる一方で、為替市場では日米の金融政策の違いが明確になり、円安ドル高の動きが変化する可能性も。

日銀の利上げと米FRBの慎重な金融政策運営が、今後の市場動向に大きな影響を与えるでしょう。 なお、次の日銀金融政策決定会合と米FOMCは、いずれも3月18日(火)・19日(水)に予定されています。

しかしながら、生成AIの発展や今後の金融政策の動向によっては、市場にプラスの材料が加わる可能性もあります。金利上昇に伴う市場の変動を冷静に分析し、リスク管理を徹底した長期的な投資戦略を構築するようにしましょう。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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