金利と株価の「密」にご用心 長期金利の上昇で上がる株・下がる株とは

岡田禎子
2021年5月12日 15時00分

《2021年2月末のアメリカの長期金利の急上昇によって、日米ともに株価が大きく調整したことは記憶に新しいところです。では、なぜ金利が動くと株価も動くのでしょうか? そこには、金利と株価の“密”な関係があるのです》

アメリカの長期金利に世界が右往左往

長期金利と株価がこんなにも強く密接な関係だったとは──。個人投資家の深いため息が漏れきこえた2021年の春相場。

それは、2021年2月25日のアメリカ株式市場の急落から始まりました。

2月23・24日、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が足元の長期金利の上昇を静観する姿勢を示したことで金利上昇に弾みがつき、25日には長期金利の指標となる米10年国債利回りが一時1.6%台まで急上昇しました。

それを受けて、ダウ平均株価は550ドル85セント安(前日比−1.8%)、ハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数は478.54ポイント(同−3.5%)と大きく下落。さらに、翌26日の東京株式市場でも日経平均株価は1日で1,202円も下げるなど、市場に動揺が走りました。

「金利が上がれば株価は下がる」

株価の急落は突然の出来事だったようにも感じられますが、実際には、「(長期)金利が上がれば株価は下がる」という金利と株価の関係を知っている投資家の間では「やっぱり」という感想が正直なところでした。

〈参考記事〉資産運用をするなら理解しておきたい「金利」の基礎知識

コロナショック以降、米10年国債金利は一時0.5%まで急低下しました。しかし、2020年後半から反転し、年明け以降は上昇ペースが加速していました。「そろそろ危ない」と誰もが思っていた矢先に、一気に1.6%まで急上昇して、株価が崩れたのです。

続く3月相場では、アメリカの長期金利の動向に翻弄される相場展開が続き、朝一番に寝不足の目をこすりながらスマホをチェックした個人投資家も多いはず。

マーケットにおける金利と株価の関係の重要性を思い知らされた2021年の春相場でしたが、それでは、なぜ金利が上昇すると株価が下落するのでしょうか?

金利が上昇すると株価が下落する理由

一般的に、長期金利と株価は「シーソーの関係」といわれています。どちらかが上がればどちらかが下がる、一方が熱くなればもう一方は冷めるという、いつもどちらかが片思いのシーソーゲームのような関係なのです。

その密やかで強い関係を知っている投資家は、マーケットのメインストーリーともいえる両者の関係に目を光らせ、その動向を最も重要視して常に観察していると言っても過言ではありません。

そんな「金利が上がれば株価は下がり、金利が下がれば株価が上がる」という仕組みは、投資家の行動と株価の理論値から説明できます。

投資家の行動が株価を動かす

まずは投資家の行動パターンです。例えば、長期金利が3%から0.1%に低下した場合、投資家は債券に投資してもわずかな利息しか手に入らないため、債券よりも株式投資を行ったほうが有利と考えます。そのため資金が株式に向かい、株価が上昇します。

金利低下 株価上昇

一方で、長期金利が上昇した場合はどうでしょうか。長期金利が1%から3%に上昇した場合、投資家の多くは株式のようなリスクの高いものよりも、3%の利息がもらえる債券のほうに魅力を感じます。そのため、株価は下落します。

金利上昇 株価下落

身近な例として銀行預金で考えてみると、定期預金の金利がほぼゼロ水準の場合、「株式投資でもしてみよう」という気にもなるでしょうが、定期預金で3%も利息がもらえるなら、わざわざリスクの高い株式投資をしようとは思わないはずです。

投資とは比較と選択のゲームであり、投資家は「相対的に魅力があるもの」を選ぼうとするのです

〈参考記事〉知らないともったいない、金融政策を株式投資に生かす方法

理論的な株価と金利の関係

今度は、株価の理論値から金利と株価の関係性を考えてみます。

一般的に株価の理論値(理論的な株価)を計算する場合、「その会社が将来得るであろう利益」やキャッシュフローを現在の価値に割り引いて理論値を出します。

理論株価=利益÷(金利−成長率)

このとき割り引く金利には一般的に長期金利が使用されるため、金利が上昇すると、計算上の株価の理論値は低下します。すると、現在株価に割高感が生じて、理論値に沿うようにして下落する傾向があるのです。

長期金利の上昇で売られる株

それでは、金利上昇時に売られやすい株とはどのようなものでしょうか?

一般的に、金利が上昇する局面で大きく下がるのはハイテクなどのグロース株成長株)です。グロース株とは将来の成長期待が高い株のことで、一般的に、PERが高いものがグロース株として買われています。

PERとは投資家の企業の「成長期待」を表す指標で、「株価÷1株あたり利益」で計算されます。

長期金利の上昇は企業活動や経済活動には逆風となるため、その分、企業の成長期待が削がれます。するとPERは低下し、株価も調整となってしまいます。そのため、高いPERの銘柄ほど、こういったマーケットの潮目にはこっぴどく売られてしまうのです。

金利上昇 → PER低下 → 株価下落

高PERゆえの「益利回り」もネックに

さらに、PERが高い銘柄ほど「益利回り」と金利を比較されやすくなります。

益利回り」とは、1株あたりの利益を株価で割ったもので、PERの逆数(1÷PER)です。これは株価の割安性を表す指標で、PERは低いほど株価は割安とされますが、益利回りの場合は高いほど株価は割安と判断されます。

・金利上昇で益利回りの低さが露呈

PERの一般的な水準は15〜17倍とされていますが、特に成長期待の高いグロース株の場合、PER100倍を超えることも珍しくありません。その場合、益利回りは1%です(1÷100=0.01)。

例えば、長期金利が0.5%から1%に上昇したら、この「PER100倍、益利回り1%」という株の評価はどうなるでしょうか?

長期金利が0.5%であれば、益利回り1%のほうが利回りとしては高いため、PER100倍でも魅力的と評価されます。ところが長期金利が1%を超えると、債券の魅力がぐんと上回ってくるため、いくらグロース株とはいえ、PER100倍以上(益利回り1%以下)という株価は正当化されにくくなるのです。

これとは対照的に、「PER20倍、益利回り5%」という株であれば、長期金利が1%になったとしても、それよりも高い5%の益利回りがあるため、金利が上昇しても大きな影響を受けることがありません。

金利上昇で夢から醒めた投資家たち

このようにPERの高いグロース株は、長期金利が上昇すると相対的な益利回りの低さが嫌気されるために、売り圧力が強くなるのです。

実際、2021年2月の急落場面では、これまで高PERで買われていた大型グロース株が売られ、特にテスラ<TSLA>の急落が市場心理に悪影響を及ぼしました。日本でも、半導体関連を中心にグロース株が下落しました。

長期金利の上昇によって、投資家は「成長期待」という夢から目を覚まして現実を直視した、というのがピッタリな表現かもしれません。

長期金利の上昇で買われる株

金利上昇で株価が下落しやすくなるとはいえ、すべての銘柄が売られるわけではありません。実際のマーケットでは、長期金利が上昇して下がる株もあれば、上がる株もあります。

足元では、2月の長期金利上昇によって急落したグロース株とは対照的にバリュー株が買われる、という動きが鮮明となっています。東証1部上場銘柄をグロース株とバリュー株に分けた指数「TOPIX500グロース」「TOPIX500バリュー」の動きにも、それがよく表れています。

バリュー株の中でも特に、このような金利上昇局面で買われやすいのが景気敏感株銀行株です。

景気敏感株とは、景気の変動に応じて業績が大きく変化する業種の株のことで、海運株、商社株、機械株などが挙げられます。金利上昇局面では景気回復してくることが多く、業績の向上が期待できるのです。

また、銀行株も買われやすくなります。金利上昇で利ザヤが増えるために収益拡大が期待できるためです。

2002年からのいざなみ景気、2012年末からのアベノミクス相場の景気回復局面でも、これらの株価の上昇が見られました。

・日本郵船<9101>

ワクチンの普及を背景とした世界経済の回復期待から、世界の物流を担うグローバルな景気敏感株である海運株に投資家の熱い視線が集まっています。

日本郵船<9101>は海運の国内トップ企業で、バリュー株の代表的な銘柄のひとつ。2021年4月に2021年3月期の経常利益予想を1600億円から2000億円に上方修正しており、その後、5月の決算発表で13期ぶりに過去最高益を更新しました。

株価は、3月に出された大手証券会社の強気レポートによって、さらに大きく上昇。新たな上昇波動入りとなっています。

相場のシグナルを読み取るには

足元の米10年国債利回りは1.5%台での低位安定が続き、市場は落ち着きを取り戻しています。景気の回復でこのまま企業業績が持ち直すならば、金融相場から業績相場へと移行し、投資家の目も個別銘柄へと向かうでしょう。

ただし、中央銀行の金融緩和政策の転換によって金利と株価のシーソーが大きく動く可能性があることも、リスク要因として考えられます。FRBのスタンスにも打ち勝つほどの業績拡大が期待できる企業を見つけることができれば、この荒波を乗り越えられるかもしれません。

マーケットは様々な思惑・材料で動きますが、長期金利と株価の関係は重要なメインストーリーのひとつ。その動向を把握し、マーケットが発する様々なシグナルを読み取ることで、どう行動すればいいか自ずとわかるようになるでしょう。

それまでは、金利をめぐる相場の動向に翻弄されることもあるでしょうから、どんな局面でも、しっかりとしたリスク管理をお忘れなく。

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[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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