金融市場が恐れる「流動性危機」をリーマンとコロナで考える

佐々木達也 2020/05/20 10:00

コロナ禍の「流動性危機」を考える

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、株式市場は大きく乱高下しました。それに関連したニュースや新聞で目にしたキーワードに「流動性危機」があります。

流動性危機とは、金融市場において極端に流動性が低くなってしまう現象のことです。リーマンショックなど金融危機が起こった際にも注目されたこの「流動性危機」とは一体何なのでしょうか。

「流動性」「流動性リスク」とは

金融の世界における「流動性」とは、取引のしやすさや換金のしやすさを指します。流動性が低いと、売りたい株式があっても買い手が見つからず、希望する値段で売ることができません。取引の少ない小型株や未公開株などは、希望どおりの取引がしにくいため流動性が低いと言われます。

このことは、流動性が低いために取引にリスクが生じることから「流動性リスクが高い」と言い換えることができます。

例えば、前日の株価が1,000円だった株式の取引を行いたいときに、流動性の低い銘柄では、買い注文が950円、売り注文が1,050円しかないようなケースがあります。すると、売りたい投資家は1,000円ではなく950円までディスカウントしないと売ることができないということになります。

金融機関だけが参加する短期市場

一方、先進国の国債や大型株などは通常の状態では取引が活発に行われていますので、流動性が高い(流動性リスクが低い)と金融商品と言えます。ただし、金融機関などは国債や大型株ばかりを取引しているわけではありません。

例えば、銀行が1日だけ100億円の現金を運用したい場合、満期が10年の国債の取引は不向きであると言えます。金融機関は巨額のお金を運用していますので、このようなケースはザラにあるのですが、そのような資金を運用するのが短期金融市場です。

短期金融市場は、金融機関などが一時的に余裕資金となったお金や不足資金を調達するための市場です。金融機関だけが参加できるインターバンク市場と、金融機関の他に事業会社などが参加できるオープン市場の2つがあります。

インターバンク市場で主に取引されているのは「無担保コール翌日物」と呼ばれる1日単位の資金取引です。ここでは、前述のような資金を運用したい金融機関と、決済などで資金を調達したい金融機関が、短期の資金をやり取りしています。このときの短期金利をもとに銀行預金の金利などその他の金利が決まるため、非常に重要視される金利です。

「金融危機」はこうして起きる

短期金融市場では、金融システムの安定のためになくてはならない取引が行われていると言えますが、ここでの流動性が極端に低くなってしまった状態が「流動性危機」となります。

いわゆる金融危機が起こっている状態では、金融商品への信頼度が極端に低下するため、大型株や先進国の国債などの流動性が大きく低下し、取引がしづらくなるだけでなく、通常は安全と見られる短期金融資産も敬遠され、現金や当座預金を確保する動きが顕著になります。

その結果、短期金利が急騰して資金の調達が困難になり、信用不安が起こって資金を調達できなくなった企業の不渡りが発生する……というように、従来の金融システムが機能しない状況となってしまいます。

しかし言い換えれば、株式相場がどんなに乱高下していても、この短期金融市場が落ち着いていれば、それはまだ「金融危機」とは言えないということになります。

リーマンとコロナは何が違ったのか

実際に過去の流動性危機が起きた場面を振り返ってみましょう。

リーマンショックの場合

2008年9月15日の米リーマン・ブラザーズ証券の破綻により、金融市場は混乱に陥りました。金融市場においても流動性危機が起こり、現金や預金を求める動きが連鎖したため、短期金利は急上昇しました。

当時、信用不安に拍車をかけたのが「サブプライムローン」と呼ばれる住宅ローンを証券化した金融商品で、これが世界中の金融機関に出回っていたため、取引先が破綻するかもしれないというリスクを意識した動きが混乱の背景にありました。

株式市場においても、業績や成長性などに関係なくとにかく手持ちの株式を現金化しようとする動きが連鎖し、世界同時株安となりました。日経平均株価は、2007年2月に付けていた戻り高値の18,300円から、2008年10月には6,994円の安値を付けました。

しかし、金融当局の動きも迅速でした。9月18日、日米欧の中央銀行が合計1800億円ドルの資金供給を発表。10月3日には、アメリカで7000億ドルの公的資金によって金融機関を支える法案が可決。その後も各国中央銀行が資金供給を続けた結果、過度の流動性危機は落ち着きを見せることとなりました。

コロナショックの場合

このようなリーマンショック時の状況に対して、今回のコロナショックはどうだったのでしょうか?

世界各国から感染者数の拡大状況が日に日に伝わると、株式市場においても3月に入って下げが加速し、世界同時株安の様相となりました。日経平均株価は2020年1月の高値24,115円から、わずか2か月で16,358円まで下落しました。

リーマンショック時のように短期金利の上昇など流動性危機につながりそうな気配も見られましたが、各国中央銀行の動きは、リーマンショックの教訓もあり、ここでも迅速でした。

3月15日には米FRBが政策金利を一気に1%も引き下げ、アメリカ史上初のゼロ金利となりました。その後、3月23日には無制限で国債などを買い取って資金供給を行うとの力強い量的緩和政策を発表。欧州中央銀行や日銀も資産の買い取り拡大を打ち出します。

これによって流動性に対する不安は落ち着きを見せ、株価も戻り基調となりました。それによってリーマンショックのときのような「金融危機」は回避できた、と言えるでしょう。

ただし、新型コロナウイルスは経済に対して直接かつ甚大な影響を与えているため、株式相場においても当面の間、感染者数の動向や緊急事態宣言の動向などに対して一喜一憂する展開は続きそうです。

「いつもと違う」と肝に銘じる

それでは、このような流動性危機の知見を、個人投資家はどう活かしていくべきでしょうか? まず覚えておきたいのが、いわゆる流動性危機が起きている状況では、マーケットは理屈や理論では説明のつかない動きをすることがある、ということです。

今回の急落局面でも見られたように、チャート上のテクニカル指標などでは売られすぎのサインが出ていても、そこからさらに売られるという、まさに「チャート無視」の動きが起きました。

さらに、通常の状態では債券と株式の値動きは逆相関であり、どちらかが売られる場面ではどちらかが買われるという動きとなりますが、急落中には、債券と株式がどちらも売られてしまうといった通常では見られない値動きも散見されました。

このような動きに不安を覚えて狼狽売りをしてしまったり、反対に、値頃感では買いを入れたくなったりすることもあるでしょう。しかし、流動性危機のようなタイミングでは「理屈では説明のつかない値動き」となることをあらかじめ知っておくだけでも、幾分かは冷静に対処できるはずです。

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2020/05/20
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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。 →この執筆者の記事一覧へ

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