マーケットで注目される「なでしこ」とはどんな銘柄か?
このところ株式市場で注目され始めている「なでしこ銘柄」をご存じでしょうか? 経済産業省と東京証券取引所が選定する「女性の活躍推進に優れた企業」のことです。
なぜ国と東証が企業の選定をするのか? そもそも「なでしこ」って? そして、果たして「なでしこ」でマーケットに勝てるのか? そんな疑問にお答えします。
「なでしこ銘柄」って何?
2011年のサッカー女子ワールドカップ・ドイツ大会で日本はアメリカを破り、世界一となりました。彼女たち「なでしこジャパン」の活躍に日本中が熱狂したことを覚えている方は多いでしょう。
株式市場で注目されるようになっている「なでしこ銘柄」は、言うまでもなく、この「なでしこジャパン」が名前の由来です。
2012年度から、経済産業省と東京証券取引所は共同企画として、「女性活躍推進」に優れた上場企業を毎年独自の基準で「なでしこ銘柄」として選定しています。
女性の活躍を積極的に後押しする企業は「中長期の企業価値向上」に繋がるということで、そうした点を重視する投資家にとって「魅力ある銘柄」を紹介することで、企業への投資を促進し、また企業側の取り組みを加速させることを狙いとしています。
つまり、「この企業に投資するといいですよ」と国と東証がお墨付きを与えているのが「なでしこ銘柄」なのです。
なでしこの選び方
6年目となる「なでしこ2018」は、ダイバーシティ経営の具体的なアクションである「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」に沿って「表面的な対応に終始せず、経営成果につながる女性活躍推進の取り組みができているかどうか、取り組みの『質』に注目して評価・選定した」とのこと。
東証第1部のみならず、2部、マザーズ、JASDAQ、外国株を含む全上場企業3500社の中から、まずは以下の2点でスクリーニングされました。
- 平成28年4月の「女性活躍推進法」の施行を受けて、行動計画を策定していること
- 厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」に「女性管理職比率」を開示していること
さらに、女性活躍調査への回答に基づいて得点をつけ、27業種ごとに上位にランクインした企業を抽出。最後に、財務指標(ROE)による得点を加えます。業種ごとに1〜2社、さらに一定程度の水準の企業がプラスαとして選定されました。
「なでしこ2018」一覧
こうして、48の「なでしこ銘柄」が選び出されました。
- 水産・農林業、食料品……カルビー<2229>、アサヒグループホールディングス<2502>、キリンホールディングス*<2503>、味の素*<2802>
- 鉱業、石油・石炭製品……石油資源開発<1662>
- 建設業……大和ハウス工業<1925>、積水ハウス<1928>
- 繊維製品……帝人*<3401>
- パルプ・紙……王子ホールディングス*<3861>
- 化学……積水化学工業<4204>、花王<4452>
- 医薬品……中外製薬<4519>
- ガラス・土石製品……TOTO<5332>
- 鉄鋼……日立金属*<5486>
- 非鉄金属……古河電気工業*<5801>
- 金属製品……LIXILグループ<5938>
- 機械……小松製作所<6301>、ダイキン工業<6367>
- 電気機器……日立製作所<6501>、富士電機<6504>、オムロン*<6645>、セイコーエプソン*<6724>
- ゴム製品、輸送用機器……ブリヂストン<5108>
- 精密機器……島津製作所<7701>
- その他製品……トッパン・フォームズ<7862>
- 電気・ガス業……東京ガス<9531>、大阪ガス<9532>
- 陸運業、倉庫・運輸関連業……東京急行電鉄<9005>
- 海運業、空運業……日本航空<9201>、ANAホールディングス<9202>
- 情報・通信業……野村総合研究所<4307>、KDDI<9433>、SCSK<9719>
- 卸売業……双日<2768>、三井物産<8031>、日立ハイテクノロジーズ<8036>
- 小売業……ローソン<2651>、丸井グループ*<8252>、イオン*<8267>
- 銀行業……千葉銀行*<8331>、みずほフィナンシャルグループ<8411>
- 証券、商品先物取引業……大和証券グループ本社<8601>
- 保険業、その他金融業……SOMPOホールディングス*<8630>、アフラック・インコーポレーテッド*<8686>
- 外国……東京海上ホールディングス<8766>
- 不動産業……イオンモール<8905>
- サービス業……メンバーズ*<2130>、スリープログループ<2375>
このうち、6年連続で選ばれたのは東京急行電鉄<9005>とKDDI<9433>の2社。今回初めて選出された銘柄は14社で、社名の後ろに*を付けておきました。また、東証1部以外では、東証2部のスリープログループ<2375>が選ばれています。
なでしこに投資するメリット
それでは、なでしこ銘柄に投資するメリットは何でしょうか。わざわざ国と東証が選んでおすすめしているわけですから、これらの銘柄を買えば「儲かる」はずです。
経産省と東証が発表した「なでしこ銘柄レポート」によれば、なでしこ48社の運用パフォーマンスはTOPIXを上回っていることがわかります。
業績パフォーマンスでも、売上高営業利益率、総資産利益率(ROA)、投下資本利益率(ROIC)はいずれも、東証1部銘柄の平均値と比較して高い傾向にあるようです。女性活躍への積極的な取り組みは、業績に対しても良い影響を与えていると言えるのかもしれません。
「なでしこ銘柄」に選定されることでマーケットの注目を集め、メディアなどで紹介されれば広告効果も期待できます。さらに、女性の活躍に焦点を当てたファンドに組み入れられたり機関投資家の注目を集めたりすることが、株価の下支え要因にもなるでしょう。
また、なでしこ銘柄は毎年選ばれますので、女性活躍を推進している企業がハッキリ明らかになります。このような企業に株式市場の支持が高まれば、企業側もより取り組みを進化させる → 企業価値がいっそう高まる、という好循環も生まれます。
ESG投資という大きな流れ
「なでしこ銘柄」が注目されるようになった理由として、「ESG投資」という世界的な潮流があります。
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字をとったもので、これらに配慮した取り組みを積極的に行っている企業に投資する「ESG投資」は、ヨーロッパの機関投資家を中心に急速に普及し、投資の基準のひとつとなっています。
世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人もESG投資に本格的に乗り出し、また、経済産業省がESG重視企業を機関投資家に紹介する新制度も始まります。
こうした流れからも、「なでしこ銘柄」は今後さらに注目されることが予想されます。
なでしこに手を出す前に……
国と東証のお墨付きで、株価のパフォーマンスも業績も良く、しかも今後の潮流にも乗っているとなれば、当然「これは買いだ!」と思えてきます。
しかし、2000年代には社会貢献している銘柄に投資する「SRI投資」が流行りましたが、良好なパフォーマンスを出すことができませんでした。社会的に良いとされる会社が高いパフォーマンスを生むとは限らないのが株式市場なのです。
なでしこ48社の指数がTOPIXを上回っているとはいえ、あくまでも「ポジティブ」程度だということも、しっかり認識しておく必要があります。それに、個別の企業ごとに見てみれば、株価も業績も、違った結果が出てくるかもしれません。
社会貢献をしているからといって、業績の拡大や企業価値の増大が期待できるかというと、そこに論理的な根拠はありません。
「なでしこ銘柄」は、あくまで「女性活躍」というテーマから選定された銘柄です。それに個々の企業分析をプラスして総合的に判断することが肝要なのです。