PBR1倍以下がゴロゴロ… なぜか割安な石油関連銘柄の命運を握るもの

石津大希
2019年10月3日 8時00分

株価を動かす要因には様々なものがありますが、企業の「ビジョン」を判断材料として見たことはありますか? 長期的に期待するだけでなく、実は「目先の株価」にも大きく関係することがあるそうです。なぜか割安な石油関連銘柄から見えてくる、その理由とは──

石油関連は本当に「割安」なのか?

日本の株式相場で「石油関連銘柄」といえば、鉱業業種の国際石油開発帝石<1605>、石油資源開発<1662>、石油・石炭業種のJXTGホールディングス<5020>、出光興産<5019>、コスモエネルギーホールディングス<5021>などが主に挙げられる。

2019年9月末の時点で、これら石油関連にはPBR株価純資産倍率=時価総額÷純資産)が1倍を下回っている銘柄が多く、ここに挙げた代表的な銘柄も全てPBRは1倍に達していない。

これによって、石油関連はしばしば「割安」と見られ、買われるケースがある。しかし、今後はそんな買い余地もなくなるかもしれない。

世界の資源大手が続々と「脱炭素化」

8月、こんなニュースが経済メディアを賑わせた。

「イギリス、オーストラリアの資源大手・BHPグループが石炭事業売却の検討を始めた」
「イギリス、オランダの資源大手であるロイヤル・ダッチ・シェルが機関投資家からの評価を意識し、脱炭素化をより加速した」

BHPは世界最大の鉱業企業、ロイヤル・ダッチ・シェルは石油メジャーの一角とあって、両社の脱炭素推進ニュースは世界の投資家に小さくない心理的インパクトを与えた。

脱炭素化の背景に「ESG」あり

二酸化炭素(CO2)の排出を抑制しようとする動きは、いまや世界中のあらゆる場面で議論されるトピックであり、投資の世界では「ESG投資」という考え方と併せて語られることが多い。

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)、それぞれの頭文字を合わせた単語。そしてESG投資とは、投資先を選ぶうえでこれら3要素に関する企業の取り組み姿勢も評価に加えようというものだ。

投資家が地球環境に配慮すべき理由

これら3要素のうちのE(環境)の軸において、「CO2の大量排出につながる化石燃料を扱う企業には投資しない」という動きが、海外の機関投資家を中心に広がっている。

この脱炭素投資スタイルには、地球環境への配慮に運用方針をフィットさせるという倫理的側面がもちろんあるが、化石燃料需要の縮小に伴う関連資産の価値低下と、それがもたらす減損損失や株価下落を回避しようという経済的側面もある

こうした側面を背景に、投資の世界では単なるCSR(企業の社会的責任)目的にとどまらず、投資リターン拡大の手段としてESG投資が本格的に導入されてきているのだ。

化石燃料の需要縮小、機関投資家からの投資手控え、そしてグローバル大手の撤退が並列して進む中、冒頭に挙げた国内の石油関連大手は、今後どのような方針を示すのだろうか。

引くか、攻めるか──分かれる「将来のビジョン」

世界的な流れを考えれば、油田開発や石油の精製・販売に依存している限り、長期的に収益を上げ続けるのは非常に難しいと考えられる。要するに、国内石油関連企業の経営にも「脱炭素」が求められている。

・JXTGホールディングス<5020>

石油・石炭最大手のJXTGホールディングスは企業の将来像として、石油・ガス開発ビジネスや石油精製・販売ビジネスの収益割合を徐々に引き下げ、洋上風力発電や地熱発電、リサイクルビジネスといった石油非関連収益を伸ばす方針を明確に開示している。

(Chart by TradingView

・国際石油開発帝石<1605>

それに対して、鉱業最大手の国際石油開発帝石は、石油関連ビジネスに対して強気な方針を維持している。

同社は中期経営計画で石油・天然ガス上流事業への積極的な投資計画を掲げており、生産量も大幅に増やす考えだ。2040年のビジョンとして「国際大手石油会社トップ10入り」も狙っており、依然として化石燃料頼みのビジネスモデルを維持する姿勢だ。

(Chart by TradingView

同じ「石油関連銘柄」に分類される企業でも、現時点における将来の展望には大きな違いがあることがわかる。関連銘柄だからといって、ひとくくりにして捉えないほうがいいだろう。

アナリストのひとり言

メディアやネットで投資の話がなされる際は、業績やバリュエーション(PERや配当利回り)がフォーカスされやすい。これらは全て数字で表されるために理解しやすく、注目されやすいのは十分頷ける。

企業の「ビジョン」は材料になり得るのか?

一方で、企業が提示する「ビジョン」が材料として語られることは少ない。

企業の中にはビジョンとして「国民の生活を支える」「自社の技術で経済を支える」といったように非常に抽象的で曖昧な方針を掲げている企業も多く、結果として「ビジョンは投資の判断材料になりえない」という認識ができてしまうのも事実だ。

しかし、企業の中には、先ほどのJXTGホールディングスのように具体的かつ明確なビジョンを示す企業もあり、それを投資の材料として見ることはでき、評価にもつなげられる。

企業の固定資産の中には、使用期間が何十年にも及ぶ設備なども含まれる。そのため、数十年先のビジョンとはいえ、足元の投資計画にはそれが反映され、実際に設備投資が行われる。その点で、具体的なビジョンを掲げる企業は数十年先の収益を既に作り始めている、とも言えるだろう。

そして株式市場では、ビジョンからくる企業活動が「先取り」という形で株価に反映されることがある。何十年先のビジョンだとしても、その内容が数年以内の株価上昇をもたらすことは十分起こり得るのだ

将来のビジョンが目先の株価を動かす?

証券会社の発行するセルサイドレポートは基本的に「目先の証券売買を生み出す」ためのものであり、数年ごとの中期経営計画が触れられることはあっても、ビジョンのような超長期的要素が論じられるケースは非常に少ない。

しかし、個人投資家の目が届きにくい機関投資家の長期投資の世界では、ESGなどの軸や企業のビジョンなども重要な判断材料として活発に議論されている。その結果として、世界のメジャー企業が経営方針の転換を迫られているのが現状だ。

企業の将来のビジョンは、実は、目先の株価にも反映されやすい──ビジョンだけで銘柄の良し悪しを判断するのが危険であることは言うまでもないが、アナリストレポートには書かれないこんな視点も参考にしてみてはどうだろうか。

[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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