株式投資で「利益を生み出す」たったひとつの方法

岡田禎子
2020年8月11日 8時00分

「安く買って、高く売る」

自分の選んだ銘柄の株価が上がり、売って利益を手にする──株の楽しみ方は様々あれど、これこそが真の醍醐味です。

「株を安く買って、高く売る」。文字にするととっても簡単に見えますが、実際にやってみると、これが思った以上にとても難しいのです。それは一体なぜなのか? 安い株を見つけられないから、ではありません。買った株がなかなか上がってくれないから、でもありません。

初心者だけでなく経験者でも見落としていることが多い、株で利益を出すために絶対不可欠な「あの話」について、改めて考え直してみましょう。

あなたはまだ、儲けていない

例えば、大きな成長が見込まれるA社株を50万円で買ったとします。その後、狙いどおりに株価は上昇して、100万円になりました。この時点で、多くの株初心者は「2倍になった!」「儲かった!」と大喜びするのですが、実はこの時点では、まだ1円も儲けていません。

なぜなら、株価が上昇したことによるプラスの50万円は、株を売らないと手にすることができませんし、もちろん証券口座から引き出すこともできなければ、次の株を買うことにも使えないからです。

つまり、株は売って初めて「利益」になるのであって、買った株の株価が上がっただけでは「儲けた」ことにはならないのです。それどころか、株を買うために使った50万円は、現時点ではマイナスのままです(配当金などは除く)。

持っている株が買った価格より株価が上がったところで売って現金化する──これを「利益確定」と言います。株式投資で利益を出すには、この「買った株を売る」という行為が不可欠です。

株を買う際には、時間とお金をかけて入念に銘柄選びをするのに、いざ売る場面になったら「なんとなく、そろそろかなと思って」とか「相場の雰囲気で」という人が多いのが実際のところ。でも、株は売らなくては利益にならないのですから、実は、買うときよりも売るときのほうが大切なのです。

ひょっとすると、「株価が上がったら売ればいいだけなのに、なんでそれが難しいの?」と思う人もいるかもしれません。その一方で、すでに何度も取引をしているからは「いつ売ればいいかわからない」という悩みをよく聞きます。

では、利益確定の何がそんなに難しいのでしょうか。

本当に難しい、利益確定の話

あなたはA株を株価1,000円で1,000株、100万円分を購入しました。株価は元気に上昇し、1,100円になります。あなたが買った値段(買値)の1,000円と、現在株価1,100円との差額は100円。あなたは1,000株保有しているので、100円×1000株=10万円が現時点でプラスになっています。

このように、まだ利益確定していない儲けのことを「含み益」と言います。反対に、もし損失が出ていたら、それは「含み損」と言います。

さて、すでに10万円の含み益が出ているわけですから、ここで株を売って利益確定すれば、正真正銘、本当の儲けとなります。投資リターンは+10%で、なかなか悪くない成果と言えます。

ところが、多くの人はここで売ることができません。なぜなら、こんなふうに考えてしまうからです。

今のところ10万円の儲けだ! 私って天才かも!? この調子でもっと上がって、プラス20万円くらいにならないかなー♪

その後、A社の株価は急落。1,050円まで下がります。あなたの含み益は5万円になってしまいました。

このまま下がって、買った値段より安くなったらどうしよう……。そうだ。いまでも5万円は儲かっているんだから、ここで売ってしまおう

と慌ててA株を売却し、なんとか5万円を手にしたあなた。やれやれと思って株価を見てみると、A株は持ち直して1,100円を突破し、早くも1,200円に迫る勢いで上昇しています。悔しくてたまらないあなたは、こんな負け惜しみをつぶやきます。

ま、いいか。5万円は儲けたし……

実際、このような展開をたどっている方は多いのではないでしょうか。もっと上がると思っているうちに株価が下がって、本当はもっとたくさん儲けられたはずなのに、焦ったために利益が減ってしまった──利益確定の難しさは、ここにあります。

あるいは、こんなパターンの人も多いはずです。

株価1,000円のB株について、1,500円くらいまで上がるだろうという期待を持って買ったものの、1,300円になったところで「ここから下がったら嫌だな」と思って慌てて利益確定。そんなあなたをよそに、株価は順調に伸びて、そのまま1,500円に……。

どちらも場合も、実際には利益を手にできているわけですから、本来は喜んでもいいところ。でも、「逃した魚は大きい」と言われるように、人は手にした「得」を喜ぶよりも、手に入れられなかったものを「損」だと思って悔しがる生き物です。

つまり利益確定の難しさは、「売れない」ことの難しさではなく、「売るべきタイミングで売れない」「本来得られたはずの利益を確実に手にすることができない」点にあるのです。

確実に利益を確定する方法

人間には「喜びよりも、不快感を回避したい」という本能があります。それゆえ、少しの含み益が出ると、株価が下がって投資したお金が損することを恐れ、我慢できずにすぐに利益確定してしまいます。

それに対して株価は、人間が思ったようには動いてくれません。常に上下を繰り返し、この先は上がるのか、下がるのか、それは誰にもわからないのです。そんな株価を目の前にすると、人間の本能はとても頼りない存在と言えます。

だからこそ、「安く買って、高く売る」というシンプルな行為が、こんなにも難しいのです。

ならば、本能に逆らって売る技術を身につければいいのかと言うと、それはもっとハードルが高いでしょう。それよりも、本能があれこれ言ってこないような仕組みを作るほうが簡単です。具体的には、買う前に「いくらで売るのか?」を決めておけばいいのです。

たとえば、株価1,000円のB株を、1,500円まで上がりそうだと思って買うのなら、「1,500円になったら売る」ことをルールとして自分に課し、それまでは絶対に売らないのです。1,400円くらいで売りたくなっても、「ルールだから」と自分に言い聞かせます。

そして、もしも1,500円よりも伸びそうな予感がしたとしても、1,500円になった時点で潔く売ります。なぜなら「それがルールだから」。本能や感情ではなく、ルールによって売買をコントロールすることで利益を確実なものにする、ということです。

「それでは利益を最大化できない」と思う人もいるかもしれません。でも、先ほども言ったように、株価がどうなるかは誰にもわかりません。「底(いちばん安い値)」や「天井(いちばん高い値)」というのは後付けでわかるものであって、そこを狙うのは不可能なのです。

相場では、こんな格言で表現されます。

頭と尻尾はくれてやれ

とかく初心者の方は「いちばん安いところで買って、いちばん高いところで売りたい」と思うものですが、それは到底無理と理解しましょう。それよりも、あらかじめ売るタイミングを決めておきさえすれば、確実に利益を確定し、「安く買って、高く売る」を実行できるようになるのです。

株は「出口」が命

「株価が1,500円になったら売る」というルールを決めておいたとして、いつまで待っても1,500円にならなかったらどうするのか? そのまま持ち続けることは、次なるチャンスをふいにすることになります。

したがってルールを作るときは、「そうならなかった場合」のルールもあわせて設定しておく必要があります。「買値から◎円まで下がったら売る」などの損切りルールは必ず必要ですし、その株をいつまで持ち続けるのか、投資のスパンを意識しておくことも重要です。

株を始めるにあたって、どれを買えばいいか、いつ買えばいいか、といった「入り口」ばかりを気にする人が多いのですが、利益を目指す以上、考えるべきは入り口よりも「出口」です。短期トレードであれ、長期投資であれ、事前に出口戦略をしっかり立てておくことが何よりも大切です。

「株価が◎円になったら売る」「買値より10%上がったら売る」など出口の決め方はいろいろです。一律にルール化することもできますし、個別に決めることもできます。

株価以外で出口を決めることもできます。例えば「年率20%で利益が成長している」という理由で投資するなら、「もしも利益成長率が20%以下に鈍ったときには、買った理由から外れるから売る」というルールを決めておくのです。

買う時点でいつ売るかなんて決められない、と思うかもしれませんが、その銘柄を買う理由がはっきりしていれば、売る理由もまた自動的に決まるものです。言い換えれば、「買う理由」が明確になっていなければ出口が見えず、しっかり利益確定できずに悔しい思いをする羽目になる……ということ。

株を買いたい理由は人それぞれです。しかし「出口」は、自分なりの明確なビジョンと戦略があれば、様々な雑音が飛び交い、常に変化するマーケットの中で、他人や外部環境、そして自分の本能に翻弄されることなく、上手に利益確定できるようになるでしょう。

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[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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