株式市場の「注目株」がひと目でわかる、たったひとつの方法(前編)
みんなはどんな株を見ているのか?
株式投資を始めたばかりの人にとって最大の悩みは、「株の銘柄が多すぎて、どれを選んだらいいかわらない……」ということでしょう。
そこで気になるのが、「他の投資家たちは、どんな銘柄に注目しているのか?」ということ。ひょっとすると、みんなは知っているのに自分だけが知らない有望株があるのかも……そんな不安に陥って、あれこれと情報収集に励んでいる人もいるかもしれません。
でも実は、株式市場で多くの投資家に注目されている銘柄は、誰でも簡単に知ることができます。下の表は2022年6月7日の、いわば「注目度ランキング」のトップ20です。表のいちばん右の欄にある「出来高(できだか)」こそ、その銘柄の株式市場での「注目度」を教えてくれる数字です。
株式に関する情報を見ていれば、出来高の数字は必ず目に入っているでしょう。でも、この出来高を、自分の銘柄選びや売買のタイミングを計るためのツールとして、ちゃんと活用できていない人も多いように思います。
出来高は、その銘柄の注目度を表すだけでなく、売買を行う場合に参考となる重要な指標でもあります。意外と知られていない出来高の基本から活用法までを解説します。
出来高は取引された株数を表す
出来高は「売買高(ばいばいだか)」とも呼ばれ、その株が売買された取引量を表しています。
株式の取引では、売り手が売りたい株数と希望価格、買い手が買いたい株数と希望価格とが合致してはじめて取引が成立します。この数を表したのが出来高です。
たとえば、A社の株を500株・1,000円で売りたい人がいるとします。そこに、同じA社の株を500株・1,000円で買いたい人が現れて、両者が出会うことで「500株を1,000円で売買」という取引が成立します。このときの出来高は「500株」です。
上のランキングで第2位の三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>であれば、この日だけで5263万9400株の取引が成立したということです。
買われた株=売られた株
出来高によって注目度がわかるのであれば、ランキング上位の銘柄を買えばいいんだ! たくさん取引されているということは「いい銘柄」なのだろうし、きっと株価も上がっていくに違いない……と思うかもしれませんが、話はそんなに単純ではありません。
上で説明したように、出来高は取引が成立した株数です。そして、取引というのは売り手の希望と買い手の希望が合致することで成立します。つまり、出来高は「買われた株数」であると同時に「売られた株数」でもあるわけです。
言い換えると、「買いたい人」が多いために出来高も多くなっているのかもしれないけれど、もしかすると「売りたい人」が多いせいで出来高が大きくなっている可能性もある、ということです。
もちろん、取引が成立している以上、買った人がいることは確かです。ただし、それは言ってみれば「叩き売り」のバーゲンセールに多くの人が群がった状態なのかもしれません。
出来高は株式市場における注目度を知ることのできる重要な指標ですが、その注目は必ずしも「ポジティブな注目」とは限らず、「ネガティブな注目」が集まることで出来高が大きくなることもあると覚えておきましょう。
出来高から「買うべき銘柄」を選ぶには
では、出来高を銘柄選びや売買に活用するにはどうすればいいでしょうか。それには、ランキングよりもむしろ個別の銘柄の注目度の「移り変わり」を見る必要があります。
ヤフーファイナンスなどで株価チャートを見たとき、ローソク足チャートの下に棒グラフがありますよね。あれが、その銘柄の出来高の推移です。取引された株数を時間別に並べて、その数が増えたり減ったりする経緯を確認するのです。
この「かぶまど」のチャートでは、ローソク足の後ろ側にある黄色い棒グラフが出来高を表しています。
出来高が急激に増えた銘柄は要チェック
もともと出来高は一日ごとの推移で比較するのが一般的で、その際に重要なポイントとなるのは「数が急激に増えたとき」です。
出来高というのは、日々増えたり減ったりを繰り返しています。それが、ある日突然、出来高が急に増えることがあります。こうした急激な出来高の増加は、「何らかの理由」で投資家の間でその銘柄への注目が高まり、取引が活発化したことを意味します。
では、一体どんなときに注目度が上がり、出来高が増えるのでしょうか。たとえば、こんな状況を考えてみましょう。
- 著名人が履いていた某ブランドのスニーカーがSNSなどで話題に
- そのスニーカーがオークションサイトで活発に取引され始める
- 100足、200足と飛ぶように売れ、SNSでさらに拡散されて、市場はどんどんヒートアップ
- ますます取引が活発になり、取引量がさらに大きく伸びていく
株式市場で出来高が急増するのも、これと同じことです。株式相場ではよく「相場のエネルギー」という言葉を使いますが、まさに相場のエネルギーが高まった状態と言えます。エネルギーが高まれば高まるほど、出来高の棒グラフもグングンと上に伸びていきます。
出来高は「投資家心理」を映す鏡
その銘柄への注目が一気に高まることで取引が活発になり、出来高が急増する──とてもシンプルなように見えますが、出来高は単に取引量を表すだけの存在ではありません。実は、出来高の推移には「投資家心理」が如実に映し出されているとも言われているのです。
話題のブランドスニーカーで考えてみましょう。今度は、自分がそのオークションに参加していたら……と想像してみてください。
- SNSで見かけた著名人のスニーカーが欲しくなり、オークションサイトをのぞいてみたところ、他にも大勢の閲覧者がいて、次々と取引されている様子を目の当たりに
- 取引価格は、1万円、1万5,000円……と目の前でどんどん上昇
- 「マズい、早く買わないと……!」と焦る気持ちが芽生えたあなた。当初買うつもりだった値段よりも高くなってしまったけれど、「ええい、買っちゃえ!」と購入ボタンをポチッ
こんな状況に心当たりがある人も多いのではないでしょうか。これが、人間の心理というものですよね。
オークション(株式取引)の参加者が増えれば増えるほど、同じように考える人も増えていきます。買い注文がどんどん増えて相場のエネルギーが高まり、その結果として、取引価格(株価)も押し上げられていくのです。
出来高急増は株価が動き出す合図
出来高は、株式市場における「注目度」を表すと同時に「投資家心理」をもあからさまに映し出します。また、出来高の急増は相場のエネルギーが高まっているということに他なりませんから、それは「いずれ株価が大きく動き出すシグナル」だとも言えます。
ただし、出来高が急増したからと言って、必ずしも株価が上昇するわけではありません。そこで考えなくてはいけないのは、出来高急増の向こう側、つまり、「なぜ出来高が急激に増えたのか?」ということです。それには大きく2つの理由が考えられるのですが……。
それについては「後編」で、コロナ禍の2020年に実際に出来高が大きく増えた、人気テーマの2銘柄を例にとりながら、詳しく解説したいと思います。