夜間も株取引ができるPTS デメリットは流動性リスク
《株の売買は日中にしかできないと思っていませんか? 実は、夜間でも取引できる方法があります。それが取引所を介さない「PTS取引(私設取引システム)」です。証券会社に口座を持っていれば誰でも取引できますが、PTS取引にはメリットもあればデメリットもあります。思わぬ落とし穴に注意しながら、上手に活用しましょう》
夜でも株を買う方法
東京証券取引所では9:00~11:30、12:30~15:00までの計5時間しか取引できません。取引時間が限られていると何かと不自由ですよね。「日中、忙しくて取引できない」「保有株が夕方に決算を発表したけど、明日の株価はどうなるのだろう」といったニーズに対応できません。
そこで、朝9時前や午後3時以降でも株式の売買ができる「PTS取引」をご存じでしょうか? 2011年の東日本大震災のあと、多くの証券会社が撤退していましたが、株式市場が活況になるにつれPTS取引を再開する証券会社が増えています。PTS取引を活用すれば、日中会社勤めをしている人も、夜間の株取引が可能になります。
PTS取引とは
PTS(Proprietary Trading System)とは証券会社が運営する「私設取引システム」のことです。この仕組みを使うと、東京証券取引所(東証)などの証券取引所を通さずに、リアルタイムで株式を売買することができます。ただし、注文方法は値段を指定して注文する「指値注文」のみとなります。
いま使えるPTSは2つ
現在、日本で運営されているPTSには、ジャパンネクストPTSとチャイエックスPTSの2つがあります。
ジャパンネクストPTSは、ジャパンネクスト証券が2007年に開始した日本初のPTS取引。夜間も取引できるのはジャパンネクストPTSだけです。また、2019年8月からは信用取引も利用できるようになりました。現在、SBI証券・楽天証券・松井証券の3社で利用できます(2020年9月現在)。
一方のチャイエックスPTSは、世界のPTS最大手の欧州チャイエックス社が2010年に開始したPTS取引。個人投資家が取引できるのは楽天証券のみです(2020年9月現在)。
いずれのPTS取引でも、証券会社に口座があれば特別な手続きなしで取引ができます。東証で買った株式を PTS取引で売ることもできますし、PTS取引で買った株式を東証で売ることもできます。
また、マネックス証券とauカブコム証券では、SOR(スマート・オーダー・ルーティング)注文によりPTS取引でも約定機会を提供しています。SOR注文とは、株式の取引において東京証券取引所とジャパンネクストPTSを自動で比較し、有利な条件での約定が見込まれる執行先を判定して発注する注文方法です。
PTS取引のメリット
では、PTS取引を活用するメリットを見ていきましょう。
東証よりも取引時間が長い
PTS取引の最大のメリットは、東証よりも取引時間が長いことです。とくにジャパンネクストPTSでは、東証での取引が終了した後の夜間取引(ナイト・セッション)が大きな強みです。
企業の決算発表会などのニュースは東証の取引時間が終わる15時以降に発表されることが多いのですが、東証ではそれを受けて売買することはできません。しかしPTS取引を利用すれば、当日中に目当ての株式の売買が可能です。
各市場の取引時間は、以下の通りです。
【東証の取引時間】
- 前場=9:00~11:30
- 後場=12:30~15:00
【ジャパンネクストPTS の取引時間】
- デイタイムセッション(昼間取引)=8:20~16:00
- ナイトタイムセッション(夜間取引)=16:30~23:59
【チャイエックスPTSの取引時間】
- 8:20~16:00
ただし、証券会社によって以下のように取引時間が異なるので注意してください。
※マネックス証券とauカブコム証券はSOR注文で対応
東証よりも有利な価格で約定できる
PTS取引では東証と異なる呼び値が設定されており、投資家にとって有利な価格で株式を売買できる機会を提供しています。たとえば株価3,000円以下の場合、東証の呼び値は1円刻みですが、ジャパンネクストPTSでは0.1円単位で取引できるのです。
またSOR注文により、東証とPTSの取引時間が重なる時間帯では、東証よりも有利な値段で約定できる可能性があります。
信用取引ができる
2019年8月末、PTSでの信用取引が解禁になりました。ただし、日本証券業協会の規則により取引時間が9:00~11:30、12:30~15:00 となっています。ジャパンネクストPTSの夜間取引(17:00~23:59)など、PTS信用取引が取引できない時間もあるので注意が必要です。
PTSの信用取引が解禁されたことは、これまで長らく続いてきた「東証一極集中」の流れが変わってきたことを示しています。
日本では、これまで株取引の9割が東京証券取引所に集中してきました。というのも、実は、個人投資家の売買の7割は信用取引が占めており、現物株しか売買できないPTS取引の魅力が薄かったといえます。
しかし、信用取引が解禁されたことで、多くの個人投資家がPTS取引を利用するようになりました。今後存在感が高まれば、東証の寡占状況になっている日本の取引所の競争が活性化すると考えられます。
ジャパンネクストPTSを運営するジャパンネクスト証券が発表したデータによれば、2019年8月26~30日の株式売買代金は1日平均944億円。この前週(8月19日~23日)の654億円から1.4倍に膨らみました。そして、ジャパンネクスト証券の売買シェアは、PTS信用取引解禁前の3%近辺から4.14%に上昇。10月の第1週には5.2%を占めるまでになりました。
PTS取引のデメリット
続いて、PTS取引のデメリットについて考えてみましょう。
流動性が低い
東証よりも有利な値段で約定する可能性のあるPTS取引ですが、特に夜間の参加者は昼間よりも少ないため、なかには流動性が低い銘柄もあります。そのため、取引したい銘柄が取引できない、もしくは現在の価格から離れた価格でしか約定できないケースが起こりえます。
PTS取引をする場合、この「流動性リスク」を考慮しておかなければなりません。
注文方法が少ない
PTS取引での注文方法は、希望の売買価格を指定して発注する指値注文に限られている場合がほとんどです。指値注文は指定した価格まで株価が変動しないと注文が通らないため、流動性が低い銘柄だと取引が成立しづらいというデメリットがあります。
株取引に慣れている人の場合、不便さを感じることが多いかもしれません。
取引できる銘柄が少ない
取引できる銘柄が非常に限られている点も、PTS取引の大きなデメリットです。
基本的に東証1部・2部、東証マザーズ、JASDAQに上場している銘柄はPTS取引が可能ですが、ETF(上場投資信託)や外国株でPTS取引に対応する銘柄となると途端に少なくなります。さらに、地方取引所のみに上場の銘柄はPTS取引に非対応であることが多い、売買停止銘柄もある……といった点にも留意する必要があります。
また、すべての証券会社がPTS取引に対応しているわけではないので、事前によく確認しましょう。
PTS取引の今後はどうなる?
PTS市場が活性化すると、東証一極集中からサービス競争の時代へと移り変わっていくかもしれません。
アメリカにはPTSを含め10以上の取引所があり、ニューヨーク証券取引所とナスダック市場を合わせても4割程度の売買シェアしかありません。各取引所には、もっとも良い価格を提示する「最良執行義務」があり、価格やサービス内容で競争しています。
また、証券会社でも、取引所での取引を通さず、投資家同士の注文をマッチングさせる「ダークプール」の取引も活発です。そのためアメリカでは、個人投資家を含む全注文のうち約40%は取引所外で行われているといわれています。
日本でもコロナ禍を受けて、東証に集中している株取引のさらなる分散が進んでいます。
PTS取引の売買が市場全体に占める比率は、2020年4月に8%と過去最高を記録しました。新型コロナウイルスの拡大による相場急落をチャンスと見た個人投資家の参入が増えたことや、2019年に解禁されたPTSでの信用取引の利用拡大が後押しとなっているのです。
一方で、東証に比べて参加者や注文方法、取引対象銘柄が少ないPTS取引には、「流動性が低い」というデメリットも存在します。
そんななか、東証とPTS取引を比べより有利な価格で売買できる「SOR注文」を利用している個人投資家も増えています。市場に厚みがでれば機関投資家やHFT(高頻度取引)業者もPTS市場を重視し、流動性の拡大につながっていくでしょう。PTS取引の売買シェアが今後どれだけ上がっていくのか、その行方に注目です。