株式投資の保険とは? 絶対やるべき「リスクヘッジ」を考える

鳳ナオミ
2020年10月6日 8時00分

株のための保険を知っていますか?

保険といえば、様々な種類がありますね。身近なものでは自動車保険や生命保険でしょうか。その他、火災保険、学資保険、介護保険、医療保険など、数えればきりがありません。実は、株式投資にも「保険」という概念が存在します。それが「リスクヘッジ」です。

自動車の運転では「万が一」の事故を想定した保険に入りますし、一家の大黒柱に「万が一」のことがあった場合に備えて生命保険や医療保険に入るのと同様に、株式投資でも、「万が一」というほどではなくとも想定外のことが起こって大きな損失を被るのを回避するために、様々な「リスクヘッジ」をすることができます。

例えば、輸出比率の高いA社の成長性に着目して長期的な視点で株を保有したものの、経済が不況に陥って、市場全体の株価が下落、同業他社が倒産してA社にも悪影響が及んだ……。あるいは、為替が急激に円高になり、業績が大幅に悪化……などのケースが考えられます。

この場合、もともと長期保有を目的としていたため株を手放さなかったことで、株価の大幅な下落によって損失が生じてしまうでしょう。自動車でいえば、事故を起こした(起こされた)ために、大きな損害が発生したのと同じです。

もちろん、株式投資のスタイルは様々なので、いつでもリスクヘッジをしなければならないというわけではありません。ですが、大切な資産を運用するのが株式投資だと考えれば、リスクヘッジも投資の一種だと考えて併用することで、保険としての役割を持たせることができるのです。

そもそも株式投資のリスクとは

ところで、「リスク=損失」と考える人がいますが、基本的には異なります。株式投資におけるリスクとは、「予測と実際のズレ・ブレの度合い」を表します。

一定のリスクを抱えた状態で、期待したことが実現して利益を享受すれば「プラスのリターン」、逆のことが起きて損失を被れば「マイナスのリターン」となります。つまり、どこまでのリスクを許容してリターンを獲得するか、ということです。したがって、予測(期待)が当たったのか外れたのかは、リスクとは異なる概念です。

予測が当たればリスク並みのリターンが得られ、外れればリスク並みの損失を被ることになります(数学的にはリターン度合い≒リスク度合い)。言い換えると、予想以上に損失を被った/予想以上の利益を獲得したということは、それは予想以上のリスクをとったことを意味するのです。

株式投資では、自分自身でリスクをコントロールしながらリターンを追い求めることが重要です。ギャンブルでない限りリスクはコントロールできますので、適度なリターン(=適度なリスク)を求めれば、だれでも資産運用ができるわけです。

機関投資家も、なにかしらのリスクヘッジを行っています。短期的な為替変動に左右されたくない、金利情勢が読めないなど、株式投資を行う上で「すべての予測を的中させるのは不可能である」という原則に基づいて、読めない・わからない要素については、投資対象への影響を最小限にするリスクヘッジを行うのです。

基本となる3つのリスクヘッジ手法

リスクは、概ね以下のように表現できます。

  • ファクターの変動率 × 投資期間=リスク

ファクター(要素)は様々な事象や運用対象、例えばアメリカの経済情勢、為替、金利……などを指します。その変動率が大きくなればなるほどリスクが高まり、投資期間も長いほど様々なリスクを抱えることにつながります。

そこで、変動率を最小限に留める、あるいは投資期間を短くすることで、リスクを減らすことはできるのですが、現実には、株価を動かすファクターは無数にあり、長期保有もしばしばあるので、結果的に投資には常にリスクが付きまとう、ということになるのです。

もちろん、全てのリスクをコントロールすることは不可能なので、考えられるリスクを想定しながら、ヘッジすべきか、そうでないかを考えることになります。

具体的なリスクヘッジの方法としては、以下の3つが代表的です。

(1)時間を分散する(積み立て)

時間の分散によるリスクヘッジは、いわゆる積み立てです。なかでも代表的な手法として知られる「ドルコスト平均法」は、等金額を一定期間ごとに積み立てる投資法です。

このドルコスト平均法では、運用対象の価格が高いときは少なめの数量、価格が安いときは大きめの数量を取得することで、平均での投資コストを最小化します。投資金額を時間で分散することで、局面ごとのリスク回避につながるということです。

つみたてNISAなどで知られる手法も、時間リスクをヘッジしているといえます。

(2)ファクターヘッジ

ファクターヘッジは、投資対象の株価変動に関わる主要な要素(業績、経営等)以外の要素による影響を抑えるため、リスクヘッジ用に別な投資を行う手法です。

例えば、円高になると株価が下がる可能性が大きい場合、円高でリターンを得られる投資を併用することで(円高で株価が上がる銘柄も保有する、FXも運用するなど)、円高リスクに備えるのです。市場全体の下落の影響を避けたい場合には、市場急落に備えた投資(先物ショート、インバースETF、空売り等々)を併用します。

その他にも、経済紛争や政情不安、他国の株式市場の急変なども、その恐れがあると想定した場合にヘッジが可能であれば、そのファクターを打ち消すような投資行動を併用することで、不用意なリスクを回避することになります。

(3)商品を分散する

商品分散は、その名の通り、さまざまな運用商品に資金を振り向けることで、ひとつの商品のリスクを限定化、またはリスクを乗じることでトータルのリスクを低減化させる手法です。複数の銘柄に投資する、複数の業種に投資することなども商品分散によるリスクヘッジです。

多くの方がごく普通にやっていることかもしれませんが、リスクヘッジという点においては非常に効果的ですので、必ず実践したい手法です。また、商品を分散させることで、ひとつのことに心理が集中してしまうことを防ぐ意味もあります。

・一点集中が損失を招きやすい理由

人間には個別のことにばかり目が向く傾向があり、そうと知らずに大きなリスクや不利な選択をすることがあります、「ナローフレーミングの罠」といわれる現象です。

とある研究で、次の2つの投資行動をとる場合、どういう組み合わせの選択をするか、というアンケートが行われました。

  • 投資行動①:AかBを選びなさい。
    (A)確実に240ドルをもらえる
    (B)25%の確率で1,000ドルが得られ、75%の確率で何ももらえない
  •  投資行動②:CかDを選びなさい。
    (C)確実に750ドルの損失を被る
    (D)75%の確率で1,000ドルの損失を被り、25%の確率で何も支払わない

投資行動①では全体の84%がAを選択し、②では87%がDを選択したそうです。しかし、多くの人が選択した組み合わせ(AとD)と、選択しなかった組み合わせ(BとC)で比較してみると、あれ?っとなります。

  • A+D=25%の確率で240ドルを得られ、75%の確率で760ドルの損失を被る
  • B+C=25%の確率で250ドルを得られ、75%の確率で750ドルの損失を被る

こうして組み合わせで見てみると、B+CのほうがA+Dよりも明らかに有利であることがわかるのです。つまり、選ぶべきはB+Cの組み合わせということです。ひとつのこと(銘柄、商品)に囚われるとミスを犯してしまいがちな典型例だといえるでしょう。

最大のリスクヘッジは自分の心構え

株式投資の「保険」ということで様々なリスクヘッジを説明しましたが、自動車の運転でも、保険はかけるけれども、それを実際に使用することがないように安全運転を心がけるのが大事ですよね。それと同様に、投資でもトレードでも、安全運転を心がけて平常心を保つ、という心理面が最も重要です。

ただし、ヘッジしたことでリスクが減れば、それだけリターンも減る可能性があるということを念頭に置く必要があります。ある程度のリスクを内包、承知しながら投資行動をとらなければ、リターンは得られないのです。

そのうえで、リスクを生じさせる最も大きな要素は、継続的な行動を取れないことにあると言えます。車の運転と同じように、常に冷静に、同じような行動を取れるような心構えを持っておくことが、最大のリスクヘッジになるのではないでしょうか。

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[執筆者]鳳ナオミ
鳳ナオミ
[おおとり・なおみ]大手金融機関で証券アナリストとして10年以上にわたって企業・産業調査に従事した後、金融工学、リスクモデルを活用する絶対収益追求型運用(プロップ運用)へ。リサーチをベースとしたボトムアップと政治・経済、海外情勢等のマクロをとらえたトップダウンアプローチ運用を併用・駆使し、年平均収益率15%のリターンを達成する。その後、投資専門会社に移り、オルタナティブ投資、ファンド組成・運用業務を経験、数多くの企業再生に取り組むなど豊富な実績を持つ。テレビやラジオにコメンテーターとして出演するほか、雑誌への寄稿等も数多い。現在は独立し、個人投資家として運用するかたわら、セミナーや執筆など幅広い活動を行う。また、日本初のデジタルマネー格付け及びインデックスを提供する「JDRpro.」の開発運用責任者も務める。
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