株は「5月に売れ」って本当? 過去12年のセルインメイを検証してみた
相場の世界には「アノマリー」と呼ばれるジンクスのようなものが結構たくさんあります。その中でも有名なもののひとつが「Sell in May(セルインメイ)」。つまり「5月に売れ」ということですが、それは本当でしょうか? 過去12年の株価から、このアノマリーの真偽を検証してみます。
「Sell in May」の本当の意味
「5月に売れ」というこのアノマリーを、「5月は下がる(だから売り)」という意味だと思っている人は多いのですが、実は「Sell in May」はアノマリーの一部にすぎず、まだ続きがあります。
Sell in May and go away, don’t come back until St Leger day.
(5月に売れ。その後は出て行き、セントレジャー・デーまで戻って来るな)
「セントレジャー・デー」というのは、イギリスで有名な競馬レース「セントレジャーステークス」(世界最古のクラシックレースだそうです)が開催される日のこと。どうやら、このアノマリーはイギリス生まれのようです。
その「セントレジャー・デー」は毎年9月の第2土曜日。つまり、「5月に売ったら9月半ばまでは相場から出て行け」というのが、このアノマリーの正しい姿になります。
なぜ5月に売ったほうがいいのか?
では一体、どうして5月に売って9月まで戻ってきてはいけないのか、という疑問が浮かびますが、それに答えるには、このアノマリーが生まれた欧米の市場について考えてみる必要があります。
夏に長期のバカンスをとる習慣のある欧米では、夏場(6〜9月)は市場参加者も少なくなり、取引が軟調になる(活発な取引が行われない)という傾向があります。そのため、5月のうちに持っている株を売って、夏の間は相場から離れていたほうがいい、ということなのです。
要するに、このアノマリーが最も伝えたいことは、「夏の相場は軟調(だから気をつけよ)」ではないでしょうか。やけに回りくどい気もしますが、アノマリーやジンクスというのは往々にして、そういうものなのでしょう。
アノマリー検証・12番勝負
真の意味がわかったところで、じゃあ本当にアノマリーどおりに行動すればいいのか、を検証してみましょう。検証方法はいろいろと考えられますが、ここではアノマリーに〝忠実に〟従ってみたいと思います。
「5月に売って9月半ばに戻ってくる」ということは、言い換えると「9月半ばに買って5月に売る」ということでもあります。そこで「9月第2土曜日の次の月曜日に買い → 翌年5月の最終日に売る」とどうなっていたのか、過去12年のダウ平均株価の成績を、チャートとともに一挙にご紹介します。
・2005年9月12日に買い → 2006年5月31日に売る
2005年9月12日の始値:10,678.41ドル
2006年5月31日の終値:11,168.31ドル
↓
+489.90ドル
・2006年9月11日に買い → 2007年5月31日に売る
2006年9月11日の始値:11,389.87ドル
2007年5月31日の終値:13,627.64ドル
↓
+2,237.77ドル
・2007年9月17日に買い → 2008年5月30日に売る
2007年9月17日の始値:13,441.95ドル
2008年5月30日の終値:12,638.32ドル
↓
−803.63ドル
・2008年9月15日に買い → 2009年5月29日に売る
2008年9月15日の始値:11,416.37ドル
2009年5月29日の終値:8,500.33ドル
↓
−2,916.04ドル
・2009年9月14日に買い → 2010年5月28日に売る
2009年9月14日の始値:9,598.08
2010年5月28日の終値:10,136.63ドル
↓
+538.55ドル
・2010年9月13日に買い → 2011年5月29日に売る
2010年9月13日の始値:10,458.60ドル
2011年5月29日の終値:12,569.79ドル
↓
+2,111.19ドル
・2011年9月12日に買い → 2012年5月31日に売る
2011年9月12日の始値:10,990.01ドル
2012年5月31日の終値:12,393.45ドル
↓
+1,403.44ドル
・2012年9月17日に買い → 2013年5月31日に売る
2012年9月17日の始値:13,588.57ドル
2013年5月31日の終値:15,115.57ドル
↓
+1,527.00ドル
・2013年9月16日に買い → 2014年5月30日に売る
2013年9月16日の始値:15,381.36ドル
2014年5月30日の終値:16,717.17ドル
↓
+1,335.81ドル
・2014年9月15日に買い → 2015年5月29日に売る
2014年9月15日の始値:16,988.76ドル
2015年5月29日の終値:18,010.68ドル
↓
+1,021.92ドル
・2015年9月14日に買い → 2016年5月31日に売る
2015年9月14日の始値:16,450.86ドル
2016年5月31日の終値:17,787.20ドル
↓
+1,336.34ドル
・2016年9月12日に買い → 2017年5月31日に売る
2016年9月12日の始値:18,028.95ドル
2017年5月31日の終値:21,008.65ドル
↓
+2,979.97ドル
アノマリーは「法則」ではない
なんと、過去12年のうち10回は、アノマリーに従って売買していれば利益になっていました。実に、10勝2敗。なかなかの好成績です(ちなみにアノマリーが破れた2007〜2009年は、住宅バブル崩壊〜リーマンショック〜世界金融危機の時期と重なります)。
やっぱりアノマリーは正しいのだ!という気もしてきますが、ちょっと待ってください。このアノマリーが生まれたのはイギリスでした。しかし、ここで見たのはアメリカのダウ平均株価です。
そのアメリカでは、アノマリーの最後は「セントレジャー・デー」ではなく「ハロウィーン」とされているようです。ハロウィーンは10月31日。つまり、「5月に売ったら10月いっぱいは戻ってくるな」ということ。ずいぶんと長いバカンスですね。
このようにアノマリー自体が形を変えているので、これを「勝利の方程式」のように信じるのは危険ですが、長年にわたる相場傾向からの注意喚起だとは言えるでしょう——「夏の相場は軟調」。
ただし、これがそのまま日本の相場に当てはまるかどうかは、また別問題です。それに、相場全体の傾向としてはそうであっても、個別の銘柄も同じ動きをするとは限りません。他の多くのアノマリー同様に、これだけを頼りに投資判断を下すことのないよう、ご注意ください。