上がった保険・倉庫、下がった鉄道 レンジ相場でも上場来高値を付けた銘柄たち【6月の高値更新】
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。それは〝伸びしろ〟の表れと言えるのかもしれません。最近ベストを更新して伸びしろを見せているのは、どんな銘柄か。直近で高値をつけた銘柄から相場の流れを読み解く【高値更新を追え!】》
上値重い6月相場の高値更新
6月の日経平均株価は前月末に比べて1095円高と続伸、約3%の上昇となりました。
アメリカでは、好決算やAIによる市況活況でハイテク株などのナスダック総合指数が連日で市場最高値を更新。一方、日経平均株価は値がさの半導体株などの上値が重く、レンジ内でのボックスの動きが続きました。年初からの株高の背景となった海外投資家の買いも一服しました。
ただ、新NISAによる個人投資家からの資金流入や東証の企業改革に期待する押し目買いなども入り、総じて下値は堅い展開となりました。
こうした中で、高値を更新しているのは、どのような銘柄か。新高値・新安値をつけた銘柄を取り上げながら、それぞれの共通点に着目し、6月相場で特徴的だった銘柄をひもときます。
・高値更新とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
金融株への資金流入で保険株が堅調
6月の日本株を業種別で見ると、堅調さが際立ったのは保険株でした。アメリカの金利高止まりや日銀の利上げへの思惑で国内の長期金利の上昇が継続し、利ざや改善や資金運用の環境が良くなるとの期待が継続しています。
MS&ADインシュアランスグループホールディングス<8725>、第一生命ホールディングス<8750>、東京海上ホールディングス<8766>は28日、そろって上場来高値を更新しました。かんぽ生命保険<7181>も同日に年初来高値を上回っています。
13~14日に開催された日銀の金融政策決定会合で、金融緩和政策の国債買い入れについて、買い入れ額を減額すると決定。7月30日~31日の次回会合で、その買い入れ額の減額について協議される見込みとなりました。
一方で市場では、景気に影響を与える可能性のある追加利上げについては、もう少し時間がかかるとの見方がありました。企業の賃上げが進む中でも、実質賃金の伸び率はマイナスの状態が続いています。国内消費も、インバウンド消費などを除くと、そこまで本格回復していない点もネックでした。
しかし、直近で円安ドル高が進行し、1ドルが160円を超えてきたこともあって、円安による輸入物価の上昇を抑えるために日銀が追加利上げに動くのでは……との見方が再燃しています。植田和男総裁が「追加利上げの可能性を排除しない」と発言したこともあり、金利の先高感が市場で続いています。
こうした中、銀行間の競争に加えて、低下していた住宅ローン金利も少しずつ上昇の兆しを見せ、銀行株の収益拡大が期待されています。auじぶん銀行は28日、住宅ローン事業を開始してから初めて、変動型の新規契約向けの住宅ローン金利を0.01%引き上げると発表しました。
住宅ローンで高シェアの住信SBIネット銀行<7163>は4日に上場来高値3175円を付けました。住宅ローンなどの信用保証大手の全国保証<7164>も25日に上場来高値を更新するなど、じり高の基調が続いています。
そのほか地銀などの一角も割安さなどを評価する買いが入り、新高値更新が相次ぎました。
〝隠れ不動産〟の倉庫株が揃って新高値
6月は景気敏感のバリュー株が強含む月となりました。含み益の不動産を多く保有する倉庫株も、バリュー業種のひとつです。本来、不動産に金利上昇は逆風ですが、業種としての割安さや株主還元強化への期待が買い材料になったもようです。
関西メインの杉村倉庫<9307>は13日に626円の高値を付けて年初来高値を更新。業界大手の三菱倉庫<9301>は年初から緩やかに株価上昇が続き、11日に上場来高値5521円を付けています。安田倉庫<9324>も同じく11日に上場来高値と、物色の強さをうかがわせる展開となりました。
新OSでアップル関連株が上昇
6月は電子部品株などの上昇も顕著でした。スマートフォンの在庫調整が進んだほか、米アップル<AAPL>が10~14日に開催した開発者向けイベント「WWDC」で生成AIを搭載したiOSについて発表して上場来高値を更新したことを受けて、関連株に関心が向かいました。
積層セラミックコンデンサー大手でアップルのサプライヤーでもある村田製作所<6981>は、21日に年初来高値3408円を付けています。同業の太陽誘電<6976>も18日に年初来高値4254円と堅調でした。
スマホ向け電池でシェア大手のTDK<6762>は5月後半から株価上昇の勢いが付いており、28日に上場来高値10070円を更新しました。TDKは次世代の全固体電池を巡る材料の開発が報じられたことも市場で話題となり、買いに弾みが付きました。
設備投資の活況で上昇するITシステム開発関連
人手不足や生産性向上のため企業のDX投資が活発化しています。また、4月からは建設業や運輸業などで時間外労働の規制を強化する2024年問題が話題となっており、これまで現場の時間外労働でなんとかリソースをまかなっていた企業も改革を迫られています。
3月の日銀短観によると、2024年度の全産業のソフトウェア投資額は前年比10%増と、前年計画並みの伸びが見込まれています。特に、大企業に比べてDX投資が遅れていた中堅企業を中心に投資が進むとの見方が広がっています。
独立系で製造業の組み込みソフトなどに強みをもつ富士ソフト<9749>は28日に、1999年の高値7350円をおよそ24年ぶりに上回り、7380円の上場来高値を付けました。
金融や製造分野に注力している独立系システム開発のクレスコ<4674>、金融向けシステム大手の野村総合研究所<4307>も、同じく28日に年初来高値を更新しました。
ディフェンシブの陸運株が弱含み
景気敏感のバリュー株が買われた一方で、景気に変動を受けにくいディフェンシブ株の一角からは資金の逃避が見られました。
東日本旅客鉄道<9020>、京浜急行電鉄<9006>はそれぞれ17日に、西日本旅客鉄道<9021>、東海旅客鉄道<9022>はともに20日に年初来安値を更新しています。
コロナ禍からの回復で旅客収入の伸びが一巡したほか、人手不足を補うための設備投資、車両老朽化対応などでコストがかさみ、鉄道各社の今期の業績見通しで減益予想が相次いでいることも影響しました。
個別で目立った値上がり&値下がり
6月に個別で値上げが目立ったのはメディア工房<3815>です。占いコンテンツを提供している企業で、東証グロース市場に上場しています。
19日に株主優待の新設と中期経営計画を発表したことが評価され、株価はその後、連日でストップ急騰しました。グロース市場の株価指数である東証グロース市場250指数が5月末に年初来安値を付け、市場全体が低迷していたことことも反騰の勢いにつながりました。
値下がりで目を引いたのはFPパートナー<7388>です。金融商品仲介業者として、保険代理店を全国展開しています。
11日、「東洋経済オンライン」が、FPパートナーが保険会社から見込み客の紹介などの支援を受け、見返りとして保険商品を優遇的に顧客に提案している、との報道を出しました。同社はプレスリリースで声明を発表したものの、株価は連日でストップ安となり、20日に年初来安値2366円を付けました。
7月は月末の日銀会合、米FOMCに、さらに関心が高まりそうです。こうした中で、今後はどんな銘柄が活躍するのか? 引き続き、高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきたいと思います。