好調なJAL・ANAと出遅れるトヨタ 高値更新の銘柄とともに出遅れ株が注目される理由
戻り相場で高値更新
ウクライナ問題や各国の利上げ、コロナなど外部環境で年初から低迷していた日経平均株価やアメリカ株が意外な戻り相場を演じています。
日経平均株価は3月と6月に付けた高値28300円台の壁を抜けきれずに26000円~28000 円のボックス圏でのレンジ相場が続いていました。
しかし7月以降、アメリカのインフレにピークアウトの兆しが出て、利上げによる株安の流れが反転し、日米ともに売られていたグロース株などを筆頭に買いの手が入り、日経平均株価は8月17日に戻り高値の29222円を付ける展開となりました。
その後は戻り売りも出ているものの、1月の年初来高値29338円の更新も視野に入ってきました。そんななかで「高値更新」をする銘柄と、依然として「出遅れ」の銘柄について考えてみたいと思います。
高値更新で株価がさらに上がる理由
株価の高値更新には「上場来」「昨年来」「年初来」の3つがあります。
「上場来高値」は、その銘柄が株式市場に上場して以来の高値ということで、買い方の強い物色が株価に現れているといえます。「昨年来」は1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象となります。4月以降は「年初来」が使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象です。
そんな高値更新は、相場の「節目」として重要視されます。
高値を更新すると、早くからその銘柄(や指数)を買っていたアーリーアダプターや短期での上昇トレンドに乗っかっていたトレンドフォロワーの買いに加えて、様子見だった機関投資家なども、買いを入れないとほかの投資家に運用成績で負けてしまうとの思いから参入してきます。
また、空売りのプレイヤーは高値付近での反転下落をもくろんで空売りを入れていることが多く、高値更新でその後の相場の勢いが強い場合は、株価の上昇によって大きな損失を被る「踏み上げ」への恐怖から慌てて買い戻しに動くため、さらに上昇の勢いが増します。
ダブル・インバースETFをめぐる思惑
「NEXT FUNDS 日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信」<1357>は日経平均株価の2倍程度、“逆”に値動きするように先物を用いて運用されているETF(上場投資信託)です。日経平均株価が10%値下がりすると、このETFの価格は理論上20%上昇します。
日経平均株価が下がると思う投資家はこのETFに買いを入れることで、下げ局面でも信用取引を用いることなく利益を得ることができるため、個人投資家に人気となっています。
このダブル・インバースETFの信用取引の買い残高の推移を見ると、6月17日時点では約5000万口ほどであったのに対して、8月19日時点では約2億口と、およそ4倍に膨れ上がっています。
日経平均株価の上昇による損失回避のためにダブル・インバースの売りを出すと、先物の売りポジションを買いで決済したのと同じことになりますから、買い方にとってこのETFの残高増加は安心材料となり、高値更新の原動力のひとつになったと見ることもできます。
高値更新の注目銘柄
今年の日本株相場は、年央までは資源価格上昇や海運市況の高止まりでINPEX<1605>や石油資源開発<1662>などのエネルギー関連株のほか、商船三井<9104>などの海運株の上昇が目立っていましたが、個別銘柄の動向を注視してみると、意外な銘柄が高値更新となっていることに気がつきます。
インバウンドの回復に膨らむ期待
足元で強さを見せているのは、日本航空<9202>やANAホールディングス<9202>などの空運株です。新型コロナウイルス感染第7波の中ではありますが、 8月24日には、日本への入国時に義務づけられている出国前検査の陰性証明書の提出義務が条件付きで撤廃されました(実施は9月から)。
足元の円安で、海外の観光客にとっては、日本への渡航の宿泊料や買い物がこれまでより割安になっています。また国内旅行者も、コロナ前には及ばないものの行動制限がない中で人々の移動が活発になっていることから、空運や鉄道、旅行などインバウンドや経済再開関連の銘柄に資金が向かっています。
JR九州(九州旅客鉄道<9142>)は、大都市圏の定期利用客の運賃収入の割合が他のJR・私鉄に比べて低く、ホテルやショッピングセンターの収益の割合も高いことから、8月24日に年初来高値2887円を付けました。
インバウンドによる高額消費がひところ話題になった百貨店株も同様です。高島屋<8233>は8月26日に年初来高値1528円を付けています。大丸・松坂屋のJ.フロント リテイリング<3086>、三越伊勢丹ホールディングス<3099>も日足ベースでは高値圏となっています。
インフレで恩恵を受ける中古業界
また、世界的なインフレの進行で日本国内でも消費への影響が懸念されていますが、意外な業界がその恩恵を受けています。
新品の値上がりで、リサイクルショップや中古品販売などに消費者の関心が向かっているのです。メルカリやヤフオクなどの利用者増や、環境保護の観点から、リユース品を使用する消費者の裾野も広がっています。
なかでもトレジャーファクトリー<3093>は、8月25日に上場来高値の1784円を付けました。
首都圏などでリサイクルショップを多ブランド展開する同社は、中古のエアコンなど夏物家電のほか、外出機会の増加で衣料品などの販売が伸びたことで、7月13日には今期(2023年2月期)の通期業績予想をはやくも第一四半期決算の時点で上方修正し、市場から好感されました。
同業のハードオフコーポレーション<2674>の株価も年初来高値圏となっているほか、貴金属やトレーディングカードの中古商材を得意とする買取王国<3181>も買われています。
出遅れ株が物色されるパターン
日経平均株価などの指数が高値更新に近づく局面では、先導する個別銘柄が高値を更新したとき、投資家の関心は「出遅れ株」に向かいます。その際の物色には、いくつかのパターンがあります。
ひとつは、好業績の銘柄から出遅れの同業他社に物色が広がるパターンです。
ある業種の企業の直近の四半期決算が増収増益であったとして、これを手がかりに買われていた場合などに、同業他社は増収減益だったとします。こういうケースでは、増益企業が先に高値を更新すると、出遅れの減益企業にも関心が向かい、“連れ高”することがあります。
もうひとつは、売られすぎた値幅に着目して戻りを期待する買いが入るパターンです。
たとえば東証マザーズ指数は、2021年末の987ポイントから6月20日の年初来安値607ポイントまで約38%売られました。新興の小型成長株が多く、財務基盤が未成熟かつ成長途上で赤字の企業も多いことから、年初からのアメリカの利上げ局面では投資家のリスク許容度が低下し、売られました。
しかし7月以降、アメリカの利上げペースが鈍化するとの期待から、これらの銘柄にも売られすぎと見た買いが入り、出遅れ株として上昇しました。マザーズ指数は6月の年初来安値から8月17日の765ポイントまで約26%上昇し、同じ期間の日経平均株価の上昇率(13%)を大きく上回りました。
高値更新と出遅れ株の密な関係
高値更新で投資家のリスク許容度が増すと、出遅れ株にも資金が向かい、それが高値更新になって、また別の出遅れ株が物色される──パターンは様々ですが、こうした「循環物色」によって、相場全体の温度はさらに上がっていきます。
そして相場の最終局面、つまりほとんどの銘柄が上がりきってしまったような状況では、万年赤字株や仕手株のような銘柄が理由もなく急騰し、上昇相場は終焉を迎える……というのがセオリーです。
しかし現状では、トヨタ自動車<7203>やソニーグループ<6758>、ソフトバンクグループ<9984>などの主力株は依然として出遅れが続いており、循環物色といっても、相場全体の温度はまだそこまで高くなっていないことがわかります。
このように、高値更新と出遅れ株への物色はわりと密接に結びついています。現状どのあたりのグループが買われていて、どのあたりはまだ出遅れているかを把握しておくと、「次はこのあたりが買われそうだ」といった見当をつけることができるようにもなります。