テクニカル分析は万能か? 一流の投資家が教える、株価チャートからわかること・わからないこと

朋川雅紀
2022年4月8日 11時30分

Andrey Armyagov/Adobe Stock

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テクニカル分析は必要か?

株価というのは、理論的(長期的)には「株式が生み出す将来のキャッシュフローの現在価値」です。したがって、キャッシュフロー(業績)と現在価値を算出するための割引率の分析、つまり「ファンダメンタルズ分析」が必要になります。

その一方で、株価もひとつの「モノの値段」であることには間違いないので、経済の原則に基づいて、短期的には「需要と供給で決まる」というのも事実です。この需給には「人間の心理」というものが大きく影響していますので、そこには「テクニカル分析」の必要性が生じます。

つまり、株価(その方向性)を予測するためには、ファンダメンタルズ分析だけではなく、テクニカル分析も併せて使うことが重要だということです。そこで、株式投資においてテクニカル分析を活用する上で、最低限知っておいてほしい特性や注意点を挙げてみたいと思います。

チャートは嘘をつかない

ここで言うテクニカル分析とは、株価チャートの形状やパターンからトレンドを読み、その後の値動きを推測する手がかりとすることです。

ただし、チャートパターンはあくまでも指針です。チャート分析は決してマジックなどではなく、何かの出来事が起こる前には「必ず」チャートに現れると信じることはナンセンスですし、チャート分析が「常に」100%機能すると期待することはリスク以外の何物でもありません。

株価チャートは、マネーの動きをグラフ上に表示したものに過ぎません。しかし、そこには人間の心理、繰り返し生じる恐怖や欲望、そして、不確実性のサイクルが示されています。テクニカル分析とは、チャートに現れるそうした「市場心理」を基礎にしています。

株価の動きは、人の欲望や恐怖といった「感情」に基づいています。だからこそ、マーケット参加者の大半が欲望に支配されている間、株価は上昇します。そして、大半の人々が恐怖に支配されているときには、株価は下落します。

「チャートは嘘をつかない」──このことが、テクニカル分析を意味のあるものにしています。

チャートからわかること・わからないこと

株価チャートは、予想される下支え(下値支持)及び上値抵抗の水準を示し、トレンドの反転を警告することで、いつ買うべきか・いつ売るべきかの決定を助けることができます。また、異常な出来高や値動きによって、個々の企業に起こりつつある何事かに対して注意喚起をすることもできます。

投資家にとっては、上昇・下降、または横ばいといった現在のトレンドを判定し、そのトレンドが緩慢になりつつあるのか、それとも加速しているのか、といった判定をする際に役立ちます。

チャートを見れば、その銘柄の一生の履歴がわかりますし、株価が歴史的に高い水準にあるのか、それとも低い水準にあるのかもチャートが教えてくれます。さらに、ファンダメンタルズのデータやその他の要素を基礎とする買い入れの判断を確認するための手段も提供してくれます。

・値動きのパターン

現在の値動きは、過去の値動きと似たようなパターンを形成することが、しばしばあります。ある種のパターンを知っていれば、それだけ取引のリスクを小さくすることができます。ある株の長期間の値動きに精通している投資家は、一段と自信を持って転換点を捉えることができるようになるでしょう。

しかしながら、どんな状況も他のあらゆる状況と多少は違う、というのがマーケットの特徴です。つまり、全く同一のパターンは2つとない、ということです。そのため、チャートの解釈は見る人の経験や判断、さらには想像力次第で大きく変わってくることを理解する必要があります。

・上昇と下落

株価の下落は上昇よりも速く、そして激しくなります。それは、欲望は急速に燃え尽き、恐怖の傷が癒えるには時間がかかるからです。恐怖はパニック売りを引き起こしますが、欲望がパニック買いを引き起こすとは限らないのです。

「底」の形成には時間がかかり、「天井」からの下落は「底」からの上昇よりも急角度になります。

・トレンド

上昇トレンドは、買い圧力が売り圧力を上回っているときに発生します。直近の高値が前回高値を上回り、かつ直近の安値が前回安値を上る、という特徴があります。

一方、下降トレンドは、売り圧力が買い圧力を上回っているときに発生します。直近の高値が前回高値を下回り、かつ直近の安値が前回安値を下回ります。

そして、横ばい(保ち合い)は、買い圧力と売り圧力が拮抗しているときに発生します。つまり、上昇トレンドでも下降トレンドでもない状況です。

時期にもよりますが、市場が強いトレンド(上昇トレンドか下降トレンド)を見せるのは、全体の15~20%程度であると言われています。つまり、ほとんどの時間、市場は横ばいであるということを意味しています。

通常、上昇トレンドの後に横ばいが現れ、それから下降トレンドに転じて、横ばいを経て、再び上昇レンドが現れます。

また、勾配の緩やかなトレンドは長く継続しやすく、勾配の急なトレンドは継続しにくい、長期のトレンドは短期のトレンドよりも信頼性が高い、長期トレンドが発生する前には短期間でのセンチメント(市場心理)の変化が必要、といったこともトレンドの特徴としてあります。

・支持線と抵抗線

支持線(下値支持線)とは、それ以上は株価が下がりにくいという水準で、ここでは買い圧力が高まることが予想されます。一方、抵抗線(上値抵抗線)は、これ以上は株価が上がりにくいという水準で、ここでは売り圧力が高まると予想されます。

支持線を切って株価が下に抜けると、その支持線は抵抗線に変わり、株価が抵抗線を切って上に抜けると、今度はその抵抗線が支持線になります。

なお、過去の高値・安値、切りのいい数字、移動平均線などが支持線や抵抗線の候補になります。

完璧な投資家は存在しない

株価チャートを一切見ずに投資判断を下すことは、履歴書を見ずに人を採用するようなものです。ファンダメンタルズ分析を完璧にできるのであれば、わざわざテクニカル分析を行う必要はありませんが、そのような投資家は存在しないと思っています。

同じチャートを見ても、解釈の仕方は人それぞれです。したがって、できるだけ多くのチャートを見て、自分なりの感覚を養う必要があります。

また、個々の株の極めて明確に定まったパターンが、何の警告もなく、市場全般の転換に伴って突如として崩壊することもあります。テクニカル及びファンダメンタルズの両面にわたって、市場の全般的な状況を丹念に追う習慣を身につけることが大切です。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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