株はいつ売ればいいのか。売り遅れず、チャンスを逃さない、7つの「売り時」

朋川雅紀
2022年12月9日 14時00分

jonicartoon/Adobe Stock

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なぜ、株の売りは難しいのか

株は「いつ」売ったらいいのでしょうか。

株の世界では、「売りは難しい」とよく言われます。基本的に、投資のリターンは買値と売値の差によって決まりますから、買いの段階では非常に大きな(儲けの)可能性を秘めています。買いの場面ではスタートラインに立っただけですから、無限の可能性があります。夢が広がります。

ところが、売りはどうでしょうか。売りのほうは、売りを実行した瞬間、すべての可能性がなくなることになります。夢から一気に現実の世界に引き戻されてしまいます。売却によって、個々の投資のリターンが「確定」してしまうわけですから、難しいと思うのは当然かもしれません。

売却の満足感は、その株を売却した後の株価の動きに大きく影響を受けます。つまり、こういうことです。

「完璧な売却」とは、直近の最高値で売ることができ、しかも、売りを行った翌日から株価が下がり始めることです。できれば、その株価がゼロ(企業の倒産)になったら最高です。

反対に、「悪い売却」とは、売った後に株価が上昇し続ける場合です。売却で利益が出たとしても、「何でこんな早く株を売ってしまったのだろう」と自分を責めるでしょう。損切りした後に株価が上昇した場合は、「最悪の売却」と呼んでいいでしょう。

私が売りを考える7つの場面

私自身は、売り遅れて損を抱えるのは嫌ですが、それと同時に、早く売り過ぎて大化け株のチャンスを逃してしまうのもつらいので、複数の理由から売却するかどうかを判断するようにしています。

また、一度にすべてのポジションを売らないようにもしています。何回かに分けて売却することを考えて、計画を立てるのです。決して「パニック売り」はしないように、日頃から準備をしています。

具体的にどういうときに「売り」を検討すべきかを挙げていきましょう。

・間違いに気づいたとき

描いていたシナリオが間違っていることに気づいたときには、売りを検討します。これは、企業に対する知識・理解不足から来るものです。したがって、投資する前に十分な調査をすれば、この間違いは避けることができます。

株価が下がるのを見て、自分の間違いに気づくケースがほとんどだと思います。つまり、間違いに気づいたときにはすでに株価が下がっているわけですから、そこで売っても手遅れのケースは多いと思います。

反対に、株価が下がっていることで、間違いだと「勘違い」するケースもあると思います。この点は注意する必要があるでしょう。ファンダメンタルズに問題がない場合、一時的に株価が下がっているだけであれば、むしろ買い増しの絶好のチャンスかもしれません。

・ビジネス環境に変化が起きたとき

新しい技術の登場、規制の緩和/強化などによって、ゲームのルールが変わることがあります。この場合はシナリオの修正が求められます。投資している企業を取り巻く環境が変化し、既存のビジネスモデルの有効性が失われるケースです。ライバルの出現によっても、こういうことは起こります。

保有銘柄をフォローする目的は、基本的には「ビジネス環境に変化が生じ、収益性・成長性に変化が起きていないかどうか」をチェックすることです。

私自身は、独占あるいは寡占型のビジネスに好んで投資しますので、買いの段階で、そもそも簡単に新規参入されてしまう業界は対象にしていません。ただ、自分が想像していない環境の変化も、可能性としては起こり得ます。だからこそ、気を抜かずに継続的にチェックを行うことが重要なのです。

・株の比率が基本資産配分を大きく上回っているとき

自分で決めた基本資産配分から大きく乖離して株の比率が高まったときには、売りを検討します。これは個別銘柄の理由ではないので、どの銘柄を売るかを選ぶのは少し面倒です。

例えば、株を70%保有すると決めていたとします。株価が上がったことで、その比率が80%になったら、相対的に割高な株を売って、株の比率を70%に戻します。投資信託やETFを持っているなら、それを売って比率を変更することもできます。どの銘柄を売るかを考えなくてもよいので便利です。

・テクニカル

株の「先見性」を理由に、ファンダメンタルズの理由がまだ明らかでない状況でも、株価が大きく動くことがあります。ですから、テクニカル指標を使って売りのタイミングを判断するのは有効だと思っています。

私自身は、テクニカル指標だけを使って売りを行うことはありません。通常はファンダメンタルズ要因や株価サイクルを併せて考えます。

例えば、移動平均からの乖離が大きく、急上昇した銘柄は売りを行うようにしています。そそり立つようなチャート形状をしているときは、株価はオーバーシュート(熱狂状態)と判断できます。

・より魅力的な銘柄を見つけたとき

2つの企業を比較して、収益性・成長性、およびリスクの観点から、より魅力が高いにもかかわらず、株価が相対的に割安と判断した場合、入れ替え(スイッチ)をします。似たような業種であれば比較をしやすいので、同一業種内の入れ替えにはとても便利です。

・サイクルが成熟したとき

景気敏感銘柄は、サイクルのピークに近づいてきたら、売却を実施します。この種の銘柄は、サイクルが若いときに買いを入れ、サイクルが成熟したときに売りを行います。保有期間としては、2~3年程度をひとつの目処としています。

もちろん、サイクルの伸展が期待できるとすれば、2~3年に固執することはありません。オール・オア・ナッシングではありません。2年を超えて上昇した場合には、景気敏感株の一部売却をお勧めします。

・好材料に株価が反応しなくなったとき

株価は、短期的には「需給」の影響を大きく受けます。買いたい人が多ければ株価は上がりますし、売りたい人が多ければ株価は下がります。また、売りたい人がいなくなれば株価は上がりますし、買いたい人がいなくなれば株価は下がります。

そして、好材料をすべて織り込んだときに、株価は好材料に反応しなくなります。これは、もう買いたいという人がいなくなったということです。

私は、好材料に株価が反応しなくなったという理由だけで売却を行うことを積極的にはお勧めしませんが、時として、売るタイミングを計るうえで有効な方法であることも事実です。特に、長く続いた好材料に反応しなくなったら、絶好の売却タイミングを提供してくれているのかもしれません。

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[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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