勝ち続ける投資家は「市場サイクル」を知っている

朋川雅紀
2022年1月7日 11時30分

《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

相場の将来は予測できない

経済や株式市場の将来に何が起こるかは誰も知ることができません。過去の出来事は偶然に大きく影響されてきましたし、そのことは今後も変わらないでしょうから、将来の出来事も完全には予測することはできません。多くのことが起こりえますが、実際に起きるのはたったひとつだけなのです。

投資の世界では、多くの異なる結果が起こりうるので、不透明性やリスクから逃れることはできません。したがって、将来を「予測可能で起こるべくして起きた」という唯一の結果として見るべきではありません。

ただし、確率的に、あるいは平均的に、何が起こるかの予測はできるかもしれません。したがって、現状を見極めれば、将来を予測する能力がなくても将来に備えることは可能になります。

「歴史は韻を踏む」

私がよく使う言葉に「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」があります。これはどういうことでしょうか。

物事の理由や結果が過去の例と全く同じになることはありませんが、たいていの場合、物事はかつて見たのと似たような展開をたどります。歴史の中のある特定の流れにおいては、一つひとつの出来事は細かい点で異なっていたとしても、根本にあるテーマやメカニズムは一貫しているのです。

それぞれの景気や市場サイクルは、その原因や細部、タイミングや振れ幅の面で異なったものになりますが、浮き沈みはいつまでも起こり続けるのです。

揺れ動く投資家心理

企業、金融、市場のサイクルにおける上方への行き過ぎた動きと、やはり行き過ぎた下方への反動は、ほとんどの場合、振り子のように大きな「心理の揺れ」によって起こります。投資家の感情や心理の乱れは、景気サイクルと企業の利益サイクルに大きな影響を及ぼすのです。

市場は、過大評価と過小評価の間、強欲と恐怖の間、楽観と悲観の間、リスク許容とリスク回避の間、焦り買いと狼狽売りの間を、振り子のように揺れ動いています。

揺れ動く振り子は、「平均的には」その中心点に位置すると言えますが、実際にそこに留まる時間はほんのわずかです。つまり、株式市場のパフォーマンスに関して、平均とは必ずしも標準的な状況を意味しません。投資の世界では、投資家の認識が理想的な状態と絶望的な状態の間で揺れ動くからです。

投資家心理とリスクの関係

投資とは、利益を追求するためにリスクを負うことです。そのリスクは、投資を難しくする最大の要因になります。リスクは投資に関わる要素の中で最も移り変わりの激しいものだからです。

投資家が集合体としてリスクをどのように見ていて、それをもとにどのように振る舞うかが、我々を取り巻く投資環境が形成される過程で重要な役割を果たします。リスクに対する評価や対応が変化することが、投資環境の変化をもたらすわけです。

リスクは投資家心理で変化する

リスクとリターンの間には正の相関関係が見られるため、投資家にリスクを取らせるには、追加的な見返りの可能性を示す必要があります。

投資家がリスクに注意を払わない(=リスク許容度が高い)ときには、リスク・プレミアムに対する需要が低減することから、追加的なリスクを負うことに対する見返りは縮小します。

一方、投資家がリスク回避的である(=リスク許容度が低い)ときには、リスク・プレミアムに対する需要が増大するため、追加的なリスクを負うことに対する見返りも拡大します。

しかし皮肉なことに、投資家がリスクは低いと感じているときに実際のリスクは高くなり、リスクが高いと感じているときに実際のリスクは低くなります。

楽観がリスクを魅力に思わせる

リスクに対する寛容な姿勢が広がることは相場下落を示唆する前触れとなり、リスクに対する厳格な姿勢が広がることは相場上昇を示唆する前触れとなります。

まず、良い出来事が起こると楽観や強欲の傾向が強まり、投資家は通常よりもリスク回避的でなくなります。投資環境をより前向きにとらえるようになり、起こりうる結果についてもより楽観的に考えることから、投資の決定プロセスにおいて慎重さを欠くようになります。

そして、もはや投資にリスクがあるとは考えないため、詳細な分析を行う必要性を感じなくなり、リスクをさほど気にせず、以前のような高いリスク・プレミアムを要求しなくなります。リスクの高い資産を魅力的に感じ、そのリスクに対する警戒心をも緩めることで、投資先へのこだわりが薄れてしまうのです。

総悲観なときこそ、最も安全な買い時

反対につらい経験をすると、投資家は先行きを悲観的な目で見るようになり、警戒感を募らせます。投資とは利益よりも損失を生むものだと考えるようになる結果、チャンスを求めるよりも一層の損失を回避することを重視し始めます。

そして、期待外れに終わることがないようにかなり保守的な前提を置き、懐疑的な傾向を過度に強め、あらゆるものにリスクがあると考えて、現在の膨れ上がったリスク・プレミアムですら不十分に感じます。心配性になり、行き過ぎたリスク回避の姿勢から底値で売ってしまうのです。

相場のピークではリスク許容度が天井知らずになるように、相場の底ではリスク許容度はゼロになります。そして、価格とリスクがまさに底にあるとき、それまでの下落で傷を負っている投資家はリスク回避の姿勢を強め、傍観者になってしまう傾向があります。

悲観的な環境においては、行き過ぎたリスク回避の姿勢から人々は投資を理不尽なまでに精査し、前提をどこまでも悲観的なものにしてしまいます。つまり、最も安全な買い場は、誰もが「お先真っ暗」だと思いつめているときにたいてい訪れるのです。

投資家心理が生む市場サイクル

金融理論においては、投資家は客観的で、合理性に基づいて最適な行動を取る「経済人」として描かれがちです。しかし実際には、投資家が冷静に金融データを評価したり、感情を抑えて取引を決めたりすることは、まずありえません。

過去の業績(ファンダメンタルズ)と将来のファンダメンタルズ、そして投資家の心理が組み合わさって、株価は決まります。しかも、主に心理や感情などのファンダメンタルズ以外の要因によって、株価は利益の幅よりもはるかに大きな幅で変動する傾向があるのです。

今、市場はサイクルのどこにいるか?

重要なのは、市場が今、サイクルのどこに位置しているのか、そして、それが将来の動向にどう影響するのかを理解することです。

市場サイクルは、振れ幅の大きさ、進行のスピード、浮き沈みにかかる時間といった点で毎回異なるため、過去のサイクルの情報に基づいて次にどうなるかを正確に予測することはできません。

しかし、市場は、極端な状況に達すると極めて重要なメッセージを発するので、将来について推測しなくても、現状に目を凝らせば、卓越した投資判断を下すことは可能です。ゆえに、サイクルの知識と、サイクルの中での今の立ち位置に関する認識は、素晴らしい投資リターンを上げるために必要不可欠なのです。

市場サイクルを活用して勝つ

投資家が慎重に振る舞い、リスク回避的な姿勢を見せ、懐疑的になり、前向きな姿勢を見せられないとき、株価は潜在的な価値に対して割安となっている傾向があるため、その後の投資のリターンは改善することが予想されます。

反対に、投資家が気分を高揚させ、強欲に支配されて買いに動くと、株価は危険な水準まで上昇し、その後の投資のリターンは悪化することが予想されます。

このように、サイクルに関する何らかの見識を生かせば、勝つ確率が高いときには投資額を増やしてより積極果敢な投資を行い、勝つ確率が高くないときには投資額を減らしてより防御性を高めることができるのです。

勝ち続ける投資家の秘密

優れた投資家は、将来何が起きるのかを正確に知っていると思っている人もいるかもしれませんが、そうではありません。サイクルにおける現在の立ち位置から、将来の趨勢(起きるかもしれない、あるいは起きてしかるべきこと)を理解しているのです。

大多数の平均的な投資家は、サイクルの重要性と、そこからいかに行動すべきか知りうることを理解していません。そのせいで、客観性ではなく、感情によって世界や市場を評価してしまいます。

一方で勝ち続けている投資家は、市場のサイクルを理解しているため、その変動を乗り切るために必要な精神的な強さを身につけ、恐怖と強欲の間で巧みにバランスを取ることができます。

客観的な目で物事を見ることができ、熱心で疑い深く、いつも適度にリスク回避的であるだけでなく、リスクに見合う水準よりも大きなリターンが得られそうな機会はないかと絶えずアンテナを張ってもいます。他人が慎重さを欠いているときほど、慎重に事を運ぶことができるのです。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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