カリスマ投資家に学ぶ「勝てる投資」(2)ピーター・リンチの投資手法
《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》
ピーター・リンチの投資手法
「投資の神様」とも言われるウォーレン・バフェット。そんな神様と同じように、長期投資を実践する上で是非知ってほいてほしい投資家のひとりが、ピーター・リンチです。
ピーター・リンチの投資手法の最大の特徴として、低(無)成長業界の中から高成長企業を見出そうとすることや、世間からあまり注目されず人気のない企業を好む、という点があげられます。
また、マーケット(株式市場全体)の動きにはあまり関心を示さないのも特徴です。マーケットを正確に予測することは難しいですし、遅かれ早かれ、企業の収益が株価を決定しますので、マーケットの動きに過度に敏感になる必要はない、ということです。
ただ、リンチの手法ではバリュエーションを考慮しますので、実質的には、マーケットの動きを利用していることになります。
PERで測るバリュエーション
実際に投資を行う前には、バリュエーション指標を確認する必要があります。
・個別企業のPER
株価収益率(PER)は、株価が高すぎるか、安すぎるかを判断する材料になります。言い方を換えれば、ある会社の収益が一定と仮定すれば、その会社があなたの投資額を稼ぎ出すのに何年かかるかの目安になるということです。過去との比較や業種平均との比較で、その割安度をチェックできます。
・市場のPER
株式市場全体のPERは相場の過熱感を判断する目安になります。金利が低く債券の魅力が低いときには資金は株式へ向かう傾向がありますので、金利がPERに与える大きな影響には留意すべきです。
リンチ流「完璧な会社」
ピーター・リンチにとって、どのような会社が理想的な投資対象になり得るのでしょうか。その具体例を示していきます。
●面白味のない、または馬鹿げた社名
退屈な名前や奇妙な名前の会社は世間の注目を浴びにくく、安く買えるチャンスが多くなります。
●退屈な、または地味な事業
缶や瓶の栓の製造、廃棄物処理、葬儀業などのビジネスは「華やか」とは縁遠いビジネスです。高収益で財務内容のよい会社がこうした退屈な事業を行っていれば、その株を割安のうちに買う時間が十分にあります。
●分離独立した会社
企業のある部門が分離・独立した会社です。大企業は、独立させた部門が失敗することで評判に傷がつくのを恐れます。そのため分離独立した会社は、通常、良好な財務内容を持ち、独立するに十分な備えを持っています。
●機関投資家が保有せず、証券会社の株式アナリストがフォローしていない会社
機関投資家が全く保有していないか、保有していたとしてもわずかな数しか保有されていない株は魅力的で、そうした中に掘り出し物があります。かつては人気があったものの、市場から見放された株も魅力があります。
●悪い噂の出ている会社
例えば、ホテルやカジノの経営にマフィアが関与している噂があれば、ホテルやカジノ関連の株への投資は手を出しづらくなります。
●低(無)成長産業
高成長産業にある会社の株価は、得てして下がるものです。というのも、ヒット商品が出ると、同じものを安く作る競争相手が出てくるからです。
一方、低(無)成長で、特に退屈で嫌われるビジネスは、他に興味を持つ人がいませんから、競争の心配がありません。
●ニッチ産業
採石会社のような独占的な商売であれば、価格決定権を握ることができます。
●買い続けなければならない商品
ソフトドリンク、医薬品、かみそりなどは当たりはずれのない安定したビジネスです。
●テクノロジーを使う側
価格競争に悪戦苦闘するコンピューター会社よりも、それを使ってコストを削減して利益を出す会社に投資すべきです。
●インサイダーが買う会社
つまり、その会社の人間が自社株を買っているのは、その会社がうまくいっている証拠、ということです。
●自社株買い
自社株買いは、企業が株主に報いる最も簡単で最良の方法になります。
リンチ流「最悪な会社」
反対に、どのような会社への投資は避けるべきでしょうか。
●超人気産業の中の超人気会社
常にニュースを賑わし、誰もが日常の中で目にしたり耳にしたりして、つい周囲に押されて買ってしまうような株のことを指します。こういう株は、急騰するかもしれませんが、落ちるときもまた急速です。特に、急成長産業と人気産業は多くの市場参入者を招きます。
●多悪化している会社
高収益会社はしばしば、配当を上げる代わりに「馬鹿げた買収」を行って、お金の無駄使いをすることがあります。「多角化」ならぬ「多悪化」を行うわけです。その過ちは、高すぎる買収価格と、全く知らない分野の会社の買収です。
●特ダネ情報があるとこっそり教えてくる会社
おいしそうなストーリーのように聞こえ、「すぐにでも買わないと手遅れになってしまう」という気にさせますが、実績を確認してから投資しても遅くなることはありません。
●顧客が分散されていない会社
製品の25~50%を単一の顧客に売っている会社はリスクが高くなります。
●名前の良い会社
たとえ二流でも、“イケてる”名前をつけている会社は、投資家に安心感を抱かせるものです。名前がハイテクに聞こえたり、よくわからない略語だったりすると、それだけで人気を呼ぶものです。
リンチ流の投資戦略
ピーター・リンチの手法で投資を行う際には、ストーリーとの関連で株価がどう動いているかによって、株の組み入れを増やしたり減らしたりします。
現実の株価は、ファンダメンタルズの方向とは逆に動くことがあります。したがって、自動的に「株価が上がっているものを売って、株価が下がっているものを保有し続ける」ことや、自動的に「株価が下がっているものを売って、株価が上がっているものを保有し続ける」ことは、正しい戦略とは言えません。
業績が伸び続け、ビジネスも拡大し続けていて、障害になるものがない限り、高成長企業の株は保有し続けることが望ましいでしょう。
(参考文献)『ピーター・リンチの株で勝つ──アマの知恵でプロを出し抜け』ピーター・リンチ/ジョン・ロスチャイルド、 三原淳雄/土屋安衛[訳](ダイヤモンド社、2001年)
“神様”の投資手法と比較する
長期投資を実践する上で、ピーター・リンチの投資手法は大いに参考になるはずです。
一方、「投資の神様」ことウォーレン・バフェットは、リンチとは異なる視点で銘柄を選びます。消費者独占型企業を選んで長期の複利効果を得るバフェットの投資手法の最大の特徴は、「悪材料で売る一般投資家やファンド・マネジャーの裏をかく戦法」です。
それぞれの投資手法を見比べて、自身の投資スタイルの参考にしてください。