投資家はいつも後悔している 判断を迷ったときに後悔を最小化するベストな方法とは

朋川雅紀
2023年4月26日 8時00分

giedriius / Adobe Stock

《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

All or Nothing

 今回は、投資にまつわる「後悔」をテーマにお話ししたいと思います。

「森の中で何かが聞こえたら、逃げろ!」的な経験則は、相手が恐ろしいクマやイノシシだった場合だけでなく、ただ風が吹いただけであったとしても、「ケガをしなかったのだから、良かった!」ということになります。「まずは逃げて、あとから考える」という姿勢は、命を守る助けになります。

ところが、投資判断の際にこのような原始的本能を使うことは、望んでいる結果につながらないかもしれません。だからこそ、いまだに、そして今後も、「投資から得られるはずのリターン」と「投資家が実際に手にするリターン」との間に乖離ができてしまうのです。

金融市場において、問題発生を示唆する最初の兆候を見て逃げ出すのは、大きなリスクとなることがあります。なぜなら、それがクマやイノシシのような獰猛な動物であることはあまりないからです。金融市場の場合、「ケガをしなかったのだから、良かった!」というルールはごくたまにしか効かないのです。

市場の調整はしょっちゅう起きていますが、それが大暴落につながることは、そう頻繁に起きることではありません。したがって、株価が少し下がるたびに売却して混乱が鎮まるのを待っていると、結局、「高値づかみの安値売り」になるのがオチです。

この30年間、本当に恐ろしい大暴落は数えるほどしかありませんでした。ITバブル崩壊、世界金融危機(リーマン・ショック)、新型コロナウイルスによるパンデミックです。

株価が少し下がるたびに売るのは、長期投資としては感心できません。そういう投資家の心には、「どうして売ってしまったのだろう」「ああ……売らなければよかった」という強い後悔の念が取り付いてしまいます。

投資家というのは、純粋に現在の気持ちだけで行動しているのではなく、過去のトラウマも引きずって生きています。これが危険なのは、冷静になってあとで考えればわかるはずなのに、非現実的な前提を置いてみてしまうからです。

一つひとつの判断を、過去のトラウマから切り離して見たほうが有益な場合が多いのですが、将来のシナリオを考えるとき、どうしても過去の悪夢に影響を受けてしまいます。何をするのが正しいかわかっていても、実際にゲームが始まると、それ以前の結果の影響を受けてしまうことはよくあります。 

後悔という感情

自分なりの投資哲学や投資手法を確立し、素晴らしいリターンを積み上げている一流の投資家ですら、後悔とは無縁ではありません。

「次のアマゾン」を見逃したり、あまりに早い段階で売ってしまったりすると、立ち直れないほどのショックを受けて、いつまでも尾を引くこともあります。なぜなら、そんな機会はめったに訪れることがないからです。

後悔は、極端にうれしいときか、極端に悲しい、あるいはつらいときに生まれる傾向があります。株式投資においては、大きな含み益、あるいは大きな含み損を抱えているときに、後悔という感情が生まれやすくなります。

たとえば、100万円を株に投資して、2倍になった場合を考えてみましょう。今売れば将来の利益を取り損ねるかもしれませんが、少なくとも、持ち続けたことで含み益が消えてしまうのは避けられます。

売った後に株価が下がれば「売ってよかった」と胸をなでおろすことができますが、その後に株価がさらに2倍(トータルで4倍)になったとしたら、「あのときに売るんじゃなかった……」と後悔することになります。

100万円を投資して、半分になった場合はどうでしょうか。今売れば、安い値段で損が確定してしまいますが、持ち続けることでさらなる損が拡大するのを防ぐことができます。

売った後に株価が下がれば、やはり「売ってよかった」と安堵しますが、その後、株価が上がり買値まで戻ったとしたら、「どうしてあのとき売ってしまったのか……」と後悔します。結局、売った後に株価が下がらなければ、後悔することになるのです。 

後悔しないための一手

私たちには、将来がどうなるかを正確に知る術がありません。したがって、判断ミスを誘発しやすい後悔という感情を最小限に抑えることが、とても重要になります。

大きな含み益や大きな含み損があるときに、将来の後悔を極力抑えるベストの方法は、一部を売却することです。「一部」というのは、どのように考えたらいいでしょうか。たとえば、半分(50%)を一つの目処にしてみてはどうでしょうか。迷ったら半分売ってみる、ということです。

株価が天井に近いという確信が高ければ、もちろん全ポジションを売ってもいいですし、そこまで確信が持てなければ3分の1だけ売る、というのもありだと思います。

一部を売却すれば、その後に株価が上がったときは、残ったポジションは株価上昇の恩恵を受けることができます。売った後に株価が下げた場合も、一部だけでも売っておいたことで傷口を広げずに済むことになります。

買いの場合も、大きく下げた株価の戻りを取れなかった後悔を避けるために、通常の買入金額よりも少ない金額で買いを行うこともいいかもしれません。

とくに投資初心者は「All or Nothing」で考えがちですが、「これしかない」と考えると、ほぼ間違いなく後悔することになります。後悔を最小化して、長期的に投資家として成功する確率を最大化するように心がけるべきだと思います。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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