勝率8割でも優勝できない 株の世界で重要なのは勝ち点ではなく得失点差
《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》
「50%を超える確率で正しければ、儲けることができるはずである」。この考え方についてどう思いますか?
おそらく直感的には「それは正しい」と判断するかもしれません。実際、「投資家は間違った判断より、正しい判断を数多くしなければならない」という考え方は一般的には広く受け入れられています。しかし、果たしてこうした考え方は正しいのでしょうか。
そのことを明らかにするために、ちょっと脇道に逸れるかもしれませんが、最初にサッカーの話をしたいと思います。
サッカーの世界
プロサッカーは基本的にリーグ制になっており、年間を通しての勝敗数(引き分けも含めた)に応じてポイントが割り振られた「勝ち点」によって順位が決定します。国内外を問わずいずれのプロリーグでも、勝ち=3点、負け=0点、引き分け=1点が割り振られます。
リーグ戦中は、試合結果に合わせた順位表が随時更新されます。そこで勝敗と一緒に掲載されるのが「得失点差」です。読んで字のごとく「得点した点数-失点した点数」を表し、勝ち点が同じチームを順位付けするときは、この得失点差が多い「より失点に対して得点が多い」チームが上位に来ます。
ここで話を単純化するために、あるプロリーグには所属チームが2チーム(AチームとBチーム)だけだとします。そして、この両チームが計5試合のリーグ戦を戦ったとします。結果は次のようになりました。
Aチームの試合結果は3勝1敗1引き分け。一方、Bチームの試合結果は1勝3敗1引き分けです。そして勝ち点を見ると、Aチームは10点で、Bチームは4点ですから、圧倒的な差でAチームの優勝となります。
投資の世界
これを投資の世界に当てはめてみましょう。得点=利益、失点=損失、得失点差=実質損益にそれぞれ置き換えてみると、サッカーの世界とは違った結果が見えてきます。
Aチームの場合、勝率は75%と圧倒的に高い成績を残していますが、実質損益はマイナス(−1)です。一方、Bチームは、勝率はわずか25%で負け越しているにもかかわらず、実質損益はプラス(+1)になっています。したがって、投資の世界ではBチームの優勝です。
この結果を生んだ要因は、第2試合です。6−2でBチームが大勝し(得失点差+4)、Aチームは得失点差−4の大負けです。もし、すべての試合において得点(利益)や失点(損失)の程度が同じようであれば、勝率の高いほうが得失点差(実質損益)も高くなるはずです。
つまり、投資の世界で重要なのは「勝ちの頻度(回数)」ではなく「勝ちの大きさ」である、ということです。
たとえば、5銘柄の株式を持っていたとして、そのうち4銘柄が少し下落し、残りの1銘柄が大きく上昇したらどうでしょうか。大半の銘柄が下落したにもかかわらず、ポートフォリオ全体の価値は上がる、ということが起こり得ます。
そのため、優れたパファーマンスをもたらすポートフォリオを構築しようと思うなら、ポートフォリオに含まれる個々の投資対象の期待リターンを分析する必要があります。
確率の世界で成功するには
確率が影響する分野で長期的に成功するためには、次のような点に注意する必要があります。
・得意分野
プロのギャンブラーは、いくつものゲームに手を出すことはしません。彼らは、特定のゲームに集中します。
同じように、優れた投資家は皆、特定の相場環境や特定の業種・銘柄など、自分の勝ちパターンを持っています。あらゆる相場環境や多くの業種・銘柄に同程度に関わろうとすると、中途半端な結果に終わってしまうことが多くなります。
・状況分析
確率が支配するゲームでは、市場価格が合理的に決まる傾向があるため、状況分析のスキルが求められます。投資家は、多くの状況を分析し、必要な情報を集めなければなりません。
・機会の限定
自分が行っていることを理解し、理想的な状況が訪れるのは待たなくてはなりません。したがって、マーケットの状況を正しく理解したうえで、自分にとって有利な状況にあると判断できなければ、取引には慎重になるべきでしょう。
・金額
投資の世界では、期待されるリターンが魅力的でないと判断したときには無理に投資する必要はなく、状況が魅力的であると判断したときだけ積極的に資金を投入することができます。
マグニチュードに注意せよ
投資の世界では、どれだけの銘柄が値上がりしたか(勝利数)ではなく、ポートフォリオ全体の価値が上がったか下がったか(得失点差)が重要です。時として、一部の銘柄の高騰や暴落がポートフォリオに及ぼす影響が、平均的な勝ち負けによる影響よりもずっと大きいことになります。
確率が結果を支配する分野で成功しているには、見極めるべき要素は、頻度よりもむしろマグニチュード(大きさ)であるということです。