売上高や総資産が伸びている企業は本当に買いなのか?

山口 伸
2020年10月9日 8時00分

売上高が伸びると株価は?

株の銘柄選択におけるファンダメンタルズ分析では、企業が四半期ごとに公開する貸借対照表や損益計算書などの決算書が手掛かりになります。なかでも売上高や営業利益、総資産や自己資本比率といった数値が前期よりも高い値を示していれば、その会社が成長しているわかりやすい指標となります。

特に売上高が上昇し続けている場合、その会社の製品がよく売られている(買われている)ということなので、良いイメージを持ちやすいでしょう。同じように総資産が上昇している場合も、会社の建物・備品などが増え続けていることから、会社の規模が拡大している印象を受けます。

しかし、実際の例を見てみると、「売上高や総資産の上昇」は必ずしも「株価の上昇」につながらないことがわかります。

売上高が伸びてが株価は下落した銘柄たち

・UUUM<3990>

UUUM<3990>はユーチューバーのマネジメント業務を行う会社。税務・法律、対外折衝を担当することで広告収入のうち2割程度を受け取っています。その他にも企業とユーチューバーの仲介などで売上を立てるビジネスモデルで、ヒカキンやはじめしゃちょーといった有名ユーチューバーが所属しています。

業績は顕著な伸びを見せ、2016年5月期に33億円だった売上高は2020年5月期には225億円程度と6倍以上に成長しました。契約ユーチューバーの増加と各チャンネル登録者数が増えたことが大きな要因です。総資産も、本社移転や機材の補充によって9.8億円から105億円と10倍以上に拡大しました。

これだけを見ると順調に成長している会社に見え、当然、株価も上がり続けているように思えます。しかし、実際の株価は上昇し続けていません。

2017年のマザーズ上場直後に1,800円台だった株価は、2019年1月には6,000円台を突破しましたが、その後は横ばい気味で、2019年12月には4,000円台まで下落。その後も株価は下がり続け、2020年5月期の決算発表がされた7月には2,000円台にまで落ちてしまいました。

売上高、総資産ともに上昇していて、売上高は今後も伸びそうなのにもかかわらず、株価は伸び悩んでいるわけですが、その原因は利益の減少にあると考えられます。

UUUMは会社を拡大していく中で従業員数を増やし、契約ユーチューバーを増やしました。その結果、収益の少ないチャンネルを多数抱えた上に人件費が増加したことで、営業利益が減少してしまいました。2019年5月期に12.5億円だった営業利益が、2020年5月期には9.9億円となったのです。

これが投資家心理を離れさせる一因となり、株価が下落してしまったのではないでしょうか。

・本田技研工業<7267>

日本を代表する自動車メーカーの一角を占める本田技研工業ホンダ)<7267>。売上収益(国際会計基準における売上高を表す)は、2020年3月期こそコロナの影響で減少しているものの、2019年3月期までは3期連続で上昇していました。

中国での生産台数が伸びたことが原因で、現地工場も拡張しているため、総資産も2017年3月末の18兆9581億円から2020年3月末の20兆4191億円まで上昇しています。

売上収益と総資産が増え続けているため、株価が上昇していそうに思えます。しかし、2017年の後半こそ上昇していますが、2018年に入ると下落基調となりました。

この要因は、売上収益に対する営業利益の割合である営業利益率を見ると明らかです。2016年度には6%でしたが、その後は下がり続け、2018年度には4%台に。中国での販売台数を増やしたものの日本や欧米では伸び悩み、四輪車を中心に利益が出にくい体質になってしまったことが背景にあります。

このまま利益率が下がるのではないかという見込みが投資家離れにつながったのだと考えられます。

・良品計画<7453>

「無印良品」の店舗・ブランドを展開する良品計画<7453>。最近ではどこのショッピングモールでも見かけるようになったほか、海外にも進出しています。実際のところ、2016年2月期から2020年2月期まで店舗数を伸ばし続け、あわせて売上高も上昇し続けています。

一方で株価を見てみると、2016年2月に2,400円前後だった株価は、2018年2月に3,700円台まで伸び、6月には4,100円を超えました。しかし、その後は下落に転じ、コロナショックのあった2020年3月には1,000円を割ってしまいました。

売上高は上昇を続けているのに対して、株価のピークは2018年6月。実は、当期純利益のピークもまた、この頃だったのです。

大切なのは未来の利益

このように、売上高や総資産の上昇は必ずしも株価の上昇にはつながらず、それよりも利益の増減によって株価は大きな影響を受けることがわかります。

特に利益率が連続して下落しているような場合には、株価が下落するケースが多いようです。配当性向が低くなる可能性や将来性への不安から買い控える投資家が増えるのでしょう。このまま利益が減少し続けたら将来的には赤字になるのではないか、という不安が投資家を思いとどまらせるのです。

将来の業績拡大を期待して投資するなら、いま成長しているかどうかよりも、将来的に成長が見込めるかどうかを見極める必要があります。そのためには売上高や総資産だけでなく、営業利益や利益率の伸びなども確認して、企業の将来像を思い描いてみることが大切なのだと思います。

[執筆者]山口 伸
山口 伸
[やまぐち・しん]化学メーカー勤務の研究開発職。平日は研究に没頭するが、お金や資産運用にまつわる話が好きで、休日は資格を活かした副業と株式投資にいそしむ。趣味は街歩きと読書。
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