MBOの市場規模が過去最高に。MBOの仕組みと増加している背景、投資家の対応を解説
2023年はMBO市場が過去最高を更新しました。MBOは、経営陣が自社の株式や事業の一部を取得して、独自の経営権を持つプロセスです。MBOの基礎知識から実施に至る背景までを押さえながら、MBOが増加している理由と、投資家がどのように対応すべきかについても解説します。
MBO(マネジメント・バイアウト)とは
MBO(Management Buyout=マネジメント・バイアウト)はM&A(Mergers and Acquisitions=合併と買収)の一種で、企業の経営陣(や従業員)が、自分たちの会社の株式や事業を買い取って非公開化し、独自の経営権を持つプロセスのことを言います。
MBOの主な目的は、経営体制の再編成や株式の公開取引の中止です。
たとえば、本業と相乗効果の低い事業部門や子会社を経営陣に取得させることで、売却側は資金を得て経営をスリム化し、より本業に専念できます。買収側は個人のため、企業間に親子関係は生じません。むしろ分離することで、経営の独立性が確保されます。
上場企業の場合、経営陣が全株式を取得すれば、当然その銘柄は上場廃止となります。これにより経営の自由度を高められることも、MBOの目的のひとつです。流通株式を取得するには、TOB(株式公開買い付け)が行われます。
また、中小規模の企業でも、後継者が見つからないときにMBOが行われています。
2023年のMBOの市場規模は過去最高
ブルームバーグによると、2023年のMBOの市場規模は過去最高となりました。前年比で2.7倍、少なくとも8700億円に達したとのことです。
この伸びは、全世界の50%増と比較しても飛び抜けています。特に注目すべきは、大正製薬ホールディングス<4581>やベネッセホールディングス<9783>がMBOを発表した2023年11月の急増で、2011年12月以降で最も多い件数を記録しました。
また日本経済新聞では、2023年のMBOの総額は1兆1000億円を突破し、これまで最高だった2020年の3050億円を大きく上回った、とも報じています。これらの報道から、2023年の日本のMBO市場が非常に活気に満ちていたことがわかります。
MBOが増加している背景
このようにMBOが増加している背景は、MBOが行われる企業の規模に関連しています。大企業の場合、1980年代の高度経済成長期からバブル期にかけて、企業は多角化を進め、規模を大きくしました。その後、バブル崩壊後の不景気により、本業との相乗効果の低い事業を分割する動きが増加しました。
最近では、海外投資家などアクティビストによる増配圧力が増しているため、株式の公開取引を中止すること(上場廃止)を目指してMBOを実施する企業も増えています。
また、株価が割安な企業に対する圧力も増しています。東京証券取引所は2023年3月に、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業に対し、改善策を開示して実行するよう求めました。PBR1倍未満という状況は、企業が解散して資産を分配するほうが株主にとって利益があることを示しています。
取引所が企業にPBRの改善を求めるのは異例の事態であり、経営者に負担がかかっているのです。実際、2023年にMBO宣言を行った企業群の中では、PBRが1倍未満の企業が目立ちました。
PBR1倍未満の企業は、資本効率の改善策を模索することで、株価修正の期待感が高まる傾向にあります。ただ、大正製薬ホールディングスのケースでは、買収価格8620円を基準にしたPBRが1倍を割り込んでいたことから、一部から少数株主への配慮が足りないとの批判が生じました。
一方、中小企業の場合、MBOの背景は後継者問題です。通常、後継者問題を解決するには、経営者の親族に引き継ぐか、会社を売却するという選択肢があります。これらの方法に加えて、後継者問題を解決しながら企業理念を維持するために、幹部に会社を引き継ぐ方法としてMBOが増えているのです。
個人投資家はMBOにどう対応すべき?
個人投資家として最も気になるのは、自分が保有している銘柄でMBOが実施されることが発表された場合の対応です。MBOへの対応手段は投資家にとって重要な選択肢です。ここでは主な3つの対応を紹介しましょう。
1. 公開買付の代理人である証券会社へ移管
手続きが少々煩雑になりますが、買収価格での確実な売却と手数料が発生しないという利点があります。ただし、証券会社によっては移管手数料が発生することや、口座開設や移管手続きに数日かかることがあります。
2.株式を市場で売る
移管の手間を省き、通常の取引と同様に売却が可能です。ただし、取引手数料が発生することに注意が必要です。
3.強制取得を待つ
上場廃止後に買収者からの強制取得を待ち、買収価格と同額の現金を受け取る手段です。手数料が発生しないというメリットがある一方で、現金の受領には通常2〜3か月を要し、その間は現金化ができないというデメリットがあります。
どの対応を取るかは、投資家の状況や目的に応じて最適な選択が変わります。たとえば、すぐに現金化して他の銘柄への投資資金としたいなら、市場での売却が適しています。あるいは、手間や時間を惜しまず手数料を節約したいなら、証券会社への移管や強制取得を待つ方法がいいでしょう。