BRICSとドルの覇権争い 世界経済の未来を占う会議の行方やいかに?

山下耕太郎
2024年10月22日 9時00分

ドル安と、強まるBRICSの影響力

BRICS諸国の影響力が強まり、米ドルの国際的な地位が揺らぎつつあります。特に、ロシアやイランなどアメリカから経済制裁を受けている国々は、中国やインドといった主要なエネルギー消費国との関係を強化し、新たな経済圏を形成しています。

この新しい経済圏では、従来の米ドル中心の取引から、人民元やその他の通貨を使った貿易が推進される可能性があり、国際的なエネルギー市場の構造を大きく変えるかもしれません。

ロシアは特に、中国やインドとのエネルギー貿易を通じて、経済成長と安定化を図っています。国際エネルギー機関が発表したデータによれば、ロシアは昨年から日量800万バレル前後の原油を輸出しており、そのうち約8割が中国とインド向けです。

この原油輸出は、経済制裁を受けるロシアにとって重要な経済的基盤となっており、中国やインドはその回復を支える主要なパートナーです。ロシアだけでなく、両国は石油製品の輸出においても協力しており、これがエネルギー経済圏の発展を促進しています。

このエネルギー経済圏の成長は、国際的な通貨の流れに大きな影響を与えると予測されており、米ドルの支配的地位が揺らぐ可能性を含んでいます。

エネルギー取引で米ドル以外の通貨が使われるようになれば、国際的な貿易構造そのものが変化するかもしれません。特に、中国が人民元を積極的に推進し、貿易決済での使用を拡大する動きは、米ドルの影響力に直接的な脅威となっています。

BRICS会議に注目が集まる

10月22日から、ロシアでBRICS首脳会議が開催されます。ロシアが議長国として主導権を握り、グローバル・サウスを中露側に取り込むための戦略を展開すると見られています。

この会議では特に、ロシアによる「脱ドル化」が推進され、新たな通貨システムの構築を目指す姿勢が強調されることが予想されます。アメリカの経済制裁を受けるロシアにとって、米ドルに依存しない貿易体制の確立は急務だからです。

BRICS諸国の通貨については「R5」という新たな通貨構想が注目を集めています(ブラジル・レアル、露・ルーブル、印・ルピー、中・人民元〈RMB〉、南ア・ランド)。ただ、現段階では米ドルに匹敵する存在感を持つには至っていません。

たとえば、人民元は世界の外貨準備高に占める割合が約2%に過ぎず、米ドルの支配的な立場に比べると依然として小規模です。

それでもBRICS諸国は、人民元を含めた自国通貨での決済手段を増やすことに意欲的で、このような取り組みが進めば、米ドル依存からの脱却が進展する可能性があります。

とはいえ、BRICS諸国の間でも、ドル離れに対するスタンスは異なります。制裁を受けていない国々にとっては、米ドルを中心とした国際金融市場から完全に離脱する必要性は、それほど高くありません。

BRICS首脳会議では、新通貨構想や自国通貨での決済の円滑化が重要な議題となり、会議後にはこれらのイニシアチブの進展が成果として強調されると見られますが、すべてのBRICS諸国が同じ立場で「脱ドル化」を進めるわけではないでしょう。

揺らぎ始めた米ドルの権威

米ドルを長期にわたって支えてきた要素としては、原油や資源の取引における米ドル決済、世界中の財やサービスの取引における米ドルの使用、さらにはアメリカの軍事力、そして、自由や民主主義といったソフトパワーが挙げられます。

現在これらの要素は揺らぎ始めており、特にエネルギー分野では、米ドル以外の通貨での決済が広がりを見せています。中国は貿易決済通貨として人民元を求める動きを強めており、さらに、金の保有を増やして自国通貨の信用力を強化しています。

加えて、アメリカ国内では利払い費が国防費を上回る状況となり、財政不安が高まっています。これにより、米ドルの価値や地位に対する信頼も揺らぎ始めています。

さらに、アメリカの自由主義的な価値観に対して距離を置く国々が増え、そのリベラルな影響力が縮小している点も、米ドルに対する支持を低下させる要因となっています。

ドル安の向こう側で金価格が上昇

こうした背景のもと、金(ゴールド)の価格が急激に上昇しています。国際的な金価格の指標であるニューヨーク先物では、9月26日、初めて1トロイオンス=2700ドル台に到達しました。2024年に入ってからの上昇幅は600ドルを超え、年間では最大の上昇幅となっています。

この価格上昇は、アメリカの利下げへの期待や、制裁回避を狙ったドル離れ、アメリカ経済への不安などが原因とされています。

金利の付かない金は、ドルの金利が下がると相対的に魅力を増します。特に今年は、ドル安の進行から、投資家が金をポートフォリオに組み入れる動きが加速。地政学リスクの長期化、大統領選に関する不透明感も金の需要を押し上げています。

金の購入者層は大きく3つに分かれます。

中国やインドなどの政府は、外貨準備としてのドルを減らし、金の保有を増やしています。日米中などの個人投資家は、自国経済やインフレへの不安から金投資を拡大しています。そして機関投資家は、アメリカの利下げを手がかりに金を購入し、金相場の上昇を牽引しています。

金価格の上昇は、アメリカの財政懸念が強まる中でさらに続くと見られており、今後も投資家の注目を集めるでしょう。

BRICS諸国と米ドルの行方に注目

利上げ局面でドルに集まっていた資金が、金など他の資産に分散しています。これまではドルで運用すれば5%以上の利益が期待できる状況でしたが、直近ではドル安が進行し、米ドル指数は一時100台前半まで下落しました。これは2023年7月以来の安値です。

国際的な経済構造が変化する中、BRICS諸国の台頭と米ドルの地位低下がどのように進展するのか。首脳会議と今後の動向に大いに関心が高まっています。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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