ホームランは要らない 株式投資で買いよりも難しい「売り」の話

朋川雅紀
2025年2月6日 10時30分

《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

売りを極める

私自身のここ何年かのメインの課題は「売りを極める」です。

買いについてはある程度、自信を持っていますので、大きな悩みはありませんが、売りについては、まだまだ道半ばと思っています。

株の正しい買い方を知ることは、株で儲ける方法を学ぶ上で重要ですが、株を売るタイミングを理解すること、そして、それを正しく行うための規律を身につけることも、同じように、いや、それ以上に重要です。

経験豊富な投資家なら誰でも、「株式投資で最も難しいことのひとつは、利益を確定するため、あるいは損失を最小限に抑えるために、株を売るタイミングを見極めることだ」と言うでしょう。

株を買うときと同様、希望や恐怖、貪欲といった感情は、株を売るときにも大きな影響を与えます。投資家心理や感情を抑える方法を理解してこそ、テクニカル分析を利用することができるのです。

買うべき銘柄を決める場面では、冷静に対処することはさほど難しくありません。資金を投入する前に、銘柄候補リスト、株式スクリーニング、株価評価などを使って、買うべき銘柄、注目すべき銘柄を見極めることができます。

しかしながら、すでに株を保有し、〝ゲームに参加〟している場面では、心理が変化します。大きな利益への貪欲と、大きな損失への恐怖、その両方の感情が働きます。こうした感情が判断を鈍らせ、保有銘柄の売却時期を冷静かつ客観的に見極めることを難しくするのです。

地に足をつけ、正しい考え方でいるために心に留めておくべき4つのポイントをご紹介します。

株価が上昇しているうちに売る

私が売りに関して少しだけ成長したと感じるのは、株価が上昇しているうちに売ることができるようになったことです。「悲観で買え!」はできるのに、「楽観で売れ!」は、なかなかできませんでした。

〈参考記事〉勝てる投資家は「悲観」で買う! 危機を利益に変えるバーゲンハンターの心得

売った翌日に株価が上昇する様子を見るのは気分のいいものではありませんが、正しい売りを実践すれば、ほとんどの場合、その後、株価の下落を目にすることになります。

あなたの目的は、利益を上げ、それを手にすることであり、株価の上昇が強くなるにつれて興奮したり、楽観的になったり、貪欲になったり、感情的になったりすることではありません。 

株式投資では、常にホームランを狙う必要はありません。ポートフォリオを大きく成長させるためには、株価が過熱しているときには少なくとも一部の保有株を売って、利益が確定することが必要です。

そうすることで、株式市場の調整や弱気相場で利益をすべて取り返すことにならずに済みます。人間の本性に反するかもしれませんが、株を売る最良のタイミングは、株価が上昇している最中なのです

買う前に売りの計画を立てる

本当の勝負は、株を買ってから始まります。しかし、売りのルールや出口戦略(プラン)がないと、必要なときに行動を起こせず、フリーズしてしまいがちです。

たとえば、株価が急騰している場面では、欲が出て、売りシグナルや警告サインを無視してしまうかもしれません。

あるいは損失を抱えた状態では、「保有&希望」のルーチンから抜け出せず、けれど株価は下がる一方で、株価が戻ることを祈るかもしれません。「損失を出したくないから、戻ることを期待する」は、ほとんどの投資家が犯す間違いです。

前もって売却計画を立てておくことで、冷静さを保ち、感情を抑えることができます。

適切なタイミングで買うことが最も重要な売りルール

初心者に特にありがちな間違いは、間違ったタイミングで買ってしまうことです。

マーケット・タイミングに注意を払わずに買う人がいます。あるいは、株価チャートのテクニカル・アクションを無視して、買うのが早すぎたり遅すぎたりします。

だから、株を買う前に、重要な要素(株式市場のサイクルやトレンド、収益を押し上げるドライバーなど)が整っていることを確認するのです。そうすることで、自分に有利になる適切なタイミングで買いを入れることができ、成功する確率が上がります。

それによって、最適な売り時を迎えられる可能性が高まります。

攻めと守りを考える

株式市場で利益を上げ、かつ利益を守るためには、攻めと守りの両方の売りルールを持つ必要があります。

「守り」の売りルールは、壊滅的な損失を被ることがないようにするために役立ちます。

単純なバイ&ホールド・アプローチに従う投資家は、ポートフォリオに大きな打撃を受けるリスクがあります。テクニカル分析を使って、損失を抑えるために株を売るべきタイミングを警告する兆候を早期に見つけることで、そのような事態を避けることができます。

永遠に上昇し続けるものなどないのです。アップル(AAPL)、エヌビディア(NVDA)、アルファベット(GOOGL)のように、その時代に大きな利益を上げた最高の成長株でさえ、急激な下落に見舞われる時期があります。

大きな利益を確実に手にするためには、株式の一部または全部を売却して利益を確定する必要があります。そうしなければ、株式市場の暴落や、かつてのリーダーの失墜によって、利益が帳消しになってしまいます。

さらに悪いことに、そのような下落は利益を損失に変える可能性があります。

規律あるアプローチに従うことで、定期的に、そして全体として大きな利益につながるような、堅実な利益を得ることができるようになるでしょう。

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[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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