アクティビストの動きが活発になる秋 近年増えている「環境アクティビスト」の狙いとは?
アクティビストとは
アクティビストとは、企業に対して事業再編などの経営戦略や配当などの株主還元を提案し、株価を上昇させることで利益を得ようとする投資家のことで、日本では「物言う株主」とも呼ばています。
会社が開催するIR(投資家向け広報)会議では、対話を重視する穏健派から、株主総会での委任状を争う強硬派まで、さまざまなタイプのアクティビストがいます。
日本の金融市場は、アメリカやイギリス、シンガポール、香港などに匹敵する規模であり、外国人投資家にとって魅力的な投資対象です。しかし、外国人投資家が懸念するのは、日本企業による株主権利の軽視でした。
ただ最近は、外国人投資家が日本企業に対して諸外国並みの株主権を要求するようになり、アクティビストの存在も大きくなってきています。
コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)やスチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)の導入で、株主と企業の対話の促進が求められるようになってきているからです。
アクティビストの提案に賛成する機関投資家も増え、企業への圧力も強まっています。
秋はアクティビストの活動が活発に
秋は、そんなアクティビストが株を仕込む時期です。株主総会をにらんだ活動が活発になるためです。
アクティビストが狙うのは、株主総会での株主提案です。株主提案とは、株主が株主総会の議案を請求できる権利で、会社の経営に参画する権利と言えます。
この株主提案は、株主総会の8週間前までに出す必要があります。日本の企業では6月中旬から下旬にかけて株主総会を行う企業が多いので、4月中旬から下旬に株式を保有しておく必要があります。
ただし、株主提案を行使できるのは、総議決権数の1%以上または300個以上の議決権を、株主総会前に6か月以上継続して保有している株主です。
そのため、株式を取得するには10月中旬から下旬がリミットになるのです。
アクティビストが狙う企業
歴史的な円安も、アクティビスト活動を活発化させる要因になっています。
ドル建ての日経平均株価は180.55ドル(2022年10月20日時点)と、昨年末の250.14ドルから約30%も下落。円安によって、ドル建て日経平均株価の下落率は、S&P500種株価指数やダウ平均株価の下落率(約20%)よりも大きくなっているのです。
ただし、海外では数兆円単位の運用を行うアクティビストも、日本ではせいぜい1000億円程度です。
日本ではかつての「ハゲタカ」というイメージが残っており、年金基金などがアクティビストにお金を出さないからです。また、海外の大手アクティビストも、日本企業は持ち合いという安定株主がいて要求が通りにくいため、あまり日本の企業を狙わないのです。
そうは言っても、アクティビストからの株主提案は増えています。
大和総研の調べによると、2022年のアクティビストの株主提案は36社となり、2021年の17社からほぼ倍増しました。相談役の廃止や報酬制度の見直しなど企業統治(コーポレートガバナンス)強化に関する提案や、買収防衛策廃止には賛成票が入りやすくなっているからです。
アクティビストが狙うのは、次のような特徴を持った企業です。
- PBR(株価純資産倍率)が低い
- 安定株主が少なく外国人株主が多い
- 有価証券や現預金が多い
ただ、2022年に株主提案を受けたのは、時価総額が1000億円以下の企業が8割強を占めています。割安に放置された中小型株を、アクティビストがターゲットにする可能性は今後も高いでしょう。
増える「環境アクティビスト」
2020年、環境NGO/NPOの気候ネットワークが、みずほフィナンシャルグループ<8411>に対して、パリ協定の目標に沿った投資を行うための経営戦略を記した計画の開示を求める株主提案を行いました。この提案は、予想を上回る34.5%の賛成を得ました。
2022年には6社に対して、気候変動への対応強化を求める株主提案がなされました。それらはすべて否決されましたが、ある提案は30%近い賛成票を獲得。ロシアによるウクライナ侵攻が続き、エネルギー供給の安全保障が深刻化するなかでも、気候変動問題に対する投資家の関心が高いことを示しています。
また、環境問題などに精通した投資家とNPOの接近も急速に進んでいます。ESG投資(環境・社会・企業統治)の拡大を背景に、「環境アクティビスト」が登場し、日米企業の株主総会で彼らの提案が一定の支持を得ているなど、重要な役割を担っているからです。
たとえば、JPモルガンに提言を提出した米NPO「As You Saw」は、資産運用業界と強い結びつきがあります。同NPOは地球温暖化対策だけでなく、機関投資家とともに食品会社にプラスチック廃棄物問題を解決させるなど、幅広い活動を行っています。
日本の多くの年金基金や資産運用会社も、NPOとの交流を通じてESG投資の知見を補っています。このような共生関係が「環境アクティビズム」の背景にあります。企業は、環境専門家を株主との窓口に据えるなど、IR(投資家向け広報)活動を充実させる必要性が高まるでしょう。