村上世彰氏がレールを敷いた「物言う株主」 東芝と兜町を健全化するパワーとなるか

千葉 明
2022年5月17日 14時30分

Belish/Adobe Stock

《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》

物言う株主「村上世彰氏」の登場

 最近でこそ「物言う株主」という5文字は定着した感があるが、私はその走りを「村上世彰氏」と認識している。

 東大法学部卒業後、当時の通商産業省(現・経済産業省)で約16年間の官僚生活を送った。そして村上ファンドを引っ提げ、「物言う株主」として兜町に登場したのは40歳目前のことだった。矢継ぎ早に数社の大株主となり、兜町の住人・投資家の間でその存在感が認識されていった。初めて村上氏を取材した際に、「番組にゲストとしてご出演いただけませんか」と依頼した。売り出し中の身ということもあってか、快諾してくれた。

 当時私は茅場町の交差点にあった中堅証券会社のサテライトスタジオで、日本短波放送(現・ラジオNIKKEI)の公開番組(午前11時半から45分間)のキャスターを務めていた。かれこれ5年間ほど続けたが、サテライト内が人・人・人の山で埋まり切ったのは、村上氏登壇の回だけだった。私は3点の質問をした。対して村上氏は「お金儲けって悪いことなのですかね」と持論をまず切り出した上で、質問にこう答えてくれた。

(Ⅰ)「物言う株主」として企業に向け投じている、株式投資ファンドの資金はどうやって集めたのか?

「小学校の3年生の時だったと記憶しているが、父親が『月々の小遣いはやめる。その代わりに100万円を渡す』と。僕が小遣いやお年玉などを貯め込んだ金で株式投資をしていることを知っていたんですね。その100万円は、大学を卒業する時には1億円以上に増えていました。通産省に籍を置いてからも株式投資を続けていました。おっしゃったファンドは、僕自身が株式投資で稼いだお金です」

(Ⅱ)長らく務めた通産官僚の座を投げ捨てて、いわゆる株式投資家でなく、貴方が登場して以来急浮上している「物言う株主」に転じた理由は何だったのか?

「生意気を言わせてもらえば、通産官僚として年を重ねるに従い、日本経済が永続的な成長を続けていくためにはコーポレートガバナンスが大切だという思いが膨らんでいった。自分がプレイヤーとして、それを実践しようと考えたんです。日本の企業は内部留保やFCF(フリーキャッシュフロー)、あるいは遊休不動産を有していながら、それを活用し企業価値を高めようとする努力をしていないケースが大方。それは株主にとって極論すれば、背任行為に等しい。黙っている株主も悪い。積極的に株主提案を行い、企業価値の向上を図るように仕向けていきたいと考えたからです」

 聴衆は全員が個人投資家(株主)。この番組で拍手が起こったのは、後にも先にもこの時だけだったことを記憶している。

(Ⅲ)幼いころから株式投資を続けて、100万円の原資を大学卒業時には100倍以上に増やしたとおっしゃったが、貴方の株式投資法を簡潔にうかがいたい。

「基本は成長因子が認められるか否かだ。それじゃあ当たり前すぎて、ここに集まってくれている方々には面白くもおかしくもないだろう。父親の言を忠実に実行している。箸にも棒にもかからないような企業は別にして、申し上げた成長因子を感じる銘柄を『上がり始めたら買い、下がり始めたら売り』という姿勢で株と向かい合っている。また、自分がバリュー株と信じ切っている銘柄でないようなケース、根拠レスに近い状態で買ってしまった場合は『損切り』をする」

 そんな村上氏がニッポン放送株のインサイダー取引容疑で逮捕されたのは、2006年6月5日。

 いまやタレントの感が強い堀江貴文氏により興された企業にライブドアがあった。そのライブドアが「有価証券報告書虚偽記載」で摘発されたおよそ2年後。ライブドアの堀江氏をはじめとした経営陣から「ニッポン放送株を3分の1取得する。貴方もすでに15%以上取得している。手を組まないか」と持ち掛けられ、インサイダー取引(証券取引法違反)に手を染めた罪で逮捕された(2011年に有罪確定)。

 罪を庇うつもりは毛頭ない。だが「インサイダー取引」「逮捕」の話が兜町に広がるのを受けて逮捕直前に東証記者クラブで行った会見には、私は「村上氏らしさ」を感じた。「ライブドアがニッポン放送株の3分の1を取得することを承知していたのか」と詰問する記者に彼はこう応えた。「聞いちゃったといえば、聞いちゃったんですよね」

 個人的な思いは脇に置く。ともかく代表的なところでは東京スタイルやニッポン放送、阪神電鉄等々で「物言う株主」として会社に対峙した事実は事実。企業のコーポレートガバナンスに軸足を置いた、「物言う株主」というレールを敷いたことは評価したい。

「物言う株主」は東芝を救えるか

「物言う株主」に振り回されている代表企業に、東芝がある。

「振り回されている」としたが、本を正せばその根っこは東芝の「経営の在り様の問題」だ。投資ファンドが「物言う株主」として登壇する遠因は、2015年3月期の「決算発表の延期」と「期末配当見送り」だった。

 この間、「どうなる東芝」は日々の如くメディアで報じられている(それを読者諸氏が周知のこととして先を進める)。東芝は「物言う株主」への経営改善策としてまず、2021年11月に「3分割案(インフラ事業・デバイス事業・東芝)」を示した。が、「ノン」が突き付けられた。2022年2月には「2分割案(インフラ事業・東芝)」を提示した。そして「物言う株主」の提案に沿い、24日の臨時株主総会に諮った。が、「物言う株主」と個人投資家、かつ機関投資家の大方の約6割に及ぶ反対で、否決された。と同時に、気になる指摘・動きが表面化した。

 前者は、一部大株主の間から「市場に出回っている株式を買い戻すなどして、非上場化を検討すべきだ」という声が聞かれる事実。「非上場化も含めた新たな再建策を考え始めている」という見方が、他ならぬ東芝の内部からも漏れてきた。そして直近では「東芝、非上場化に向けた特別委員会設置」と報じられるに至っている。

 後者は、「物言う株主」の牽引役となっているエフィッシモ・キャピタル・マネジメント(保有株比率約9%)が、米投資ファンドのベインキャピタルとの間で「東芝の買収を目指すなら保有する東芝株を手放し協力する」という約定を交わしたという事実である。ベインキャピタルは世界的規模の「再生ファンド」。日本でも2006年以来活動を続け、すかいらーくホールディングス、マクロミル、日本風力開発など20社で実績を積んでいる。

 そしていま東芝は、「非上場化」を含めた今後の在り様を「公募」するという現状にある。かつての名門・東芝はどうなるのか!?

 先述の「決算発表遅れ」「突如の無配発表」の前に、実は証券取引等監視委員会(SESC)から「原子力発電システムなど社会インフラ関連事業の会計処理に関する開示示唆」を受けていた。契機は2014年末の「社会インフラ事業で不適切な会計処理が行われている」という内部告発だった。

 周知の通り、東芝は当時の社長・西田厚聡氏が「社運をかけた」とまで言い及んだ、米原子炉技術大手ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー(WE)を2006年に買収した。だが2008年のリーマンショック後の景気後退や2011年の東京電力福島第一原発の事故を受け、WEの業績は劇的に悪化していった。件の内部告発は「WEの収益悪化を受け利益水増し(粉飾決算)が行われている」ことを内包していた。

 歴史に「れば・たら」は通用しない。だが何故、東芝は水増し決算を行ったのか。本稿を記すに当たり話を聞いた大学の同級生である日立製作所OBは、「かつての日立がそうだったように、東芝にも上司に逆らえない風土が醸成されていた」とした上で、「要は、部下に対し達成困難な目標、強いプレッシャーを課し、虚偽の報告をあげさせる風土だ」と言った。

 だとすればなおさら、東芝でも「物言わぬ株主」はそれなりの役割を果たしていると言えよう。

「物言う株主」が兜町を健全化する

「物言う株主」についてはいま、太い流れになっている。例えば日本を代表する小売業のセブン&アイ・ホールディングスが、5月の株主総会で「社外取締役が過半数を占める取締役会へ移行する」と伝えられた。これはセブン&アイの1.8%の株式を保有するバリューアクトキャピタルが「経営の透明性を高め、内外の投資家の信頼を得るために」と提案した結果だ。

 バリューアクトキャピタルは過去に、マイクロソフトやロールスロイスに対しても「物言う株主」として実績を残している。日本への進出は2018年。早々に経営危機に陥っていたオリンパスの株を取得し、「物言う株主」として再建を牽引した。着手した2018年12月に758円だった株価を、2年間で2,380円(現在2,600円余)まで回復させている。他にもJSRや任天堂の「物言う株主」としての存在感を見せている。

 村上氏時代は「忌み嫌われた」観が強かった。しかし時の流れと共に、その存在感は明らかに変化している。

 大きな転機は2017年のスチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)改定に求められる。例えば生命保険会社は、ビジネス相手でもある企業の提案には賛成、株主提案には反対というケースが多かった。そんな機関投資家に「総会での個別議案に対し賛成したかどうか」の開示を義務付けたのである。

 結果、日本最大の機関投資家である生保に、2020年末段階でこんな現象が発現した。以下は大手生保4社の「会社議案への反対比率」だ。日本生命:4.14%、第一生命:17.2%、明治安田:4.03%、住友:6.25%。以降、例えば日生からは「メインバンク出身の名ばかりの社外取締役を抱える企業と対話、87社中54社で改善につなげた。配当性向15%以下の企業103社に増配等を求め、61社が応じた」といった情報が伝えられている。

 企業と株主の間に立ち、企業の収益向上、株主のコストパフォーマンス向上を図る。「物言う株主」は健全な兜町づくりのパワーとなる。

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[執筆者]千葉 明
[ちば・あきら]東京証券取引所の記者クラブ(通称・兜倶楽部)の詰め記者を振り出しに、40年以上にわたり、経済・金融・ビジネスの現場を取材。現在は執筆活動のほか、講演活動も精力的に行う。『野村証券・企業部』『ザ・ノンバンク』『円闘』など著書多数。
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