アキュセラの悪夢再び サンバイオ・ショックは投資家に何を残すのか
マザーズ最大の時価総額を誇る創薬ベンチャー、サンバイオ<4592>。開発中の新薬への期待から株価は3倍以上になっていましたが、臨床試験が頓挫したという発表を受けて急落。その影響はマザーズ全体に広がっています。この事態に、多くの投資家の脳裏に浮かんだのは……あの「アキュセラの悪夢」でしょう。
大暴落のさなか、投資家が思ったこと・学んだこと
2016年に多くの投資家を泣かせたアキュセラ・インク<4589>(現在は上場廃止)。投資家たちの失敗談を集めた記事でも、この銘柄に泣かされたという切ない声が紹介されている。
6営業日連続のストップ安という大暴落のさなか、投資家は一体なにを思い、そこからなにを学んだのか。実際にアキュセラ株を保有していた個人投資家に、当時を振り返って思いの丈を語ってもらった。
「画期的な治療薬」に夢をのせて
苦い体験を語ってくれたのは、かつて金融会社に勤めていたヒロさん(仮名)。東証マザーズに上場していたアキュセラ・インクは眼疾患治療薬を開発するベンチャーで、同業者の間でも話題の銘柄だったという。実際、2016年1月に1,000円程度だった株価は、3か月で3倍近くにまで上昇していた。
「アキュセラ・インクは加齢黄斑変性という、加齢に伴う失明の可能性もある難病の治療薬の開発を進めるバイオベンチャーとして、多くの同業者も注目していた銘柄だったんです。ただ、当時は勤務先の都合で個別株の購入ができなくて。仕事を辞めたのを、きっかけに2016年4月から早速購入しました」(ヒロさん)
伸びる株価、強気の買い増し
ヒロさんが最初にアキュセラ・インク株を購入したのは4月7日。株価は2,849円だった。
そこから株価の上昇は加速度を増す。ヒロさんも以下のペースで買い増していった。
これを見ると、株価が3,000円台の間は購入を控えていたものの、4,000円を超えてから立て続けに買い増していることがわかる。これほどヒロさんが強気だったのには理由がある。
期待に後押しされて株価は7倍に
アキュセラ・インクは新薬開発の状況を逐一報告しており、4月19日には治験の最終段階を終えたことを発表していた。また同社は、日本の大手製薬会社・大塚製薬とも共同開発を行っており、臨床試験や審査は順調に進んでいるように見えていたのだ。
「画期的な新薬」「順調な開発状況」「大手製薬企業と共同開発」……。市場の期待を背景に、5月の後半に入って株価はさらに上昇のスピードを速める。
そしてヒロさんが最初に購入してから2か月あまりの5月25日の前場で、アキュセラ株は7,700円の最高値を付けた。わずか4か月で7倍という急騰ぶりだ。
夢破れ、6日連続ストップ安
2016年5月。この時点で、次の開発状況の報告は6月に予定されていたという。
「その6月の報告で開発した新薬に認可が下り、いよいよ実用化か……と期待されていました。そうなれば、株価は(1万円ではなく)10万円になってもおかしくない、と思ってました。なので発表前に利益確定して、もし認可が下りればまた買い直せばいい、そんなふうに考えていました。本当に、とにかくワクワクしていましたね」(ヒロさん)
予定外の、最悪のリリース
ところが、5月25日の後場になって株価は急落を見せる。結局、前場に付けた最高値から1,910円も下げた5,790円でストップ安となった。
当時、会社員だったヒロさんは、日中は株価をチェックすることができず、このときの急落も夜になって知ったという。だが、「高値圏ではよくある動き」と、さして気にしていなかった。翌26日の朝、会社側から予定外の発表があると知ったときにも、「てっきり『前倒しで新薬の認可が下りた』という発表かと思った」と振り返る。
しかし実際の内容は「主要評価項目を達成するには至らなかった」、つまり「新薬開発が頓挫した」というものだった。大勢の投資家の期待に反した最悪の情報が、前倒しでリリースされたのだ。
この結果、同社株は大暴落する。
株価は6日で7分の1に逆戻り
チャートを見ると、26日からはローソク足が「ローソク」ではなく「ただの線」になっている。これは、始値・高値・安値・終値の四本値がすべて同じ、ということ。寄り付いた瞬間にストップ安となり、「市場参加者の誰も買おうとしなかった(ほぼ全員が売ろうとした)」という状況の表れだ。
結局、25日から数えて6営業日連続のストップ安で、ようやく6月2日には1,100円まで下げて寄り付いた。4か月で7倍になった株価が、わずか6日で7分の1、つまり元に戻ってしまったのだ。
出来高に見る「売れない状況」
6日連続のストップ安という異常事態。どこで止まるんだという阿鼻叫喚のなか、ヒロさんの心中に渦巻いていた感情は、絶望や怒りよりも「ストップ安って、本当に売ることができないんだ。噂には聞いていたけど、ほんとに売れないんだ……」という素朴な驚きだったという。
なんとか保有分を手放そうと、ヒロさんは指値でも成行でも、とにかく売り注文を入れていた。しかし、売れない。どんなに売りたくても、買いたい人がいなければ売ることはできないのだ。
この状況は出来高に表れている(上チャート参照)。最高値を付けた(そして暴落の始まった)25日に361万株あった出来高は、「新薬頓挫」の発表があった26日は約2万株、その翌日はわずか5800株の取引に留まっている(それでも5800株は買う人がいた、ということでもあるが)。
暴落相場は、本当に売れない
「後半は相場を見なくなりましたね」とヒロさんは静かに笑う。彼がようやく同社株を手放せたのは6月6日のこと、株価は1,012円だった。最終損益は、291万の損失。
株は、買いたい人と売りたい人がいて、その価格の思惑が合致したときに初めて売買が成立する。「ほんとに売れない……」と繰り返すヒロさんの言葉が重かった。そして彼は、こんな警告を残してくれた。
「株式という、世界中の人が参加する巨大なマーケットですら、暴落時は本当に売れないんです。ビットコインなど仮想通貨は株式ほど法体制も整っていないですし、システム障害なども頻発しています。上がったと喜んでいる人もいるかもしれませんが、いったん何かが起きて暴落相場になったときに『売れると思うな』ということは伝えたいですね」(ヒロさん)
※本記事は再掲載です