新型肺炎で株価はどうなる? 波乱相場で見極めたい「市場の想定」

石津大希
2020年1月31日 14時30分

新型肺炎が株式市場に与える影響

2020年最初の世界的懸念事項となった、中国・武漢から世界に広がった新型コロナウイルスの感染拡大。1月31日の時点で感染者数は1万人に迫り、2002~2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)を上回った。WHOも「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」と宣言している。

感染拡大とともに市場も敏感に反応

欧米諸国の財政・金融政策や米中貿易摩擦、イギリスのEU離脱といったテーマは、各国経済との関連性がわかりやすく、ゆえに株式市場も素直に上下する。一方で、「病気の感染拡大」のような一見すると各国経済への直接的なインパクトが不鮮明な事柄でも、株式市場は敏感に反応する。

感染拡大が問題視され始めた1月の第4週は、日本を含めた主要国の株式市場で大きな動きがあった。

日本では、日経平均株価が終値ベースで前年来高値を更新するなど、それまでの地合いは良好だったものの、新型肺炎への警戒感の強まりを受けて一気に相場は下落。3月期企業の決算シーズン入りを控えるという、本来であれば期待の高まりやすい状況だったにもかかわらず、投資家心理は冷やされた。

アメリカでは、IBMやインテルなどの好決算が相場を押し上げる場面はあったものの、国内で新型肺炎の感染が確認されるなどして、リスク回避の強まりから徐々に売りが優勢となっていった。同様にヨーロッパ各国でも、英FT100や独DAX30、仏CAC40といった主要指数が大きく下落する場面があった。

売られる銘柄から市場を読む

今回のような事態が起こったとき、個人投資家はただ状況を見守るしかないように思えるが、そうとも限らない。まずは、どのような銘柄がより大きく売られたのかを見ていくことで、市場がどういった「想定」を持っているのかがより鮮明に見えてくる。

東京市場では、中国政府が団体旅行を停止したことで、エイチ・アイ・エス<9603>やオープンドア<3926>といった旅行株が幅広く売られた。加えて、インバウンド消費の縮小が警戒され、資生堂<4911>や三越伊勢丹ホールディングス<3099>、ラオックス<8202>なども下落。武漢に工場を所有するスタンレー電気<6923などの製造業も軟調な展開を見せた。

こういった連想は海外でも同様で、イギリスでは航空大手ブリティッシュ・エアウェイズの親会社IAGや、インターコンチネンタル・ホテルズ・グループなどが下落。

東京市場と比べて目立った動きとしては、世界最大の資源消費国である中国でのエネルギー需要縮小への懸念から、石油株が売られた。また、中国国内での高級品への消費低迷に対する懸念から、高級ブランドのLVMHやケリング、エルメス、バーバリーなども軟調だ。

こうした流れを見ると、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、市場は次のような想定をしていることが浮かび上がってくる。

  • 中国を中心に海外旅行が抑制され、航空会社や宿泊サービス会社の業績に悪影響が及ぶ
  • 中国国内での消費や国外での中国人による消費が低迷し、小売関連企業などの業績に悪影響が及ぶ
  • 中国での経済活動が停滞し、資源需要が縮小するほか、中国に進出している企業の生産活動も鈍る

どれも至極自然な内容ではあるが、具体的な銘柄の動きを追い、そこから「市場は何を想定しているか」をひも解く作業をすることで、相場を波乱へと導いている事象の影響について鮮明度の高いイメージを持つことができ、現状把握と今後の考察に活かすことができるようになる。

波乱相場でチャンスを見つける

具体的なイメージが頭になければ、相場の乱高下を前に「ヤバいことになっている」と、ただただ呆然とするしかないが、イメージが鮮明であれば、投資の選択肢は増える。

目下、中国はもちろん欧米諸国でも連日のように新型コロナウイルスに関するニュースが報じられているが、旅行株や航空株、消費株、資源株などに対する影響をイメージする姿勢を意識しておけば、ニュースの内容の良し悪しに応じて初速の高い売買が可能となる。

また反対に、今回の事態を受けて買われる銘柄もある。東京市場では、感染防止のマスク関連として川本産業<3604>やシキボウ<3109>などが強い動きを見せた。また、米デュポン社製の防護服販売を手掛けるアゼアス<3161>なども堅調だ。

これらの銘柄を頭の中に入れて日々ニュースを追えば、「ただ相場に振り回される」だけにとどまらない、賢い立ち回りができるだろう。無論、感染拡大に関連して懸念を払拭させるようなポジティブなニュースが出てきた際には、それまで物色されていた銘柄を空売りするといった選択肢も有効となってくる。

アナリストのひとり言

「中国発の新型コロナウイルスによる感染拡大」のように、先の展開を読むのが非常に難しいような状況では、証券会社のセルサイド・アナリストとしても、業績への影響や目標株価の修正においては後手に回らざるを得ない。

また、市場がどのような業界に対してどれほどの懸念を抱くのかも不透明なため、結果として「小売業全体のバリュエーションはどの程度下がるのか」「医薬品業界全体のバリュエーションはどの程度上がるのか」といった、ファンダメンタルズ分析を行う上での重要な要素も不安定となる。

そのため、本来果たすべき「株式市場の灯台」という役割を果たしづらくなる。

個人投資家としては、足元の相場の動きに対するアナリストの意見表明が遅れる、というリスクをより意識する必要があるだろう。アナリストの意見を待つよりも、やはり自分の頭で状況を咀嚼し、市場の想定を思い浮かべることが重要ではないだろうか。

その上で、スピード面で後れを取らないよう対応できるに越したことはないが、もし出遅れてしまったり、なかなか判断がつかなかったりする場合には、神経質な動きを見せる株価に振り回されることなく、落ち着いて状況を見極める心の余裕を持ち合わせておきたい。

[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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