このトレンドはどこまで続く? 米ドル安の要因と今後を考える

山下耕太郎 2020/09/17

《外国為替市場では「8月は円高が進みやすい」といわれていますが、2020年はコロナ禍による「米ドル安」に注目が集まりました。なぜ米ドル安が進んだのか、その要因と今後の注意点について考えてみます》

「米ドル指数」で相場を読み解く

個別の通貨の為替レートよりも、世界経済における米ドルの価値を正確に読み取ることができる指標に「米ドル指数」があります。

米ドル指数とは、ユーロやポンドなど複数の主要通貨に対する米ドルの為替レートを指数化したもの。米ドル指数の数値が高いと主要通貨に対して米ドルが買われていることを示し、数値が低いと米ドルが売られていることを意味します。

実はコロナショックの真っ只中である2020年3月23日、米ドル指数は103.96まで上昇しました。

投資家や企業・金融機関だけでなく、国家レベルで今後の資金繰りへの懸念から、基軸通貨である「米ドル」への需要が高まったことに加え、経常赤字国の新興国や資源輸出国の通貨が著しく下落したからです。

しかし、4~6月に欧米の経済が再開されると、株式相場だけでなく新興国や資源国の通貨も反発しました。すると米ドルは、一転して下落しそうな傾向を見せ始めました。そして9月1日、米ドル指数は91.746にまで下落しました。

いま、米ドル安が進んでいる理由

米ドル指数が低水準になった原因としては、新型コロナウイルスの感染拡大によるアメリカ経済回復への不安や米中対立などが考えられます。また、そのほかの要因として、アメリカの実質金利がマイナスになっていることや、ユーロ高も挙げられるでしょう。

実質金利が過去最低水準を記録

7月、アメリカの実質金利は10年金利で−0.9%と欧州危機時を下回り、過去最低水準になってしまいました。

実質金利とは、表面上の金利である名目金利から予想物価上昇率を差し引いた値のこと。「実質金利がマイナスになる」とは、物価上昇率が名目金利を上回り、銀行などにお金を預けて利息が増えるペースよりも、モノの価格上昇の方が早くなっている状態です。

つまり、お金の価値が実質的に目減りすることを意味しているのです。

米ドル安に拍車をかけたユーロ高

米ドル指数は、ユーロや日本円、ポンドなど主要通貨に対する米ドルの「強さ」を表していますが、そのうちユーロは半数以上の57.6%を占めています。つまり、米ドル指数はユーロの値動きに大きく影響を受ける指数なのです。

7月1日に1.12ドル近辺だったユーロ/ドルは、8月18日には1.196ドルまで上昇しました。

ヨーロッパの新型コロナ感染が早めに落ち着いたことや、予想以上に経済指標の反発が強かったこともありますが、何よりユーロ圏初というべき共同財政政策「復興基金」が実現に向かったことが背景にあります。

欧州連合(EU)は7月21日の首脳会議で、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた欧州経済立て直しのため、総額7,500億ユーロ(約92兆円)の復興基金の創設に合意したのです。

ちなみに2007年にアメリカのサブプライムローン問題が起きたときも、ユーロ高・ドル安が進みました。今回の新型コロナウイルスの感染拡大でも、アメリカの被害は甚大であり、米ドルからユーロに資金が移動しやすくなっているのです。

金価格の上昇と米ドル安の関係

米連邦準備理事会(FRB)は、新型コロナウイルス感染拡大からの景気回復に向け、あらゆる手段を尽くすとし、政策金利を0%近辺にとどめると表明しました。また、アメリカ景気の下振れを警戒し、金融緩和の長期化観測も強まっています。

金融緩和は世界中で行われており、米ドルやユーロ、円の金利はゼロ近辺になりました。

その影響で、(ゴールド)が連日のように史上最高値を更新しています。これまで約9年間突破できなかった史上最高値を更新し、7月28日に1トロイオンス(貴金属の重量単位)=1,980.57ドルを記録。さらに、8月7日には2,089ドルまで上昇しました。

一般的に、「安全資産」である金は政治や経済が混乱したときに上昇しやすく、米ドルとは互いに逆の値動きをする逆相関関係にあるといわれています。金融緩和により米ドルは大量供給され、その地位は揺らぎはじめています。

したがって、ここでも金価格が上がっているというよりも、米ドルの価値が下がっていると考えられるのです。

ドル安トレンドはしばらく続く?

アメリカの金融緩和策はしばらく継続し、米ドル安のトレンドは続くとみられています。リスク回避の局面では投資家が相対的に安全な通貨とされる円に資金を移すため、円高になるといわれますが、世界的な金利低下により、最近はこうした「リスクオフの円高」は起こりにくくなっています。

しかし、7月31日の米ドル/円が104.18円の安値をつけるなど、円高・米ドル安が進んだことは事実です。今後も米ドル安の流れに伴う円高に警戒したほうがいいでしょう。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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