アメリカの利下げで日本株はどうなる? 市場の金利見通しをチェック
アメリカの金利とインフレをめぐる動きが日本株や長期金利、為替変動に大きな影響を与えています。マーケットでは、FRBが景気下支えのためにどのくらいまで金利を引き下げるかが、2024年の大きな注目ポイントとなっています。
アメリカの金利はこうして決まる
アメリカの中央銀行にあたるFRB(Federal Reserve Board=連邦準備制度理事会)は、アメリカの金融政策を決定するとともに、金融機関を監督・規制し、金融システムの安全性を維持する重要な役割を担っています。
金融政策の決定とは、公定歩合の決定、預金準備率の決定、公開市場操作の主に3つです。このうち公開市場操作は、短期金利の指標であるFFレート(Federal Funds Rate=FF金利)の政策金利としての誘導目標を設定することです。
民間の金融機関は、預金者からの預金残高の一定割合を連邦準備銀行(連銀)に無利息で預ける義務があり、この際に余った預金のやりとりに用いられる金利がFFレートです。
FFレートの決定や景気の判断など重要な金融政策の方向性は、年8回行われるFOMC(Federal Open Market Committee=連邦公開市場委員会)と呼ばれる、金融政策を決定する会合で決められます。
FOMCの会合で話し合われた金融政策については、FRBのメンバー(通常は7人)に加えて、12の地区連銀の総裁から選出された5名の計12名によって、1人1票の多数決で決定されます。
このためFRBメンバーのほか、選出予定の地区連銀総裁(持ち回り)の金融政策への姿勢、とくに利上げに積極的なタカ派なのか、それとも利上げに消極的なハト派なのか、それとも中立かなど、各人のスタンスがしばしば株式市場でも注目材料となります。
緊急利下げから急速な利上げ、そして利下げへ
新型コロナ禍で危機となったアメリカ経済を支えるため、2020年3月、FRBはそれまで2%台だったFFレートを0~0.25%まで緊急利下げしました。
その後は約2年間、大規模な金融量的緩和とともに超低金利政策を継続。政府による巨額の減税や補助金などの財政出動の効果もあり、コロナ禍収束とともに経済は回復しましたが、副作用としてのインフレが加速し、約40年ぶりの物価上昇率を記録する場面もありました。
インフレ抑制のため、FRBは2022年3月にFFレートを0.25%引き上げ、利上げサイクルに移行します。そこから2023年8月まで、過去に例を見ない急ピッチで利上げを続け、FFレートは5.25~5.50%まで上昇しました。
その後はインフレ指標が鈍化したことを受け、FRBはFFレートを据え置き続けていました。
しかし2024年に入り、アメリカ経済に減速の兆候がみられたこともあって、年内のいずれかのタイミングでFRBが利下げに転じる……との見方が優勢になります。マーケットでは、それが「いつなのか」が大きな注目を集めてきました。
9月に開催されたFOMCで、FRBは政策金利であるFFレートの誘導目標を大幅(0.5%)に引き下げ、4.75~5.00%としました。コロナ禍での緊急利下げから急ピッチの利上げを経て、再び利下げへと舵を切ったのです。
FRBが利下げすると日本株はどうなる?
FRBが利下げすると日本株にはどのような影響があるのでしょうか? 過去の利下げ局面における値動きを振り返ってみましょう。
リーマンショックの引き金となったサブプライムローン問題が表面化し、信用リスクが高まった2007年9月、FRBはFFレートの上限を5.25%から0.5%引き下げて4.75%としました。しかしながら信用不安は収まらず、FRBは段階的に利下げを継続します。
2008年9月、ついに大手投資銀行のリーマン・ブラザーズ証券が破綻。FRBは12月に、FFレートを0~0.25%というかつてない水準まで引き下げました。同時に、国債や住宅ローン担保証券などの買い入れも実施し、金融危機に対処しました。
この間の株価を見ると、ダウ平均株価は2007年9月の13900ドルから下げ始め、2009年3月に7000ドル割れまで下落が続きました。その後は金融緩和や財政出動の効果で底入れし、緩やかな上昇トレンドに。再び14000ドル近辺まで回復したのは2013年に入ってからでした。
一方、日経平均株価は、2007年9月の16000円台からリーマンショック直後の2008年9月には一時7000円割れを付けました。その後は底入れしながらも回復は鈍く、16000円台まで再び上昇したのはアベノミクス期待の始まった2013年12月のことでした。
日本株は、アメリカ市場よりも回復までに時間を要したことがチャートからもうかがえます。
今年さらなる利下げが起きたら…
では、今年FRBがさらなる利下げに踏み切った場合、日本株の反応はどうなるのでしょうか?
上で取り上げたリーマンショック前からの利下げ局面では、金融不安が広がり、FRBは断続的に利下げを行いました。しかしながら、今年のアメリカの状況は、このときとは全く異なっています。
現状のペースの利下げであれば、多少の円高ドル安の動きは予想されつつも、日本株にとっては金融緩和によってグロース株などには追い風が吹くこととなり、むしろ株価の下支えとなる可能性が高いと言えそうです。
実際、9月の大幅利下げを受けて、景気後退は回避されるとの見方からアメリカ株は上昇し、日本株にも追い風となっています。
11月、12月の利下げが市場の予想どおり「2回合計で0.5%程度」であれば、景気、金融政策ともに株式市場にとって居心地のよい環境と受け止められて、プラスに働くのではないでしょうか。
ただし、アメリカ経済が失速して想定よりも利下げが早まり、その後も利下げを加速しなければいけないような局面になれば、景気後退による株売りが懸念されます。
金利の見通しはここでチェック
このように、日本株にも大きな影響を与えるアメリカの金利動向は、個人投資家も注視しておいたほうがいい情報のひとつ。そこで役立つのが、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が提供している「FedWatch」です。
このサイトでは、マーケットの利下げ予想(金利見通し)を確認することができます。画面上部の「18 1224」というタブを開くと、今年の12月23~24日に開催予定のFOMCで金利がどうなるか、に関する市場の予想を参照することができす。
この予想は、金利の先物の価格データから分析した確率です。現時点では、4.25~4.50%が8割超と最も高い確率になっています。現状のFFレートから逆算すると、通常0.25%の利上げをあと2回もしくは0.5%の大幅利下げをあと1回行う確率が約8割ある、という意味です。
続いて、左メニューから「Historical」のページを開いてみましょう。ここでは、昨年末時点での2024年末の利下げ回数を見ることができます。
これによると、金利の見通しはFFレート3.75~4.00%が39.73%と予想されていました。つまり、約5回分の利下げが予想されていたことになります。
しかし、今年のアメリカの経済指標は意外にも堅調に推移し、インフレ指標も市場の期待までは落ち込まなかったこともあり、利下げ期待はどんどん後退していきました。ついには「2024年は利下げしないかもしれない」という予想も広がるほどでした。
「FedWatch」で確認できる金利見通しは日々刻々と変化します。日本株のみならず為替や金利を見る上でも、アメリカのインフレ指標やFRBメンバーの発言などに対する注目度は高い状況は、まだしばらく続くでしょう。
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