ファンダメンタルズ初心者が決算短信から絶対に読み解くべき5つのポイント

岡田禎子
2018年7月3日 8時00分

「株価は企業の成長に連動する」——これがファンダメンタルズ分析の根底にある考え方です。そこで、業績動向や外部環境を分析することで業績予想を行い、現在の株価が「割安か割高か」を判断するのです。

そうは言っても、企業が発表するデータは膨大かつ複雑で、何をどう見たらわからないかもしれません。どの数字をどう分析し、どう読み解けばいいのか。「ファンダメンタルズ分析の基本の“き”【実践編】」として、初心者が押さえておくべき5つのポイントを、実際のデータを使って解説します。

【基礎編】株式投資の王道、ファンダメンタルズ分析の基本の“き”

「決算短信」を見てみよう

ファンダメンタルズ分析をするために欠かせないのが企業の財務データです。上場企業は、事業年度ごとに「有価証券報告書」を提出することが義務づけられていて、そこに、会社の概況から事業内容、営業状況、財務諸表といった多岐にわたる情報が盛り込まれています。

ただ、この有価証券報告書は事業年度が終了して3か月以内に提出されるので、それでは投資の判断が遅れてしまうなど、市場の公平性が保たれない状況が起こります。

決算短信には企業の情報がつまっている

そこで、決算内容などの情報を素早く投資家に届けるために、証券取引所が企業に作成を要請しているのが「決算短信」です。速やかに公表する「適時開示」が原則なので、豊富な情報をタイムリーに得ることができ、投資家にとって非常に役立ちます。

決算短信には、年1回の本決算の際に開示される「決算短信」と、年3回の各四半期に開示される「四半期決算短信」があります。いずれも企業のホームページの「IR情報」から入手できるほか、東京証券取引所のデータベース「適時開示情報閲覧サービス(TDnet)」などでも検索可能です。

以下は、資生堂<4911>が2018年2月に発表した2017年12月期の決算短信です。同社は12月末日が決算期日なので、これは本決算の決算短信ということになります(画像をクリックすると企業サイト上の実際の決算短信をご覧になれます)。

四半期ごとに「営業利益」「売上高」「利益率」をチェック

決算短信で最初に見るポイントは「営業利益」「売上高」「利益率」です。企業が利益成長していくには、この3つが最も重要だからです。

ただ、決算短信には累計の前年同期比が掲載されていますが、業績のトレンドを捉えるために、四半期ごとの数字を割り出すことをおすすめします。たとえば、第1四半期は利益が非常に好調だったのに第2四半期で悪化したような場合、累計の数字しか見ていないと、実際は成長が鈍化していることを見逃してしまう可能性があるからです。

そこで、次のような表を作成してみました(決算短信より筆者作成)。これをもとに、資生堂の「営業利益」「売上高」「利益率」をチェックしていきましょう。

・営業利益:成長は加速しているか?

まず「営業利益」では、利益の伸びが加速しているかどうかに注目します。資生堂は、2016年度から2017年度の営業利益はプラス118.7%という大きな伸びを示しています。四半期ごとで見ると、第1四半期(1〜3月期)は9.3%増、第2四半期(4〜6月期)では黒字化、第3四半期(7〜9月期)では91.4%増というように、伸びが加速していることもわかります。

・売上高:強い成長となっているか?

次に「売上高」で業績の伸びを確認します。資生堂の2017年度の売上高は、前年比プラス18.2%。四半期でも、第1四半期9.0%、第2四半期20.4%、第3四半期23.1%、第4四半期20.3%と、いずれも前年同期と比べて成長・加速していることが見て取れます。

・利益率:売上に利益が伴っているか?

「利益率」は動向も重要です。資生堂の2017年度の利益率(売上高営業利益率)はプラス8.0%、四半期ごとでは、第3四半期が前年同期から5ポイント改善、第4四半期も黒字化しています。ここから、採算性が向上していることがわかります。

セグメント情報から「成長ドライバー」を探る

続いて、何が企業の成長の原動力になっているのかを確認します。好調な業績を引っ張っている要因を「成長ドライバー」と言い、ファンダメンタルズ分析によって、なぜ収益性が高いのか、成長を持続することは可能なのか、さらに外部環境などを把握することで、業績予想が可能になるのです。

これは決算短信で、事業ごとに分類された「報告セグメント」の数字を見ることで確認できます。資生堂の売上高の区分を見てみると、日本事業、中国事業、米州事業の順に構成比が高くなっていることがわかります。

一方、利益面から見ると、日本、トラベルリテール、中国の順となっており、前年比の増収率(売上高の伸び)は日本13%増、トラベルリテール79%増、中国22%増と強い伸びとなっています。したがって、これらが同社の高成長ドライバーだと読み取れます。

業界動向や同業他社との比較も忘れずに

最後に、業界統計や同業他社の数字と比較します。それによって、利益が大きく伸びているのは業界全体のトレンドなのか、もしくは業界の動向に乗り遅れていないか、また、その企業ならではの強みや弱みはないか、といったことが把握できます。

ここでは前期の業績ではなく、今期の会社予想の数字を見ましょう。これも通常、決算短信に載っています(ただし、今回の資生堂のように中長期計画を同時に発表した場合は、そちらに掲載されることもあります)。

[売上高/営業利益/利益率]
  • 資生堂 :  103,300百万円/     9,000百万円/ 8.7%
  • コーセー:  300,000百万円/   46,000百万円/ 15.3%
  • 花 王 : 1,540,000百万円/ 215,000百万円/ 14.0%

こうして見てみると、資生堂は、同業他社の花王<4452>やコーセー<4922>、あるいは海外のロレアル<OR>などと比較しても、他社に比べて利益率が低いという課題があることがわかります。

「業績予想」を立てよう

ここまでは業績動向を見てきましたが、ファンダメンタルズ分析の最終目標は「業績予想」をすることです。それには、会社側が発表した経営計画の数字を把握して、その中身を検証する必要があります。つまり、成長の前提と、会社が思い描いているストーリーを理解するのです。

ここでも注目するのは「売上高」「営業利益」「利益率」です。

会社計画から「前提」と「ストーリー」を読み解く

資生堂は今期(2018年度)の業績見通しを、売上高1兆330億円(+2.8%)、営業利益900億円(+11.89%)、利益率8.7%(+0.7ポイント)としています。この数字は、ここまで見てきた業績動向に比べるとトーンダウンしたように見えます。

そこで資料を読み込むと、2019年に新工場が稼働するまでは商品供給に課題があることがわかりました。同様に、原材料価格の動向や、販管項目に無理がないか、設備投資の計画内容などもチェックし、会社計画を達成するには何が課題なのか、それが株価にどう影響するのかを検証していきます。

また、2018年3月に発表された新3カ年計画で、資生堂は、2020年に売上高1兆2,000億円超、営業利益1200億円超、利益率10%超を目指すとしています。資料を見ると、日本や中国、トラベルリテール事業のさらなる成長を前提としていることがわかります。

ただ、中国リスクなど突然の環境変化が起これば、現在の強みは将来の弱みにもなりかねませんので、投資判断にあたっては、そのあたりも十分認識しておくことが大事です。このように、今後何が課題で、何が株価に影響するのかの検証を繰り返すことで、対象企業への理解が深まります。

自分で投資判断できるようになることが重要

アナリストがカバーしているような大型株の場合は、市場コンセンサス(=アナリスト予想)も確認しておく必要があります。というのも、決算内容が市場コンセンサスを上回ればポジティブ・サプライズで株価が急上昇したり、反対に下回れば大きく下落したりすることもあるからです。

しかし、最も重要なことは、会社計画の数字が保守的なのか、それともチャレンジングなのか、計画通りに着地しそうなのか、あるいは目標に届きそうもないのか、といった点について、自分なりの業績予想を持つことです。

自分なりの業績予想があれば、突発的なニュースで株価が急落したので慌てて売ったら、すぐに戻ってさらに伸びた……といったこともなくなります。予想に基づいた長期的な視野で保有し続けたり、割安だと思えばすぐに買いに行ったり、といった投資判断を自分自身で下せるようになるのです。

さらに、自分なりに立てた業績予想と実際の決算内容を比べて、自分の予想はどうだったか、どこが合っていて、どこが違っていたのかなど、常にチェックを繰り返すことが大切です。

企業の「物語」を繙こう

業績動向を確認して、自分なりの業績予想を立てる——これがファンダメンタルズ分析の基本です。数字がたくさん出てくることに苦手意識をもつ方もいるかもしれませんが、それは単なる数字ではなく、企業の成長の物語です。ひとつずつ繙いていく楽しさを感じていただけたら嬉しいです。

そうは言っても、どんなに時間をかけて分析したとしても、100%の予想をすることは誰にもできません。株価も業績も低迷したままなのに「絶対に上がるはず」「いつか戻るはず」と待ち続けて〝塩漬け株〟を増やしてしまわないように、購入した後も定期的に分析することをお忘れなく。

また、言うまでもなくファンダメンタルズ分析は、長期保有による値上がりを期待する手法です(配当や株主優待を狙う場合も同じ)。短期での値上がりを狙うトレードには、ここで紹介した分析はあまり役に立ちませんので、その点もご注意ください。

[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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