株価に大きな影響を与える「外国人投資家」とは何者か? その動向を探る
現在、日本株の6割以上が海外のファンドなどの「外国人投資家」によって売買されていると言われます。彼らは株価にどんな影響を与えているのでしょうか。その動きを見極めることは、相場の動向を見通すための重要な鍵となります。
投資家の動きをつかむには
株式市場には様々なプレーヤーが存在します。東京証券取引所(東証)が定期的に公表している「投資部門別売買動向」を見ると、そうした投資家たちの動きを把握することができます。
その中でも株式市場に大きな影響を与えているのが、売買代金の約6割を占める外国人投資家です。その定義と、彼らがどのような売買手法を行っているのかを詳しく解説していきます。
「投資部門別売買動向」とは?
投資部門別売買動向とは、東証が毎週第4営業日に公表する、個人、外国人、金融機関など投資家ごとの前週分の売買動向をまとめたものです。主に次のような項目に分かれています。
- 投資信託
- 事業法人
- 金融機関(生損保・銀行・信託銀行)
- 個人(現金・信用)
- 外国人投資家
日本株売買の6割以上が外国人投資家
この中で注目したいのが外国人投資家の売買動向です。
日本の上場企業のうち、99%以上が日本に本社を置く〝生粋〟の日本企業です。株主も、多くは国内金融機関や個人投資家で、およそ7割を占めています。外国人投資家は3割程度に過ぎません。
しかし、日本株売買のシェアとなると、外国人投資家の割合が約6~7割に跳ね上がります。
株価形成に影響を与えるのは、株式の保有ではなく、実際に売買を行っているかどうかです。株式を大量に保有していても売買しなければ株価への影響はありません。
さらに、相場動向に影響を与える先物市場においては7~8割が外国人投資家とされ、「日経平均株価が500円以上動く時は背後に海外勢がいる」とも言われています。
「外国人投資家」とは?
投資部門別売買動向における外国人投資家とはどのような人たちなのでしょうか 。
東証は、外国人投資家を「日本国外の住所から出された注文」と定義しています。国籍ではなく、拠点のある住所が国外かどうかがポイントです。
したがって、大手金融機関など日本の機関投資家がアメリカやヨーロッパなどの投資顧問会社に資金を預けている場合も、外国人投資家に分類されることになります。
そうはいっても、外国人投資家の大半は純粋な海外マネーです。ヘッジファンドやコンピューターによるHFT(高頻度取引)も含まれる一方、長期保有の投資家も多くいます。
ただ上記のように、一部にジャパンマネーが含まれているなど、ひとくちに「外国人投資家」と言っても、その投資手法や参加者の顔ぶれは多彩なのです。
外国人投資家の売買手法とは?
外国人投資家のうち長期保有の大手運用会社は、1回あたりの注文金額が多いので、売買金額が大きくなる傾向があります。また、数週間以上にわたって売買の持続性があるため、相場動向を見通す手がかりになります。
日本は製造業が多いので、景気循環の観点から世界景気が良くなると、業績拡大期待から外国人投資家が日本株を買う傾向があります。その中でも、外国人投資家は「TOPIXコア30」など時価総額の大きな企業を好みます 。
TOPIXコア30は、東証1部全銘柄のうち時価総額や流動性の上位30銘柄で構成される株価指数で、主力大型株の動向を判断するのに使われます。各業種の日本を代表する主力銘柄が揃っていることから、外国人投資家の有力な投資対象になっています。
アメリカ市場が及ぼす影響を知る
アメリカの株式市場も大きな影響を与えます。
例えば、ヘッジファンド運用残高の投資地域別構成比を見ると、北米が66.7%。したがってヘッジファンドの運用成績は、多くの資金を投入しているアメリカ市場の動向に一番影響を受けることになるのです。
ヘッジファンドとは、市場が上がっても下がっても利益を追求することを目的としたファンドで、2018年11月末の運用残高は2兆3647憶ドル。日本の株式市場にも大きな影響を与えています。
日興リサーチセンターの調べによると、ヘッジファンド運用残高の投資地域別構成比は以下のようになっています(2018年11月時点)。
投資地域 | 運用残高 | 構成比 |
北米 | 1兆5953億ドル | 67.5% |
ヨーロッパ | 5179億ドル | 21.9% |
アジア(日本を除く) | 1700億ドル | 7.2% |
中南米 | 636億ドル | 2.7% |
日本 | 180億ドル | 0.8% |
全体 | 2兆3647億ドル |
アメリカの株式市場が上昇すれば、ヘッジファンドは含み益を得ることができるので、リスクオン(積極的に投資を行うこと)になり、アメリカ市場から世界中の市場に資金を分散させた投資を行います。その中には日本株も含まれるため、それによって日本株が上昇するのです。
ただ、日本株を専門とする外国人投資家というのは減っていて、日本株を含むアジア株全体、またはグローバル運用の担当者が増えています。そのため、下げ基調が続く中国市場の売りヘッジを、流動性の高い東京市場の先物で行うこともあります。
中国株安の影響が日本の株式市場にも大きな影響を与えるのは、こうした外国人投資家の売りが出ているからだといわれています。
ドル建てで海外勢の心理を探る
外国人投資家、なかでも中長期の投資を行う機関投資家は、日本株投資を行う場合、為替ヘッジをかけないことが多く、投資成果はドルベースで評価されます。
したがって、ドル建ての日経平均株価が海外での日本株に対するセンチメント(市場心理)を表していることになります。
計算方法はシンプルで、日経平均株価をドル円レートで割ります。例えば、日経平均株価が20,000円で1ドル=100円の時は、ドル建ての日経平均株価は20,000円÷100円=200ドルになります。
日経平均株価が変わらないと仮定すると、円安ドル高になればドル建て日経平均は下落し、円高ドル安になればドル建て日経平均は上昇します。
円建てとは違った景色が見えてくる
ここで、日経平均株価とドル建て日経平均株価の過去5年間の動きを比較してみましょう。
日経平均株価は2018年10月2日に24,448.07円をつけ、バブル以来27年ぶりの高値をつけたと話題になりました。
しかし、同じ時のドル建て日経平均株価を見てみると2月につけた高値を超えていないことがわかります。外国人投資家はドル建てで評価されるので、この高値を取りきれないと見て利食い売りを出した可能性があります。
このように、円建ての日経平均株価とドル建ての日経平均株価では見えている景色が違うことがあります。外国人投資家の売買動向とともに、ドル建て日経平均株価もチェックするといいでしょう。
相場を見通す鍵
株式市場で最大の投資主体である外国人投資家の動向を把握することは大切です。特に大幅な買い越しや売り越しが出ると数週間以上の持続性があり、相場動向を見通す手がかりになります。
ただし、その際の注意点は、東証の発表する「投資部門別売買動向」は前週分のデータであり、つまり過去の情報であるという点です。
そのことを念頭に置いて、外国人投資家の動向を今後の参考にしてみてはいかがでしょうか。