年末のIPOラッシュが到来 上がる株・下がる株を見極めるには何に気をつければいいのか
《個人投資家に根強い人気のIPO投資。この年末には、かつてない“波”がやってくると見られています。チャンスをつかみ取るために知っておきたいこと、気をつけたい落とし穴とは》
IPOの大ラッシュがやってくる!
年末恒例のIPOラッシュがまもなく開幕します。
特に2021年は、昨年のコロナ禍による上場延期や相場環境改善の影響を追い風に、10月末までにIPOした企業は84社にのぼります(11月は9社の予定)。12月には30社以上が上場する見込みとなっており、このままいけば、121社が上場した2007年以来、14年ぶりの高水準となりそうです。
2021年の勝率はなんと9割!
IPO(新規株式公開)とは、未上場の企業が株式市場に新しく上場すること。その際、公募という形で広く一般投資家の購入を募ります。購入希望が多い場合は抽選となり、人気銘柄ともなれば当選するのは非常に高いハードルとなります。
そうして公募価格で購入したIPO株を、上場後の初値(上場後に初めて付く値段)で売却することで利益を得る手法をIPO投資といい、「簡単に儲けられる」と個人投資家に根強い人気があります。
実際、過去4年の平均勝率は8割超。2021年も、10月末時点で新規上場84社のうち78社の初値が公募価格を上回っており、確率9割をキープしています。
さらに、上場直後に株価が数倍となる銘柄も珍しくありません。抽選で運よくIPO株が手に入れば、短期間で大きな利益を手にすることができるかもしれません。
IPOの大ラッシュとなる2021年12月は、それだけ多くのチャンスがやってくるということなのです。
IPO投資が勝ちやすい理由
そもそもIPO投資はなぜ勝ちやすいのでしょうか。それは公募価格(公開価格)の決まり方にカラクリがあるからです。
ここで、上場承認から上場までのプロセスを見てみましょう。
- 上場承認が降りて上場が決まると、機関投資家などの需要を探る「ロードショー」が行われ、仮条件を決定
- この仮条件をもとにブックビルディング(投資家に仮条件を提示し、いくらでどれくらい買いたいかを募ること)が行われ、最も申し込みの多かった価格が公募価格となる
- 公募価格が決定すると各証券会社で抽選が行われ、当選した投資家が株式を購入し、企業はめでたく上場となる
注目したいのは、この「公募価格」は常に割安に設定される、という点です。
流動性のない未上場企業が上場する場合、市場の環境次第では初値が公開価格を割り込むリスクがあります。そこで、同業他社などと比較して算出した適正価格からディスカウントし、個人投資家も機関投資家も買いたくなる水準の価格を「公募価格」とするのです。
これを「IPOディスカウント」といい、需給の動向や相場状況を鑑みて、主幹事となっている証券会社が調整を行います。そのディスカウント率は業種やビジネスモデルによってもさまざまですが、平均的に2〜3割程度といわれています。
適正価格よりも2割引き・3割引きで売り出されているわけですから、当然、上場後の初値は公開価格を上回る確率が高くなるのです。
IPO投資の極意
ただし、理論どおりにいかないのが株式相場の常です。実際のマーケットでは「流動性」が重要な鍵となります。
流動性とは、売りたいときにいつでも売れ、買いたいときにいつでも買えることです。もっと簡単に言うと、自分が買ったものがすぐに売れると「信じられる」相場、といった感じでしょうか。
流動性の高い相場(活況な相場)であれば、例えばDXという話題のテーマだけで初値はピョーンと跳ね上がります。株式市場全体が活況なら公募価格が何倍にもなる銘柄が続出しますし、市場が低迷すれば投資家心理が悪化し、新興市場やIPO株に資金が向かわず、流動性が乏しくなって初値も上がりづらくなります。
2021年も、春のIPOラッシュは活況だったものの、その後のマザーズ市場全体の不調を受けて、初値が公募価格を下回る「公募割れ」が続く場面もありました。
IPOの初値に影響するさまざまな要因
年末年始、ゴールデンウィーク、8月のお盆は、IPOがない空白期間となります。そのため、再開後のIPOには資金が向かいやすく、初値が高騰しやすい傾向があります。
また、直前のIPOに影響されやすいのも特徴で、初値高騰が相次ぐと次のIPOも短期筋が飛びつきやすくなり、初値が釣り上がります。ただし、IPOが集中すると初値にはマイナス要因です。資金や投資家の関心が分散されるからです。
公開規模もポイントです。公開規模が小さいほど、公募や売出の株数が少なく需給がタイトになり、競争率が高くなるため初値が飛びやすくなります。公開規模はIPO時の株式価値のことで、発行価格×発行株式数で計算されます。
【公開規模の目安】
- 公開規模が10億円以下 → 初値にプラス
- 公開規模が10〜20億円 → ニュートラル
- 公開規模が20億円超え → 初値にマイナス
このように、IPO市場では初値狙いの短期筋が多いため、ファンダメンタルズよりも外部環境や需給が大きく左右します。
IPOで上がる株・下がる株
では、初値で人気化しやすい=初値が飛びそうなIPO銘柄とは、どのようなものでしょうか?
結論からいうと、投資家がその企業の成長性をイメージしやすい銘柄です。ここ数年人気を集めているのはDXやAI関連で、これは既存事業に変革をもたらす成長イメージがあるからでしょう。また、事業の独自性をもつ企業は利益率が高くなる傾向にあり、価格が釣り上がる可能性があります。
上場する市場のイメージにも左右されます。東証マザーズは成長企業というイメージがあるため初値が上がりやすく、東証2部は老舗企業との印象が強いので初値が上がりにくい傾向があります。実際には東証2部でも成長性の高い企業はありますが、IPO市場では大衆のイメージに左右されるところが大きいのです。
株式市場は美人投票といいますが、IPOはその最たるものと言えるでしょう。
以下は、10月末までのIPO銘柄を、初値売りした際の利益額(初値−公募価格)が多い順に並べたもの。要するに、たくさん儲けられた順です。IT・インターネット関連企業やDX関連、独自性を持つ企業で、東証マザーズの小型案件が多くランクインしていることがわかります。
ちなみに、1位のアイ・パートナーズフィナンシャル<7345>は公開規模が約3億円という超小型案件、3位のベビーカレンダー<7363>は妊娠・出産・育児領域の専門サイト「ベビーカレンダー」の運営会社で、独自性の強い企業でした。
公募割れしやすい銘柄の特徴とは?
8割勝てるといわれるIPO市場でも、2割は負ける──IPO投資では、初値が公募価格を下回って損失が出る「公募割れ」のリスクがあることに注意が必要です。
公募割れしやすいIPOとは、ズバリ、人気のないIPO株です。
例えば、公開規模が大きいと需給悪化が懸念されるために初値にはマイナスになります。個人投資家は株の値動きの軽さを重視しますので、値動きの重い大型案件は警戒されます。また、東証2部への上場は老舗企業というイメージや販売規模も大きいために個人投資家の初値売りが出やすく不人気です。
また、VC(ベンチャーキャピタル)が大株主の場合、上場後に大量の株式が売却される懸念があり、個人投資家から警戒されるために初値形成にはマイナスとなります。
2021年10月末時点での公募割れは5社。3位のドリームベッド<7791>は寝具・リビング家具の開発・製造を手がける企業。IPOで人気のない東証2部&業種で、しかも3社同時上場という状況も重なり、公募割れとなりました。
IPOにも変化の波?
これまでのところ、2021年で最も話題を集めたIPOは、4月に東証マザーズに上場した人材サービスのビジョナル<4194>です。アメリカを含む海外市場での同時募集・売出を行う「グローバルオファリング」を実施。海外への売出比率は約9割で、日本のベンチャー企業では異例の規模となりました。
海外マネーの流入はIPO市場においても増加しており、過去最高ペースとなっています。2022年は東証の市場再編も予定されていることから、IPO市場そのものが大きく変わると予想されています。
《参考記事》東証の市場再編で何が変わる? 3つの新市場の特徴と企業の動きを解説
ともあれ、その前に、来たる12月にはIPOの大ラッシュが控えています。上場延期中の半導体メモリー大手・キオクシアや住信SBIネット銀行、楽天銀行といった話題の企業が上場申請を行った、との報道もあります。これらの企業が上場となれば、大きな話題となるのは必至。
今年の年末もIPO市場から目が離せません。