ひさびさの公募割れゼロ! 巻き返しへの期待が高まる9月のIPO市場を振り返る

石井僚一
2022年10月11日 12時00分

tamayura39/Adobe Stock

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。ただ近年は、そんな「夢の時代」にも陰りが見えてきました。上がる株と下がる株は何が違うのか。ランキングから読み解く【IPO通信簿】》

2022年8・9月のIPO市場

7月までに公募割れが12銘柄も発生し、不調が続いていた2022年のIPO市場。ここまでの公募割れ比率は28%であり、「高い」といわざるを得ません。

しかし、8月・9月はすべてのIPO銘柄で初値が公募価格を上回りました。件数で見ても、8月は2銘柄に留まりましたが、9月は9銘柄がIPO(新規上場)を果たしました。例年、9月からIPO市場の後半戦が始まりまるという流れがあるなかで、今年もその傾向どおりの展開を迎えています。

その一方で、IPO市場の土台といえるマザーズ指数は、9月は下落して終わりました。7~8月は2か月続けての陽線(上昇)でしたが、9月は8月の上昇分以上に下落してしまいました。

マザーズ指数は昨年末から今年2月にかけて大きく下落したのですが、いまだ本格的な反発には至っていません。

(※市場再編により東証マザーズ市場はなくなりましたが、マザーズ指数の算出は継続中のため、このシリーズでは引き続きマザース指数を参照しています)

2022年8・9月のIPOランキング

2022年8月・9月にIPOを果たした計11銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングを見てみましょう。

11銘柄のうち、初値騰落率が100%(=株価2倍以上)を超えたのは2銘柄でした。

公募割れはなく、つまり、この2か月のIPO投資の勝率は「100%」です。公募割れが相次いだ2022年のIPO市場ですが、後半戦は堅調なスタートを切りました。

2022年8・9月の気になるIPO銘柄

2022年8・9月のIPOの中から、特徴ある2銘柄を紹介します。

・eWeLL<5038>──売出株過多も初値上昇率は130%

2022年8・9月のIPOで初値騰落率1位(130%)となったのがeWeLL<5038>です。訪問看護ステーション向けの電子カルテなどをSaaS形式で提供する、大阪本社の企業。業績推移は以下のようになっており、高い成長性と利益率の高さが特徴となっています。

  • 2019年12月期:売上高5.3億円、経常利益▲0.6億円、当期純利益▲0.1億円
  • 2020年12月期:売上高7.9億円、経常利益2.0億円、当期純利益1.8億円
  • 2021年12月期:売上高11億円、経常利益4.0億円、当期純利益3.4億円
  • 2022年12月期(予想):売上高15億円、経常利益5.2億円、当期純利益3.5億円

2019年12月期の若干の赤字から、2012年12月期の経常利益4.0億円まで、2年で急激な成長を果たしました。また今期(2022年12月期)も増収増益の予想です。

近年のIPOでは、AI関連とともにSaaS関連が評価される傾向にあります。同社も、IPOにおける旬のテーマであるSaaSビジネスが評価される結果となりました。また、顧客である訪問看護業界の成長への期待感と、高い利益率も評価されたといえます。

公募時点での予想PERは32倍、時価総額117億円と、比較的高めの価格設定でした。しかし投資家からの評価を受けて、初値時価総額は271億円まで上昇しました。公募50,000株に対して売出1,793,100株と売出株過多のIPOでしたが、SaaSビジネスへの期待がそれを上回ったIPO成功事例となりました。

・FPパートナー<7388>──知名度ある成長企業も初値は伸びず

FPパートナー<7388>は保険ショップ「マネードクター」を全国展開する企業です。次のような成長を続けています。

  • 2019年11月期:売上高164億円、経常利益11億円、当期純利益6.5億円
  • 2020年11月期:売上高173億円、経常利益7.1億円、当期純利益4.2億円
  • 2021年11月期:売上高209億円、経常利益18億円、当期純利益12億円
  • 2022年11月期(予想):売上高240億円、経常利益33億円、当期純利益20億円

特に今期(2022年11月期)は大幅な増益が見込まれています。「マネードクター」はテレビCMなどの効果もあって一定の知名度を獲得しており、業績は拡大中です。

しかしながら、IPOにおける初値騰落率は5.8%に留まりました。初値が公募価格をやや上回ったことで公募割れは免れましたが、初値騰落率は9月の最下位です。ただ、初値時価総額は316億円で、300億円超えとなりました。公募ベースでの予想PERは13倍、時価総額は公募時点299億円でした。

知名度があって成長も続けていますが、その反面、事業がある程度は完成された企業でもあります。

その結果、公募時の予想PER(13倍)を「妥当」と判断した投資家が多かったのではないでしょうか。実際、類似企業としてあげられるアドバンスクリエイト<8798>、アイリックコーポレーション<7325>、ブロードマインド<7343>の今期予想PERは12~35倍です。

IPO全体に資金が行き渡るのはいつ?

9月のIPO市場は、全体として堅調な推移を見せました。しかし、AIやSaaSといったIPOの旬のテーマ以外の銘柄については、引き続き、冷静な目で見ている投資家が多いようです。

10月には、9月と同じく9銘柄のIPOが予定されています。

マザーズ指数はまだ安値圏を推移する状態ですが、それでも、6月にIPOを果たして新興市場を代表する銘柄となったANYCOLOR<5032>が9月に上場来高値を大きく上回るなど、新興市場の回復に向けた動きも見られます。

資金は依然として人気業種に集中する状態ではありますが、そろそろIPO市場全体に資金が行き渡ることになるのかどうか……という点が10月の注目です。

[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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